第32話 友達《フレンド》
佐藤さんは本当に強かった。
多分、近接戦だったら僕の方が強いのだろう。
でも、魔法を巧みに使って寄せ付けない狡猾さ、魔法の種類が彼女の強さを際立たせているのだろう。
それに昇華を3回もしたと言っていた。僕も最近冒険者になったばかりだけど、昇華の大変さはなんとなくわかる。
それに昇華はするごとに次の昇華までに掛かる時間が増えていくと佐藤さん(姉)が教えてくれた。
地面に座り考え込んでいるとマサトが試合をする番になっていた。
「じゃあ、行ってくるな!」
マサトは軽快な言葉を残しステージ上に登って行った。
マサトは武器は持っておらず、手に布を巻きつけていた。
おそらく拳闘士なのだろう。
僕の周りにはマサトみたいに戦う人はいなかったので、どんな風に戦うのかと見るのが少し楽しみだった。
マサトはさっきの軽快な足取りでステージ中央へ向かっていく。
対戦相手は、長槍を持った他クラスの男子生徒だった。
身長も高く、いかにもリーチで圧倒するタイプに見える。
「おー、相手マサトか。」
「また派手にやるぞあいつ。」
周囲の生徒たちがざわついている。
どうやらマサトもそれなりに有名人らしい。
「両者準備はいいな?試合開始!」
試合開始と同時に、槍使いの男子生徒が距離を取る。
当然だ。
拳闘士相手に距離を詰められるのは危険なのだろう。
でも――
「おっせぇ!」
次の瞬間、マサトの姿が消えた。
「――っ!?」
違う。
速すぎて見失ったんだ。
地面を爆ぜるように踏み込み、一瞬で槍使いの懐へ潜り込む。
身体強化系統のスキルなのか、踏み込みの瞬間だけ爆発的に加速している。
速いっ!
「近接戦は、距離に入った時点で俺の勝ちなんだよ!」
マサトの拳が放たれる。
ドンッ!!
空気が震えるほどの衝撃音。
男子生徒は咄嗟に槍で防御したようだけど、そのまま数メートル吹き飛ばされた。
…重い。
武器も持っていないのに、純粋な身体能力だけで相手を押し潰している。
「うぉぉ!?マサトまた速くなってね!?」
「昇華したって噂マジだったのか!」
観客席が盛り上がる。
マサトも昇華していたんだ…。
マサトの攻撃はそこで終わらなかった。
吹き飛ばした相手へ追撃するように、一気に距離を詰める。
拳、肘、蹴りをうまく使用し、連撃に次ぐ連撃、まるで嵐みたいだった。
一発一発が重いのに、途切れない。
相手に立て直す暇を与えていないんだ。
「ぐっ…!」
槍使いの男子生徒は必死に距離を取ろうとする。
でも、マサトはそれを許さない。
「逃がすかよっ!」
踏み込んでの右ストレート。
その瞬間、空気が弾けた。
「――っ!?」
槍使いの男子生徒が場外ギリギリまで吹き飛び、尻もちをつく。
「そこまで!勝者、竜ケ崎マサト!」
歓声が上がる。
マサトは軽く汗を拭うと、いつもの調子で笑った。
「いやー、危ねぇ危ねぇ。」
…全然危なく見えなかったんだけど。
でも、なんとなく分かった。
冒険者学校は、ただ強い人が集まっているわけじゃない。
それぞれが、自分だけの戦い方を持っている。
佐藤さんみたいな魔法陣術師。
マサトみたいな拳闘士。
僕は魔法も、近接も、まだ中途半端だ。
でも――
僕も、この学校で魔力視にも神威解放にも頼らない、僕だけの戦い方を見つけてみたい。
◇
実習授業はあっという間に終わり4限目に入った。
けれど、さっきの模擬戦で体力を使い果たした僕には、英語教師の声がまるで子守歌みたいに聞こえる。
頭がぐわんぐわんする。
…瞼が重い。
…だめだ、とてつもなく眠い…。
「…しっかり授業を聞いていて下さい、間男。」
隣の席から、佐藤さんの冷たい声が飛んできた。
「…っ起きています。大丈夫です。」
「…初日から思いやられる人ですね…、まったく。」
授業終了後ノートを確認するけど、なんて書いてあるかわからなかった…。
案の定また佐藤さんがノートを貸してくれて何とかなった。
そして普通高校の場合、これからお昼休みになるところだが冒険者学校では午後に授業が行われていない。
生徒の自主性に重きを置いて、部活動、ダンジョン探索、配信活動と様々な活動を推奨しているらしい。
この後どうしようかな…。
ヒナさん達の所に行くか迷っていたらマサトが声を掛けてくれた。
「アルトはこの後どうするんだ?」
「ちょっと迷っていて、ヒナさ…上級生の先輩の所に行こうかなって。」
「そうなのか…せっかくこのクラスに入ってきたから歓迎会みたいなことしたかったんだが…。」
歓迎会…。
人生で1度もやってくれた人はいなかった…。
僕が参加していいのだろうか?
「…ありがとう。せっかくだから、その…僕も参加しても…いいかな?」
「…?」
マサトが首を傾げ止まってしまった。
しまった…やっぱり僕が参加しちゃダメだったのかな…。
調子に乗り過ぎてしまった…。
そんなことを考え恥ずかしくなった僕は逃げるように席を立とうとした。
すると、いきなりマサトが吹き出した。
な、なに…?
馬鹿にされてるのかな…。
「ばっか、お前。アルトお前が主役なのに、参加してもいいの?、っておかしいだろ?アハハ!」
…あぁ、僕も参加して良かったのか。
よかった…馬鹿にされていた訳じゃなかったみたい。
マサトはそのまま視線をそらし隣の席の彼女に声を掛けた。
「佐藤さんは?」
「…なんで私が――」
「そういえば、アルトぉ?」
マサトが佐藤さんの言葉を遮るように僕に話しかけてきた。
「…な、なに?」
「お前冒険者カード更新しに行かないか?渋谷区役所にさ。」
マサトはそう言って佐藤さんの方をチラ見。
「行きます。間男の監視役が必要なので。さぁ、早くお姉ちゃんに会いに行きましょう。」
変わり身が早い…。
そうして、僕たちは渋谷区役所に向かったのだった。
余談だけど、その日の昼はワクドナルドでハンバーガーを食べました。
面白いと思ったら、コメント、フォロー、評価をお願いいたします!
とても、励みになります!




