第36話 2次会《カラオケパーティー》
2次会会場のカラオケに来た僕は、いつの間にかに隣にいた小林さんに話しかけられた。
「田中くんが来るの意外だったよ~!」
「そ、そうかな?」
「うん!なんだか真面目そうだし!」
「…。」
何て返せばいいのか分からず曖昧に笑ってしまった。
「実はね~、私はカラオケ初めてなんだぁ!」
「えっ?」
思わず声が出た。
「…そうなの?」
「そうそう!」
小林さんは嬉しそうに頷く。
少し意外だ、小林さんはこう言っちゃアレだけど、少し遊び慣れている人に見えたから。
それに、こんな僕に明るく話しかけてくれたし…。
「私の家さ、お母さんしかいなくて兄弟も多いんだよね~。」
「兄弟多いの?」
「5人兄弟!」
「ご、5人!?」
思わず驚いてしまった。
「だから結構お金が掛かるんだよね~。私もアルバイトしたり、探索で稼いだお金を家に入れたりしてるんだ。」
そう言いながらも、小林さんは全然暗い顔をしていない。むしろ当たり前みたいに笑っている。
小林さんはなんだかすごい人だな。
「だからカラオケとかあんまり来たことなくてさ!今日はちょっと楽しみにしてたんだ~!」
「……そうなんだ。」
なんだか少し意外だった。
とても明るいから、そんな事情があるなんて思わなかった…。
「あれ?田中くんは?」
「えっ?」
「カラオケ慣れてそうじゃん!…イケメンだし。」
「いや、その…。」
少し言いづらかったけど、小林さんになら言ってもいい気がした。
「…その、僕も、初めてなんだ。」
「えっ!?マジで!?」
小林さんが目を丸くした。
「じゃあ仲間じゃん!」
そう言って笑う彼女を見て、少しだけ肩の力が抜けた。
「だから正直何を歌えばいいか分からないんだ…。最近の流行とか分からないし…。」
「好きな歌を歌えばいいんだと思うよ?」
「…長渕剛とかになっちゃうよ?」
「ぷっ…アハハハハハ!昭和人じゃん!でも、私のお母さんも聞いてたりするから私も少しは知ってるよ!」
「…音痴かもしれないし…。」
「歌なんて上手い下手じゃないと思うよ?それに、私も人のこと言えないし。」
「そういうものなのかな…。」
「そういうものだよ!」
力強く頷かれてしまった。
すると、部屋の中央でマサトがマイクを持って立ち上がる。
「よ~し!それじゃあ2次会スタートだ!」
「「おぉ~!」」
クラスメイト達が一斉に盛り上がる。
「まずは言い出しっぺの俺からな!」
そう言ってマサトが曲を入れる。
流れてきたのは熱血系のアニソンだった。
アニソンって大勢の前で歌う人はいないと思っていたけど全然普通に歌う人っていたんだ…。
「うおおおおおおっ!!」
曲が始まった瞬間、マサトは立ち上がったまま全力で歌い始めた。
上手いか下手かで言えば、多分上手くはないと思う。
でも――
「いぇぇぇぇい!」
「マサトー!声でけぇー!」
「近所迷惑だぞー!」
クラスメイト達は大盛り上がりだった。
…なるほど、こういう場所なんだ。
上手い歌を披露する場所じゃなくて、みんなで楽しむ場所。
何で僕は、緊張していたんだろう…。
「ほら!」
隣から小林さんがリモコンを差し出してくる。
「田中くんも何か入れなよ。」
「えっ、もう?」
「そのうち順番来るんだから早めに予約しといた方がいいよ?」
言われて画面を見る。
おそらく最近の曲名と思われる曲がずらりと並んでいた。
…全然分からない、本当に一つも分からない。
「どうしよう…。」
「長渕剛でいいじゃん!」
「…本当に?」
「むしろ聞いてみたい、かも?」
そんなことを言われると余計に緊張する。
だけど、せっかく歓迎会に来たんだ。逃げるのは違う気がした。
僕は恐る恐る検索画面を開いて、入力をしていく。
そ、送信!
ピピッ!
画面の上部に僕が入れた楽曲の名前が表示された。
ふぅ…登録してしまったからにはもう後には引けない…。
そうこうしているうちにマサトの熱唱が終わったようだった。
「っしゃぁぁぁぁ!」
「何に勝ったんだよ!」
「お前歌詞間違えてただろ!」
「細かいことは気にすんな!」
部屋中が笑いに包まれていた。
どうやら多少音程を外そうが歌詞を間違えようが、誰も気にしていないらしい。
少しだけ安心した。
その後もクラスメイト達が順番に歌っていく。
流行りの曲。
アニメの主題歌。
ボカロ。
バンド曲。
みんな思い思いの曲を入れて楽しんでいた。
そして――
【次の曲です】
モニターに表示された文字を見て、僕の心臓が跳ねた。
来てしまった…。
「おっ、アルトの番じゃん!」
マサトが気付いた。
「田中くん何入れたのー?」
小林さんも身を乗り出してくる。
お願いだから期待しないでほしい。
いや、本当に。
そして表示された曲名を見たクラスメイト達が静かになった。
「「「………。」」」
なんだろう、嫌な予感がする。
ダメだったかな…。
『乾杯』
表示された曲名を見て、部屋の空気が止まった。
「渋っ!!」
誰かが叫んだ。
「高校生の選曲じゃねぇ!」
「父さんが車で流してるやつだ!」
「田中くん何歳!?」
一斉にツッコミが飛んでくる。
うぅ…やっぱり変だったかな…。
「アハハハハ!」
小林さんがお腹を抱えて笑っている。
「本当に長渕剛じゃん!」
「だから言ったじゃん…。」
恥ずかしくて帰りたい。
でも、入れてしまった以上は歌うしかない。
僕は震える手でマイクを握った。
し、勝負だ!
