第33話 渋谷区役所にて
渋谷区役所に着いた僕たちは、いつものように受付番号札を取り椅子に座って待っていた。
「ふ~ん、俺はいつも地元の市役所でやっているから分からなかったけど、区役所の中はあまり変わらないんだな。」
マサトがそんなことを言いながら周りをキョロキョロ見渡していた。
佐藤さんはというと、
「もうすぐお姉ちゃん、もうすぐお姉ちゃん…。」
小さく身体を揺らしながら、ずっと呟いていた。
家に帰れば会えるんじゃないの…?
佐藤さんは美人な人なのにとても残念な人だって初日で気づいてしまったよ…。
【5番札をお持ちの方は冒険者カウンターまでお越しください。】
呼び出し音声が流れ僕が立ち上がると、マサトが感心したように口を開く。
「モニターと音声での呼び出しなんだな、俺の地元だと受付のおばちゃんが声で呼ぶんだぜ?都会って凄いよな。もう1年以上もいるのに未だになれないぜ…。」
「マサトはどこか地方から来たの?」
「いや~、地方ってほどじゃないんだが、…青梅の方から来たんだよ。」
いや、青梅だって東京じゃん…。
「お前は渋谷に住んでんだろ?めっちゃ都会じゃん!すげぇよ!」
「…別に僕が家賃払っているわけじゃないし、何も凄くないよ?」
本当にそうだ。
僕は義父さんたちのおかげで生活できているんだから。
「…ふ~ん。都心に住んでいても考えることは一緒なんだな!」
マサトは快活に笑いそれ以上は何も言ってはこなかった。
「お姉ちゃん、もうすぐお姉ちゃん…。」
…。
僕は、マサトと佐藤さんを連れ冒険者カウンターに向かった。
◇
いつも通り冒険者カウンターのブースに入ると佐藤さん(姉)が僕たちを出迎えてくれた。
いつもこのカウンターにいるのだろうか?
僕が来ると、なぜか佐藤さんが対応してくれることが多い気がする。
まぁ、職場だから当たり前か。
「田中様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
いつも通り、落ち着いた営業スマイルを浮かべていたが――
「お姉ちゃん…来ちゃった♪」
「…エミリ…職場には来ないでって言ってるでしょ?」
佐藤さん(姉)は慣れているのか苦笑しながらも佐藤さん(妹)を受け入れていた。
「…ッンン!失礼しました。ご用件をお伺いいたします。」
凄い…緩んだ空気を一気に戻した。
これがバリキャリってやつなのかな。
「…今日は冒険者カードの更新に来ました。」
「更新ですね、承知いたしました。カードの提出をお願い致します。」
僕は言われるがままにカードをトレイに載せ佐藤さんに提出した。
「ありがとうございます。では確認いたしますね。」
佐藤さん(姉)はカードを受け取ると、手慣れた動きで端末へ通し始めた。
「はぁ、お姉ちゃん…仕事している姿もカッコいい…。」
…初めて話した時のあの出来る人のオーラはもう一切感じさせないなぁ…。
「…佐藤さんは何でそんなにお姉さんのことが好きなの?」
「…聞きますか?お姉ちゃんと私のヒストリーを!」
佐藤さんの目がキラキラ輝き始めた。
…まずい。
なんだろう、この嫌な予感は…。
「いや、別にそこまで――」
「では語りましょう。」
聞いてないのに始まってしまった。
「まず私とお姉ちゃんは、幼少期から常に一緒でした。」
「へ、へぇ…。」
姉妹なんだから当たり前では…?
