第37話 ヒナとダンジョン探索 1
歓迎会の翌日ヒナさん達と通学路を歩いていると、午後一緒にダンジョンに行くことになった。
「…アルト君、うちを放置するなんていい度胸しているね?」
「ほ、放置なんてそんなことは…。」
ヒナさんの瞳が暗くなっていく。
僕に女性の機微なんてわからないよ…。
ヒナさんは僕をジッと見つめてニヤッと笑いだす。
「フフフ、冗談だよ?ただ少しジェラっちゃっただけだよ。友達沢山出来てよかったね!」
よかった…いつものヒナさんだ…。
さっきまで感じていた妙な圧は、もうどこにもなく、隣のサクラさんと談笑している。
僕にとヒナさんは何なんだろう。
冒険者の先輩?友達?学校の先輩?
どれもピンとこない…。
マサトやエミリさん、小林さん達とは少し違う気がする。やっぱりヒナさんは僕にとってちょっと特別な気がする…。
「…アルト君?」
ふいに視線が合いドキッとしてしまう。
「は、はい、何ですか?」
「サクラから聞いたんだけど、渋谷ダンジョンは今封鎖されているんだって。だから、新宿ダンジョン行かない?」
渋谷ダンジョンの封鎖…。
やっぱりこの間のイレギュラーが関係しているのかな…。
今もあのマグマトードを思い出すだけで身震いがする。
「…新宿ダンジョンですか?」
「今度クラスのお友達と行くんでしょ?それなら下調べも込みで行くのもありじゃない?」
「…なるほど。確かにそうですね。では、新宿ダンジョンでお願いします。」
僕が事前に下調べすることによってマサトたちの危険を少しでも減らせるなら、やれることはやっておきたいし。
「じゃあ、決定ね!お昼に校門集合ね!」
「はい、楽しみです。」
そう言ってヒナさん達と別れ今日も勉強に励む…。
□
楽しみなことがあるとやはり時間の進みは遅く感じるもので授業が長く感じてしまう。
「…授業位はちゃんと聞いてください。」
ぼーっとしていたら隣のエミリさんに注意されてしまった…。
「まったく。ちゃんとノートはとっているんですか?」
「…一応?」
エミリさんは僕のノートをチラリ、
「…何語ですかそれ?」
「…日本語です…。」
「まったく、貴方という人は本当に、まったく。」
まったくってそんなにいっぱい使う言葉だっただろうか…。
「…あとでノートを見せてあげますのでちゃんと書き直してください。」
「…はい。」
僕のことを見下しているのか、助けたいのかよく分からない人だけど、本当に助かるなぁ…。
「…何ですか?」
「…あっ、いや、その、ありがとうございます。」
「…ふん。」
本当にありがたいですよ?
◇
4限目まで授業が終わり午後僕は約束通りにヒナさん達を校門で待っていた。
新宿ダンジョンかぁ。
パンフレットでしか読んでいないけどこんな感じらしい。
◇新宿ダンジョン◇
通称【ゴジラダンジョン】
駅から近く、洞窟型のダンジョンらしい。
新宿東宝ビルがダンジョン化してしまい役所ではなく東宝が買取り運営をしているらしい。
昔は映画館だったらしいけど、今じゃもう見る影もない。
ダンジョン内は壁に宝魔石が埋まっていて昼間みたいに明るく、本物の宝石が採れることもあるらしい。
運が良ければ数十万円の宝石が見つかるとも書かれていた。
だからこそ入場料も1万円と高い…。
更に獲得物の20%をギルドに納めなきゃいけないらしい…。
それでも、他のダンジョンより稼げるらしく、一攫千金を夢見る冒険者達に人気の場所だそうだ。
僕は宝石なんて見たことは無いけど、ヒナさんなら見慣れているのかな。
ヒナさんは人気配信者だし、そういう高そうな物にも詳しいのかな。
「お待たせ~!それじゃ行こっか。」
「待たせてしまったわね、お昼ご飯はもう食べたかしら?」
考え込んでいたらヒナさん達が来ていたようだ。
お昼ご飯はまだ食べていないことを伝えると新宿にサクラさんお勧めのお店があるとのことでそこに向かうこととなった。
◇
電車に乗ったらあっという間に新宿に着いた。
平日だというのに人が多くとても混雑していた。
新宿はとても久々に来たなぁ…。
ヒナさんもサクラさんも人の間をスイスイ進んで行ってしまう…。
なんでこんなに人がいるのにぶつからないで進めるんだろう…?
「ほら、アルト君遅いよ?」
そう言ってヒナさんは僕の裾を引っ張ってくれた。
ヒナさんの指先が制服越しに伝わってくる。
ただ裾を引っ張られているだけなのに、どうしてこんなに意識してしまうんだろう?
…な、なんだかこれ手を繋いでるみたいで、で、デートみたいだ…!
「私もいるんですけど?」
いつの間にか隣にいたサクラさんが半眼でこちらを見ていた。
「あっ…。」
「今完全に私の存在忘れてましたよね?」
「ぼ、僕に言われましても…。」
「アルト君、サクラは放っておいて行こっか。」
「ちょっとヒナ!?」
「冗談だよ♪」
「絶対冗談じゃないでしょ!」
目的のお店はダンジョン近くにあるらしくサクラさんが先導して案内してくれた。
喫茶店…?
辿り着いた先はちょっと古い喫茶店だった。
外壁が蔦で覆われており外から見たらやや廃墟みたいな見た目をしている。
僕一人だったらお店だとは気づかなそう…。
「マスター、今日は3人でお願いします。」
「おぉ、サクラちゃんいらっしゃい!ゆっくりしていってね~。」
マスターと呼ばれたおじさんはそう言ってお店の奥に消えていったと思ったら、すぐにお冷を僕たちの席に運んでくれた。
お店は、僕たち以外に誰もおらず閑古鳥が鳴いていた。
「…サクラさんこのお店、経営大丈夫なんですか?今お昼ですよ?」
「…失礼ね。」
サクラさんがジト目になる。
「この店は知る人ぞ知る名店なのよ?」
「そうそう。」
マスターがコーヒーを置きながら笑う。
「うちは冒険者専門店だからね!」
「えっ?」
冒険者専門?
僕が首を傾げると、
ヒナさんがメニューを開きながら笑った。
「アルト君、ここの料理ね。」
「…はい。」
僕は思わずごくりと喉を鳴らす。
「全部バフ付きだから!」
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