♪◇♪
そして前奏が流れ始める。
不思議だった。
曲を聞いた瞬間、少しだけ緊張が消えた。
この曲だけは知っている。
父さんがよく車で流していたから。
昔、何度も聞いた。
昔、両親と何度も口ずさんだ。
だから、歌える。
最初のフレーズを口にした瞬間、さっきまで騒いでいたクラスメイト達が、少しだけ驚いたような顔をした。
「あれ?」
「…。」
「意外と上手くね?」
そんな声が聞こえた気がした。
気づけば、さっきまで騒いでいたクラスメイト達も普通に聞いていた。
歌い終わる頃には、自然と拍手してくれた。
よかった…浮かなかったみたいだ…。
「「車で流れてそう!」」
…褒められているのか分からないなぁ。
でも、笑われている感じではなかったので恥ずかしくはない。
「ほら見ろ~!」
小林さんが薄い胸を張りながら得意げに言う。
「だから好きな歌でいいって言ったじゃん!」
「…そうだね、ありがとう。」
少しだけ照れ臭かった。
すると今度はマサトが立ち上がった。
「よし!次は佐藤さんだな!」
「…は?」
エミリさんの眉がぴくりと動く。
「…歌いませんが?」
「えー!」
「せっかくの歓迎会だぞ!」
「一曲くらいいいじゃん!」
クラスメイト達からもブーイングが飛ぶ。
エミリさんは露骨に嫌そうな顔をした。
「私は別に歓迎会の主催側でも参加者でもありません。監視役です。」
「何の監視だよ。」
「そこ間男の監視です。」
…僕を見るのやめてくださいよ。
っていうか、いつまで続くんだろう、その呼び方…。
あっ、睨まれてしまった…。
どうやら、どうしてもその呼び方はやめてくれないらしい。
「ほらほら~!」「歌え歌えー!」「佐藤さ~ん!」
周囲の圧力に押されたのか、エミリさんは盛大なため息を吐いた。
「…はぁ、一曲だけですからね。」
「おぉぉぉぉ!」
歓声が上がる。
そして流れ始めた曲は、意外にも静かなバラードだった。
普段の彼女からは想像もできない選曲。
歌声も綺麗だった。
部屋が自然と静かになる。
「…。」
す、すごい。
魔法だけじゃなくて歌まで上手いんだ。
曲が終わるとみんなエミリさんに話しかけに行く。
エミリさんは不機嫌そうに席へ戻ってくる。
「だから嫌だったんです。」
「いやいやめちゃくちゃ上手かったって!」
「…何を見ているんですか、間男っ!」
「…えっ、あっ、いや…。」
飛び火が僕の方に飛んできてしまった…。
◇
時間は進み話題は自然と歌から探索の話になった。
「そういえばアルト、今度新宿ダンジョン行くのか?」
マサトが思い出したように言った。
区役所の話を覚えていたんだ…。
「うん、白川先輩なしでどこまで行けるか知りたくて。」
「新宿は初心者向けの層も多いし、宝石洞窟型で結構人気だぞ。」
僕は区役所でもらった冊子を思い出した。
「今度行こうと思ってるんだ。」
「なら俺も行くぞ。」
真っ先にマサトが手を挙げた。
「えっ?」
「友達だろ?」
友達か…うん、マサトは友達だ。
あらためて、そう思うと少し恥ずかしくなってくるなぁ…。
すると、
「私も行っていい?」
小林さんも手を挙げた。
「行ってみたかったけど、一人だと少し不安だったんだ、ダメかな?」
さらに、
「…仕方ありませんね。」
エミリさんまで口を開いた。
「えっ?」
ま、まさか…。
「私も行きます、間男が勝手に死なれても困りますので。」
後ろから攻撃されないよね…?
大丈夫ですよね?
とりあえず睨まれたけど、多分大丈夫みたいだ。
「じゃあ決まりだな!今度の休日、新宿ダンジョン探索!」
「おー!」
小林さんが明るく拳を挙げる。
御兄弟の為にいっぱい稼げるように僕も頑張んないと。
ほんの数日前まで、一緒にダンジョンへ行く相手なんてヒナさん達以外に一人もいなかったのに。
気づけば、隣にはマサトがいて、小林さんがいて。
…しかも、あのエミリさんまでいる。
なんだかとても不思議に思える。
…速く休日になってくれないかな。
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