でもここで口を挟んでしまったら嫌な予感がするので何も言わないでおこう…。
「お姉ちゃんは昔から完璧でした。成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、まさに才色兼備!」
「…。」
いや、それはなんとなく分かる。
「そして何より優しい。」
佐藤さんは胸の前で手を組み、うっとりした顔になる。
「…幼稚園の頃、転んだ私の膝に絆創膏を貼ってくれた時から、私は理解したのです。この世に神は実在すると…っ!」
重い。
「小学生時代には、お姉ちゃん親衛隊を結成しようとしたこともありました。」
「待って。」
「ですが、お姉ちゃん本人に泣きながら止められたので解散しました…。」
止められたんだ…。
隣を見ると、佐藤さん(姉)が片手で顔を覆っていた。
「エミリ…お願いだから職場でそれ以上話すのやめて…。」
佐藤さん(姉)の後ろの職員さん達がニコニコ笑っているのが見える…。
確かに職場で話されたら恥ずかしいですよね…。
「さらに中学時代!」
それでも、佐藤さん|《妹》は止まらない。
「お姉ちゃんは生徒会長として君臨し――」
「エミリ?」
「はい。」
ぴたり。
佐藤さん(妹)が一瞬で静かになった。
すごい…。
お姉さんの一声で制御されてしまった…。
「…田中様、申し訳ありません。妹が騒がしくて。」
「い、いえ…。」
むしろちょっと面白かった。
「でもまぁ、仲がいいのは伝わりました。」
僕がそう言うと、佐藤さん(妹)が胸を張る。
「当然です。お姉ちゃんとの絆は世界一なので!」
「そこ張り合うものなの?」
「ちなみに今朝も同じ家を出た後、三分後にはお姉ちゃんロスになりましたっ!」
「重…っ。」
思わず口から漏れた。
すると、マサトが腹を抱えて笑い始める。
「アハハハ!やっぱ佐藤さんおもしれぇな!」
「…竜ケ崎さん、あとで凍らせますよ?」
「怖ぇ怖ぇ。」
そんなやり取りをしている間にも、佐藤さん(姉)は慣れた手つきでカード更新作業を進めていた。
…本当に大変そうだな、お姉さん。
◇
カードの更新が終わったようで返却された。
~田中アルト 16歳~ Dランク
加護 :天照大御神
スキル:?????の記憶(封)
炎系統魔法 初級
氷系統魔法 初級
パリィ new!
スキルが増えてる…。
前までは、謎スキルと炎と氷しかなかったのに!
パリィ?何のスキルだろうか?
「佐藤さん…パリィって分かりますか?」
「そんなこと――」
「エミリは喋らなくてもいいから!えっと、武術系統のスキルですね。発芽おめでとうございます。」
ゲームと同じ感じなら攻撃を弾いたりするものだと思うんだけど、それはスキルが無くても出来るしなぁ…。それに、とても地味だ…。
「確かに地味なスキルですが、パッシブスキル…常時自動発動スキルの中ではとても重宝されるスキルですよ?」
「どんなスキルなんですか?」
「攻撃を弾く際、少量の魔力と引き換えに武器の破損を防いでくれます。」
この情報は僕にとって、とても有益なものだった。
魔力視を使っていた時は魔物の攻撃を弾いて魔力を利用していたし、最近では、佐藤さん(妹)の陣系魔法を弾く時も、ナイフが壊れないか気にしながら戦っていた。
これからは、防御するときはナイフを気にしなくても良くなるのはとてもデカい。
「それに、パリィは受け流しに補正が掛かるスキルです。武器破損軽減だけでなく、衝撃緩和や軌道制御も多少補助してくれます。」
「…なるほど。」
つまり、さっきまで自力でやっていたことをスキル側がサポートしてくれるってことか。
「まぁ、それでも使い手本人の技量は必要ですけどね。」
「…。」
結局は自分次第ってこと、か…。
「それと田中様…今後私のことはエリナと呼んでください。妹と紛らわしいので。」
「ちょ、お姉ちゃん!こんな間男に名前を呼ばせないでよっ!お姉ちゃんを危険に曝したんだよ?」
「でも、結果的には一番頑張って助けてくれたでしょ?」
「うぅ…。…っ!それなら私を名前で呼んでください!」
何を閃いたのか佐藤さん(妹)は僕にそんなことを言ってきた。
「…エミリ、さん。」
同年代の女の子を名前で呼んだことのない僕にはハードルが高いような…。
少し恥ずかしいけど、佐藤さん(妹)からの圧が凄くて僕には断れそうにない…。
「おう、よろしくな!エミリ!」
マサトは我関せずかと思いきや、ぶち込んできた。
す、すごい!そんな、しれっと名前呼びが出来るなんて…。
…いや、違う。
マサトは僕に目配せしてきた。
どうやら、僕が恥ずかしがっているのを察して空気を読んでくれたようだ。
「貴方に名前呼びを許した覚えはないのですが?」
「へいへ~い。」
「まったく…。分かりましたね?間男さん?」
「…はい。エミリ、さん。あっ、エリナさん。」
「ふふふ、はい、何でしょうか?」
「今度、新宿ダンジョンに行ってみたいのですが、何か情報はありますか?」
「意欲的でとても良いですね!新宿ダンジョンですと、こちらの情報がございます。」
そう言って僕に新宿ダンジョンの情報冊子を渡してくれた。
「そちらは、無料配布しているものなので参考用に読んでみてください。」
「はい、ありがとうございます。……それでは、失礼します。」
「またのお越しをお待ちしておりますね。」
そう言って、頭を下げ僕たちはブースを出た。
「…。お姉ちゃんの名前…呼ばせてしまった。」
…本当にブレない人だな…。
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