第27話 入学のすゝめ
「田中君…試験は合格だよ。おめでとう」
その言葉を聞いてから僕はやっとさっきまでの緊張感が霧散し安堵する。
ヒナさんは、こっちを見つめてくる。
合格しましたよ!、とほほ笑んでみたら顔を背けられてしまった…。
共感して欲しかったんだけどなぁ…。
まぁ、でも僕のせい?で巻き込んじゃったからなぁ…。
「…試験っていつもこんなに厳しいんですか?」
そうだとすると、冒険者学校生のレベルは高すぎる。
僕は、吐きそうになるくらい追い込まれて、ようやく合格を貰えた程度だ。
本当に、ついていけるのだろうか。
地面に座りながら武田さんの方を見る。
大技?を放っていて、僕にも攻撃を受けていたはずなのにダメージも無ければ疲れも感じさせない。凄いな…日本最強って。
「いや、いつもはこんな厳しくしていないよ。」
えっ…?
武田さんは、そのまま僕のすぐ近くまで来る。
……ヒナさんに聞かれたくない話、なんだろうか。
「さっきも言ったけど、僕も君と同じ加護持ちなんだ。」
確かに僕をボコボコにしながら言っていたなぁ。
「もう気付いていると思うけど、僕の加護は建御雷之男神様って言って雷と武術を司る神様なんだ。」
雷と武術…かっこいいなぁ。
僕も自分の神様の名前を調べたことあるけど、僕の加護は太陽と秩序らしい。
正直、雷とか武術に比べると、少し地味な気がしてしまう。
「武田さんの神様はかっこいいですね…。」
「…っ⁉君は神事関連はあまり詳しくはないようだね。勉強不足だよ…。」
武田さんは呆れたように僕を見ている。
え…そんな変なこと言ったかな?
「天照大御神様は、日本神話における最高神だよ。」
武田さんは、珍しく真面目な顔でそう言った。
「そして――僕に、建御雷之男神様を通して神託を下さった御方でもある。」
確かに言っていた。
【頼まれているんだ】って。
それが神託で来た?天照大御神から?何を?
「…地球は危機に瀕している。」
…っ⁉
「…どういうことですか?」
「…最近、D災害が異常な頻度で発生している。」
武田さんは静かに言う。
「魔物氾濫の規模も、ダンジョンから出てきた魔物達の侵食速度も、年々上がっている。……世界が、壊れ始めているんだよ。」
ダンジョンの浸食…ヒナさんが言っていた…。
ダンジョン外に魔物が出てきているって。
「少なくとも、日本の神々はこの状況を静観してはいない。僕が、とある高難度ダンジョンを攻略していた時だった――」
武田さんは、当時を思い出すように目を細める。
「そこで、建御雷之男神様から神託が下った。」
神託…。さっきも言っていた。
僕に関係することだろうか?
「…神々は君…田中アルト君に期待をしているようだ。」
……意味が分からなかった。
いや、言葉の意味は分かる。
でも、武田さんが何を言っているのか理解できなかった。
期待?…僕に?なんで?
