第28話 転入生田中アルト
家に帰ると、義父さん達は驚くくらい盛大に祝ってくれた。
正直、ここまで喜ばれるとは思っていなかった。
以前、浪人するか働くかで話し合ったことがあった。
その時は「アルトの好きにしなさい」と言っていたけど、本当は、就職より学生になってほしかったのかもしれない。
試験に合格したので学費は一部免除されると聞いたので義父さん達にあまり負担がかからないし少しは恩返しができただろうか…。
◇
一週間後
僕は家に迎えに来てくれたヒナさんとサクラさんと共に学校へ向かっていた。
中学生以来の制服に身を包み、少し気分が浮ついてしまう。
一週間の間にも色々あった。
シルバーショップ【テラス】へアクリさんにナイフを見せに行ったり、佐藤さんへ合格報告をしたり――この一週間は、驚くほど慌ただしく過ぎていった。
アクリさんに会うときは正直怖かった。
格安で買わせてもらったナイフをすぐに壊してしまったから。
ビクビクしながら会いに行ったら、笑われてしまった。
「武器は使用者を守る最後の盾だ。生きて帰ってきたなら上等だよ」だとか。
残念ながら、もうミスリルの在庫は残っていないらしく、新しいナイフはすぐには作れないとのことだった。コバルトナイフを代わりに勧められそれを購入しようとしたら入学祝いだって贈ってもらった。
ミスリルナイフに関しては、ミスリルが入荷したらまた制作してくれるとのことで連絡先を交換した。
佐藤さんに合格報告しに行ったときは、とても喜ばれた。
難度審査の時のことをずっと気にしていたらしく、かなり心配してくれていたみたいだ。
それに驚いたことに佐藤さんには妹がいるらしく、その妹さんも冒険者学校に通っていると言っていた。
佐藤さんの妹さんは僕と同い年で魔法スキルをメインで使用する冒険者らしい。
佐藤さんも、以前は冒険者だったから「妹には私が色々教えたんです!」と、どこか誇らしげに語ってくれた。
佐藤さんの妹さんかぁ、きっと佐藤さんと一緒でとても優秀なんだろうなぁ。
同い年ならきっと学校で会う機会もあるだろうから、ちょっと楽しみだ。
後は、ヒナさんと一緒に美容室に行って長く伸びてしまった髪の毛を切ったり、リオさんがお祝いにスイーツパラダイスに連れて行ってくれたり、入学の準備をしていて一週間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
◇
そんな一週間を思い出していたら学校に到着していた。
前に来たときは武田さんとの試験の時だった。
試験の時を思い出すだけで今でも身震いしてしまう、同じことをしろって言われてもできる気はしないし…。
ヒナさんとサクラさんは一つ年上だ。
学校に入ったら別行動になるのかな、と少し不安だったけど職員室まで同行してくれた。
冒険者学校は普通の高校よりも広大な土地を有していて正直僕一人だけだと迷子になっていたと思うからとても助かった。
それに、自分で切ることを決めたとはいえ自分の目を今は出ている。
廊下を歩くたびに、視線を感じる。
……やっぱり、目を出しているのはまだ落ち着かない。
周りの目が少し怖かったし…。
職員室に着くとヒナさん達はそこで別れてここからは一人で行動することとなった。
「…失礼します。」
職員室の扉を開き、中へ入る。
とはいえ、誰に声を掛ければいいのか分からない。
とりあえず、一番近くにいた受付の人へ声を掛けた。
「はい、おはようございます。学年とクラスと学生番号をお願いします。」
「えっ、あっ…今日入学予定の田中アルトです…。」
受付の人は名簿を確認した後僕に話しかけてきた。
「あぁ、今日入学の田中君だね。クラスは~2年B組ですね。伊藤先生~!」
伊藤先生?その人が僕の担任の先生なのだろうか?
受付の人に呼ばれ出てきたのは――
「おぉ、お前が田中か~、これからよろしくなぁ。」
とても気だるげな人だった…。
白衣姿に無精髭、外でもないのにサングラスをかけている。
変な人だけど、今日からお世話になるんだ、ちゃんと挨拶はしないとっ。
「…今日からお世話になります、田中アルトです。よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げる。
「おぉおぉ、そんな固くならなくても大丈夫だぞ?じゃあ、職員室にいても仕方ないしちょっと早いが教室に向かうか。」
そう言って伊藤先生は職員室から足早に出て行った。
「えっちょ、…あっすみません。失礼します。」
受付の人に軽く挨拶をして先生の後を追った。
◇
「あの~すみません。武田さ…武田先生から頂いたパンフレットは読ませていただいたんですが……まだ学校のことをよく分かってなくて。軽く説明してもらってもいいですか?」
そう、パンフレットは読んだ。
けれど載っていたのは施設案内ばかりで、授業内容や学校方針についてはほとんど分からなかった。
「あぁ~、同じクラスに聞けばいいんじゃないか?友達を作れ、友達をよ。まぁそれに、お前みたいなのは座学より実際見た方が早ぇだろ?」
そう言って伊藤先生は廊下の窓を指さし僕の視線を誘導する。
「外を見てみろ。今の時間ならまだ部活動の朝練をやっているはずだ。」
そう言われたので、とりあえず窓の外を見てみる――
――僕と同世代の生徒たちが模擬戦を行っていた。
木刀や木製のステッキで戦っているにもかかわらず、生徒たちは当然のようにスキルや魔法を撃ち合っていた。
火球が飛び、風刃が地面を抉る。
木刀同士がぶつかるたびに、乾いた音が校庭に響いていた。
中には身体強化を使っている生徒もいるのか、常人離れした速度で間合いを詰めている。
……これが、冒険者学校。これから僕が通う学校かぁ。
「…どうだ、楽しそうだろ?青春ってやつだな。」
…なんかこの人《先生》おじさん臭いな…。
でも、言っている内容には同感だった。
模擬戦をしている生徒も、それを外から見ている生徒も顔には活気があり、今を楽しんでいるように僕には見えた。
あっ、魔法が壁に飛んでいくっ!
模擬戦をしている生徒の魔法が壁へと飛んでいきそのままぶつかる。
傷がつきそうな魔法だったけど、何故か壁は無傷だった。
「…。伊藤先生学校の壁は何か特別なものを使用しているんですか?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「おう、よく気づいたな!校舎の壁はダンジョンの壁を模倣して作られたんだよ。だから、普通の建物みたいに簡単には壊れたりはしねぇな!」
簡単には壊れないか…。
試験の時、武田さんは触れてもいない離れた校舎に罅を入れていた。
それにダンジョンの壁か…。
僕は難度審査の時の逃走劇を思い出した。
あの時、僕は無理やり魔力を引き出しダンジョンに向かって攻撃を放った。
それで、やっと天井を崩すことが出来たんだ。
つまり、校舎の壁は少なくとも、僕の全力の紫煌くらいじゃないと壊せないらしい。
まぁ、どちらにせよ今は、紫煌を使うことはできないのだが。
改めて、武田先生の異常性を再確認してしまった。
「っと、教室に着いたな。挨拶くらいは考えてきているよな?じゃあ、開けるぞ。」
…何も考えていなった。
転校、転入なんてしたことがなかったから。
「先生…待ってくださ――」
教室への扉は開かれてしまった。
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