第29話 学友《クラスメイト》
ガラガラと扉が開かれた。
その先には、少し違うが一年前まで見ていた風景が広がっていた。
机に椅子、黒板がありその風景は中学校とあまり変わらない。
ただ一点違うところがあった。
教室後方にはロッカーの代わりに武器保管棚が並び、木剣や防具が整然と収納されていた。武器や防具が並ぶ光景は、普通の学校ではまず見ないものだろう。
さっき窓から部活動の朝練を見ていて分かる通りまだ生徒はあまり集まっておらず、教室には数人の生徒しかいなかった。
その僅かな生徒と目が合った。
ふいに目が合ってしまったものだから、僕は目を逸らしてしまった。
「…おいおい田中よ、そんなんじゃ先が思いやられるぞ…。」
分かっている…。
でも、中学校の時と同じになるんじゃないか?と不安に駆られてしまうんだ。
でも、そういえば伊藤先生は僕の目について何も言ってこなかったな。
Dサバイバーって気づいているはずなのに…。
僕の視線で僕の不安に気付いたのか伊藤先生がフォローをしてくれた。
「…あぁ、そう言うことか。目気にしてんだろ?まぁ、分からんでもないが、そんなことを気にする奴が冒険者になれるわけないだろ?胸張ってけ、胸を。」
そうだ、ヒナさん達も僕を否定しなかった。
僕も過去と踏ん切りをつけて前に進もう…。
「…よし!ってもまだ10分くらい早かったな。席は窓際の席の予定だから、とりあえず、座っとけ。」
伊藤先生に促され自分の座席と思われる席を見ると、隣の席には茶髪の女生徒が着席して本を読んでいた。
「あいつは佐藤だ。何か困ったことがあったらあいつを頼れ。あいつは学年主席だからな。」
学年主席…。
僕たちは一年生だ。つまり入学試験を1位で突破した人ってことになる。
僕は武田先生との模擬戦だけで終わったので、通常の入学試験がどのようなものかは分からない。でも、学年主席ってことは何か特出しているってことなのだろう。
伊藤先生はそう言って教卓横の座席に座って居眠りを始めてしまった…。
…自由過ぎるなこの先生…。
仕方がないので、言われた通り自分の席に向かっていき隣の彼女に挨拶をしようとしたが――
「…あ、あの!お、おはようございましゅ!」
噛んでしまった。
恥ずかしい…。ヒナさん達でなれたと思っていたけどやっぱりまだ同世代は苦手みたいだ。
「ふふふ…失礼しました。おはようございます、転入生さん?」
笑われてしまった。
顔がどんどん熱を帯びて赤くなっていっているのが自分でもわかる。
「は、はい。今日から同じクラスになります!よろしくお願いします。…何を読んでいるんですか?」
改めてみるととても綺麗な子だなぁ。
まつ毛も長く肌も白い、ヒナさんとは違った魅力を感じる。
言うならば、配信ウケがとてもよさそうって感じだ。
パンフレットに書いてあったけど、この学校は配信活動を推奨している。
理由としては、生存の確認と救援のためらしい。
だから、配信用にインフラ設備の斡旋まであるらしい。
「よろしくね。この本は、魔法陣理論Aの参考ですよ。」
魔法陣理論A…。
魔法は基本的にスキルで担うことが出来るとサクラさんに教わった。
でも実はスキルに頼らなくても魔法は行使することが出来る。
方法としては、魔法陣の活用だ。
魔法陣を使うことで、魔力と詠唱から魔法現象を発生させることができるらしい。最近では、スキルでの使用の方が、詠唱が不要という理由で主流になっているらしい。しかし、魔法陣での魔法の方が威力が大幅に大きいらしい。
威力の差は少なくとも2.5倍以上とのことだがやはり魔物との戦闘で詠唱の時間を取られるのはかなり厳しい。
「…スキルの方が有用なのに、魔法陣はやっぱりおかしいですか?」
しまった、考え込んでいたせいで佐藤さんに怪訝な顔をされてしまった。
「い、いえ!ただ、凄いなって思って…。」
「凄い?」
「はい!僕だったら廃れた技術を勉強しようなんて思えません。人と違う道を勉強するってとても凄いことだと思います!」
焦ってしまって自分でも何を言っているのか分からなくなってきた…。
「ふふふ。それ、褒めてるつもりですか?…でも、ありがとうございます。」
良かった…あまり怒っていないようだ…。
「そういえば名前はなんて言うんですか?」
そういえば、自己紹介すらしていなかった。
「すみません!僕は田中アルトって言います。改めてよろしくおね――」
「田中アルト?」
僕の言葉が最後まで言い終わる前に佐藤さんが疑問符を述べる。
さっきまで笑って話していたはずなのに、どこか不機嫌なオーラを発し始めている。
「は、はい…田中アルトです…。」
「確認しますけど、渋谷区役所で登録しましたか?」
もう、不機嫌どうこうでは無く無表情で僕を見てきている。
こ、怖い…。
「は、はい、渋谷区役所でしまし――」
「お前かぁ!お姉ちゃんを危険にさらしたウジ虫はぁ!」
いきなり大きな声で怒鳴られて体が委縮してしまう。
な、何で?僕なんかこの子にした?まだ、魔法陣の話しかしていないよ?
「ど、どうしたんですか?そ、それにお姉さん?」
「えぇ、私のお姉ちゃんです。貴方のせいで火傷を覆ってしまったのに口を開けばアルトアルトアルトっ!貴方の話ばかりっ!」
…分かってしまった。
この子受付嬢さんの妹さんだ…。
しかも――
「私の名前は、佐藤エミリ!お姉ちゃんを危険に曝し誑かす貴方は私の敵です!」
この人…重度の姉大好症候群だ…。
空気が一気に凍るというか、教室の温度だけ別世界に落ちた感じだった。
「話しかけないでください!私はあなたを認めませんから!」
さっきまで本を読んでいた落ち着いた雰囲気はどこへやら、完全に敵意むき出しだ。
「あ、あの――」
何か言おうとしても、言葉が喉で引っかかる。
そもそも、何をどう誤解されているのかすら整理できていない。
お姉ちゃんを危険に?誑かす?
いや待って、僕、今日来たばっかりなんだけど…?
周りの生徒たちも「また始まったか」みたいな顔でチラ見している。
どうやらこれは初日からイベントに巻き込まれているらしい。
「えっと…佐藤さん、その…何か誤解が――」
「誤解じゃありません!」
即答だった。
むしろ間髪入れない分だけ、余計に火力が高い。
「お姉ちゃんは優しいから、すぐ人を心配するんです!あなたみたいな人はそれに付け込むタイプなんです!」
「僕どんなタイプなんですか…。」
思わず小さく漏れた本音は、もちろん届かない。
「今日はちょうど実技がありますから、そこであなたをボコボコにしてお姉ちゃんを取り戻します!」
「……まぁ、佐藤。初日で壊すなよ~。」
取り戻すって…佐藤さんは僕は取っていないんですけど…。
そして、寝ていた先生もアイマスクを外し遠巻きにとんでもないことを口走っている。
こうして僕は、入学初日からクラスメイトに敵認定された状態で、冒険者学校生活をスタートすることになった――。
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