第22話 頂点《トップ・ザ・ヒーロー》
「…武田先生」
武田先生?
誰なんだろう…先生というからには学校関係者なんだろうけど。
「…ヒナさん、あの人は誰なんですか?」
「えっ?アルト君知らないの?」
有名人なんだろうか?
僕はテレビとかはあまり見ないため、あまり常識がないのかもしれない。
「あの人は、武田ソウカク先生って言って…前に言った日本最強の冒険者だよ…。まさか、アルト君の試験官が武田先生だなんて…。普段は学校にいないのに…。」
近づいて初めて気づいた。
確かに、あの人を見ていると、息が詰まりそうなほどに圧を感じる。
校庭の中央に立つ男は、ただそこにいるだけなのに、不思議と視線が吸い寄せられる。威圧感とも違う、もっと静かな何か。
まるで、抜き身の刃がそのまま人の形をしているみたいだった。
「君が田中君かな?」
「は、はい!」
「ふふふ、そんなに緊張はしなくていいよ、古い知り合いに頼まれて君の試験を見ることになった、武田ソウカクだ。」
……黒沢さん達の件が頭をよぎる。
まさか、この試験も関係しているのか?
嫌がらせ?そこまでして政府に協力させたいのか?
「あぁ、勘違いしないでくれ、美咲…早川に頼まれてはいるけど、ここにいるのは自分の意志だから。」
ダメじゃん…。
僕はこの人と戦わないと入学できないんだけど…。
「試験内容は、簡単だ僕と戦うこと。別に勝つ必要はない。僕に君の可能性を見せてほしいんだ。」
なんの可能性だ?
「…可能性ですか?」
「そう、可能性だ。田中アルトという冒険者の未来性を僕に感じさせてくれ。それで、僕は判断する。だから、他に試験監督はいないだろう?」
たしかに、言われてみれば武田さん以外、校庭に誰もいなかった。
改めて、僕は目の前のこの人を注視する。
年齢は、三十代後半か?ジャージの上からでもわかるほど筋肉質で身長も高い。
身長が高いのなら、不本意ながら僕の身長《低身長》だったら付け入る隙はあるのかもしれない。
「白川がちょうどいいところにいるし開始の掛け声頼めるか?」
「えっ、私のことを認知しているんですか!?」
「…一応先生なんだから全校生徒の名前と顔は覚えているよ。」
武田さんは苦笑しながらそんなことを言う。
全校生徒が何人いるのかは僕には分からない。
でも、それができる人が日本に何人いるのかって話だ。
この会話の中でも、この人が普通じゃないって分かってしまう。
「…っと、そろそろ始めるか。」
「…っ!すみません!掛け声ですよね、分かりました!では、いきます。」
ヒナさんが一拍置いて開始の掛け声を告げる。
「試合開始っ!」
僕は合図とともに武田さんの元に駆ける。
この人に何をしても通用する気がしないから。
それなら、今できる全力の攻めをお見舞いしてやろうと考えた。
武田さんはその場から一歩も動いてなかった――
舐められてる?
…いや、そりゃそうだ、僕はつい最近冒険者になったんだ。
それに対して、この人は日本最強って言われるほどの人だ。
これは、サクラさんに教えてもらったことだけど、戦いに時間を掛け過ぎてはいけないと。
だから…プライドは捨てろ。
僕は右手の方から木製の訓練用ナイフを構え突貫する。
僕のナイフは脇腹を捉える――はずだった。
だが。
「遅いよ。」
武田さんは、まるで散歩中に虫を払うみたいに、片手で僕のナイフを弾いた。
重い。ただ払われただけなのに、腕が痺れる。
腕は痺れて使い物にならないならっ!
僕は、咄嗟に足技で顔を狙って蹴りを入れようとする。
「っと、今のは中々いいね!」
軽くいなされて、そんなこと言われても説得力無いですよ…。
僕はそのまま秘策を行使する。
「――氷結」
これは、リオさんに教えてもらったスキルだ。
少しでも手札を増やして相手を惑わせることが出来るようにと。
勿論、このままでは勝負にならない。
だから、僕は最後の切り札を切ることにした。
僕はそのまま武田さんに向かって真正面から突っ込んでいく。
「それだとさっきと変わらな――」
武田さんは体に着いた氷を軽く払いのけ僕を掴もうとする。
前の僕だったら、そのまま捕まっていたかもしれない。
だけど、今の僕ならっ!
「…っ!」
僕は走った勢いのまま武田さんの股の下にスライディングを決め込む。
武田さん背中側に回り込む。
そこで僕は秘策を行使する。
「――氷柱」
やったことは、股下を潜り抜け視点を下に集め、背中側に回り込み柱をぶっ立てて空中から武田さんの脳天に一撃を叩き込む作戦だ。
これは、武田さんよりも不本意ながら大幅に小さい僕の背丈だからできる技だ。
そして、僕の一撃が武田さんの後頭部に吸い込まれるようにヒットする。
あ、当たった…。
正直なところ素人考えな戦術だったため、僕の攻撃が当たるとは思いもしなかった。
武田さんは微動だにせずその場から動かないでいた。
ど、どうしたのだろう…攻撃を当てちゃったから怒っているのかな…いや、試験なんだから怯んでいちゃダメだっ!
「ふ、ふふ、ふふふ。」
不穏な空気を感じ僕はその場から離れるように後ろに飛びのいた。
「いい!とてもいいよ!気持ちのいい一撃だった!」
武田さんは笑っていた。
そう、笑っていたんだ。
「だが、君の一撃には魂が宿っていない。君は何のために冒険者をやっている?」
笑いながら僕に問いかけをしてくる。
笑っているはずなのに。
それなのに、喉が潰されたみたいに息ができなかった。
足が一歩、また一歩と後ろに下がる。
理由は分からない。
でも、本能が「逃げろ」と叫んでいた。
ヒナさんの方を見るとヒナさんは口元を押さえたまま固まっていた。
「よそ見をするなっ!」
「…うごげっ!」
離れているはずなのに、魔法も使っていないはずなのに僕は何かに吹っ飛ばされ地面に転がっていた。
な、何が……。
武田さんは拳を突き出した姿勢のまま止まっていた。
……い、今ので?
背筋が凍る。
あれだけ離れていたのに。
「立ちなさい、田中君」
む、無理だ、こんなの試験なんかじゃないっ
「僕に見せてくれ」
な、なにを
「君が、何のために冒険者になるのかを」
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