「そして――地球の危機を覆す鍵。その一端を担うのが、君だ。……だから、僕は君を試した。…君の心の在り方を。」
「……無理ですよ。」
気づけば、そんな言葉が漏れていた。
「僕はそんな大それた人間じゃない…。最近まで、何も知らないただのニートだったんです。」
「力の強さの話じゃないよ。」
武田さんは静かに言う。
「君は、恐怖しても立ち上がった。」
武田さんは静かに続ける。
「どれだけ力が強くても、心が折れてしまえば意味がない。……神様方の期待は、人間には重い。だからこそ、背負う人間には心の強さが必要なんだ。」
「…僕は弱いです。武田さんに手も足も出ませんでした。たとえ武田さんの言うように心だけ強くても意味がありません…。」
武田さんが言っていることが本当だとして、僕にそんな期待されても正直僕は弱い…。冒険者を始めた当初は自分が強いと思っていた。だけど、ここ最近の冒険とヒナさんとの模擬戦を通して僕は、自分に酔っていたことを実感してしまったんだ…。
自分に酔ってマグマトードを見逃し他者を危険にさらした、家にちゃんと帰ると約束したのに大怪我をして義父さん達を不安にさせた、この短期間で2回も大きな失敗をしている。
「僕に……期待なんてしないでください。」
気づけば、声が震えていた。
「そんなもの、背負えるような人間じゃないんです……。……期待されたって、応えられません。」
期待は重いし怖い。
期待に応えられなかったときに向けられる目が、僕にはとてもじゃなが耐えられるとは思えない。
「……当然だよ。」
武田さんは予想外の言葉を口にした。
僕は俯いて下を見ていたが、武田さんを見る。
「期待なんて、重荷でしかないよね。」
武田さんは苦笑しながら言っていた。
そこには先程まであったはずの自信はどこにも感じられなかった。
「僕だって、何度も逃げたくなったよ。」
武田さんみたいに強い人でも逃げたいと思うことがあるんだ…。
「……でも、僕が逃げたら誰が守る?」
武田さんは静かに空を見上げる。
「誰が、災害に遭う人たちを助ける?そう考えたら……結局、体が勝手に動いてしまうんだ。」
僕には何も言えない。
この人が何を背負っているかなんて僕に想像できるものではないとそう思えるから。
「君に僕と同じになれとは言わないし、神々の期待に応えろとも言わない。でもね、僕は知りたかったんだ。神々が期待する人がどんな人物なのか。」
「…僕は…どうでしたでしょうか?」
気づけば口から言葉が漏れていた。
この責任という重圧を背負う人に僕はどう評価されたのか知りたいと思ってしまった。
「君は僕の想像通りだったよ。」
僕が想像通り?
「君も僕と同じだよ。」
武田さんは、穏やかに笑う。
「――人のために立ち上がった。僕はそんな君を歓迎したいんだ。この学校に!」
冒険者学校…。
正直その他の話が重すぎて飛んでいた。
「いくら期待されようとも、強い力を持っていたとしても君はまだ16歳の少年だ、青春を送る権利がある。」
青春…。そんなもの僕にあるんだろうか。
灰色の中学時代を送っていた僕には分からない。
「君の能力についても、焦らなくていい。今はまだ眠っているだけだからね。本当はもっと色々話したいけど次の現場に行かなくちゃいけなくて今日はここまでにしよう。アルト君…改めて試験合格おめでとう!」
武田さんは、どこから取り出したのか学園の入学パンフレットを僕に押し付けると――次の瞬間には姿が消えていた。
さっきの試験よりも、遥かに速い。
……試験の時は、本気じゃなかったんだ。
◇
「ヒナさんお待たせしました。今回巻き込んでしまってすみません…。」
武田さんが消えた後、ヒナさんの元に駆け寄り手を貸して立たせる。
「…ありがとう。」
ヒナさんは、なぜか顔を赤くして視線を逸らしていた。
怖い思いをさせてしまったから、怒らせてしまったのかもしれない…。
……やっぱり、かなり無茶をさせてしまったよね?
「…ヒナさん本当にすみませんでした。」
「えっ?あっ、いや怒ってないよ…っ!」
「…本当ですか?」
普通は怒るものだと思う。
だって、試験に関係ないはずなのにいきなり戦闘に巻き込まれたんだから。
「そんなことより、アルト君試験合格おめでとう!」
ヒナさんは誤魔化すように、慌てて僕を祝ってくれた。
だから、僕もそれ以上は聞かないことにした。
「ありがとうございます。…あっ、これでヒナさんと一緒に学校に通えますねっ!」
これは本当に嬉しい。
もう、学校に通えるとは思ってもみなかったから。
「…っ!そ、そうだね!楽しみだなぁ!い、一緒に登校とかできるかもね!」
良かったぁ、ヒナさんも楽しみにしてくれているようだ。
「今日は早く帰ってご両親に報告してあげよう?一番心配していると思うし。」
「はいっ!ありがとうございます!」
武田さんから貰ったパンフレットを握りしめ家に向かう。
夕焼けに染まる帰り道を歩きながら、僕はこれから始まる学校生活に少しだけ期待を抱きながら。
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