第2話 冒険者登録をする少年
二度寝から目を覚まし携帯を見ると、ヒナからのメッセージは朝8時に届いていた。
《今日のの登録だけど、十時に渋谷ダンジョン第一層入口で待ってるね。絶対来てね。来なかったら…来てくれるまで入り口で立ち続けるから!》
女子と会話をしなくなってから、もう1年くらい経っていた。
女子ってこんなに積極的なんだな…。
僕は、約束はしてしまったので《分かりました》とだけ返信をしてベッドから立ち上がる。
1階に降りて義母の作ってくれた朝食を食べていると義父が、
「おはようアルト。…今日も行くのかい?」
「…昨日約束した子がいまして」
「ほう!人と関りを持つようになったんだね!それは、いいことだよ!」
「ええ、ええ…!それは、とても良いことよ、アルト。」
この叔父夫婦は30代後半程だが、子宝に恵まれなかったらしく僕を引き取ってから我が子のように面倒を見てくれていた。
実際、中学校の時、友人という友人が出来ず帰宅部だった僕のことを気にして色々なところに連れて行ってくれようとしていたし。
「今日、冒険者登録をするんだっけ?」
「…その予定です。」
「だったら、お金が必要になるんじゃないかい?武器とか防具とか」
「…そこは、何とか工面してみます…。」
「じゃーん!アルト、これを使っていいよ!」
義父は机の下から少し分厚い封筒を出してきた。
中を見ると、30万程のお金が入っていた。
「…これは、頂けません。」
「…アルト、昨日の約束を覚えているかい?」
昨日の約束…。
家に絶対に帰ってくること…だった。
「…家に絶対に帰ってくこと?」
「そう!ちゃんと覚えているじゃないか。」
「…この封筒と何の関係が…?」
「ダンジョンは危険な場所なんだろう?アルトは、そのまま行く気かい?」
「…そのつもりでした。」
「それだったら、ダンジョンは行かせてあげられないかな」
唐突に言われ僕は呆然としてしまった。
昨日だって、パーカーに素手で入って問題はなかった。
これから、お金を稼いで買い揃えればいいと考えていた。
だからこそ、困惑していた。
「僕はね…出来ることならアルトにダンジョンに行ってほしくないんだ」
「…。」
「アルトの本当の両親は、D災害にあって亡くなってしまった…。アルトもそうなるんじゃないかと思うと僕は心配で心配でおかしくなってしまいそうだ。でも、アルトが自発的にやりたいことを止めたくないっていうのも本当なんだ。」
「…。」
「アルトの今できる最善は、なんだい?」
「…お金を貰って装備を整えることです。」
「じゃあ、これは受け取ってくれるね?」
「…ありがとうございます」
「うんうん!出来る限りけがをしないように帰ってきてね」
「分かりました」
僕は気恥ずかしくなりそそくさと玄関から出ようとしたときに気づいた。
(玄関にあったお義父さんの釣りの道具がなくなっている…。)
もう一度義父から貰った封筒を見る。
こんなに沢山…。
一般家庭からポンと出せる額じゃない…。
温かい…。
この温かさはとても、懐かしい…。
父さんと母さんがいた時に感じた、温かみだ…。
なんで、あの人たちは僕の為にこんなに尽くしてくれるのだろうか。
理由は今はまだ分からない、でも、遅くなったけどこれから、寄り添っていけたらいいな。
◇
待ち合わせ場所に着くと、ヒナはすでにいた。
金髪ツインテール、制服ではなく今日はアウトドア系の動きやすい格好。両手にリングライト付きのスマホスタンドを持っていた。完全に配信の装備だった。
そして、俺を見た瞬間、真顔になった。
「……その格好で来たんの?」
「格好?」
「また、パーカーなんだね…。」
「…普段着なので」
「…ダンジョン入るのに?」
「いえ、今日はこれから冒険者登録を行った後に装備を整えようかと」
「よかったぁ!じゃあ、装備品は選んであげるね!」
「…自分で選んでいいですか?」
「…え?新人君にはまだ難しいと思うよ?」
確かに素人の自分に目利きをする目はない。
だけど、このお金は義父から貰った大切なお金なんだ…出来る限り自分で選んで買い物がしたい。
そんな僕をヒナはジッと見てくる。
「…うん、わかった!じゃあ、アドバイスだけはしてもいいかな?」
「…ありがとうございます」
封筒を大事に抱えていたからか、ヒナは何かを察して提案を変えてくれた。
「じゃあ、さっそく冒険者登録しよう!」
◇
冒険者登録は、各自治体ごとの役所で行える。
僕で言うと渋谷区役所で登録を行うことになる。
20番の札を取ってベンチに座る。
周りを見渡すと今日は平日だが人が多かった。
ちなみに、役所ではダンジョンで稼げない人向けに斡旋を紹介している。ダンジョン内での採取・討伐・階層更新情報共有が主な内容だ。
ちなみに、渋谷ダンジョンは、現在3階層程までしか潜られていない。
理由としては、命を懸けてまで潜る必要性がないからだ。
現代日本では、多岐にわたる仕事がある。
確かに冒険者は、一攫千金で儲かる。
だが、一生ものの傷を負う可能性が高いため無理に潜る人がいないのだ。
なので、未だに謎が多い遺跡みたいにダンジョンは扱われている。
【20番の札をお持ちの方は、登録窓口の方へどうぞ】
呼ばれたようだ。
「ヒナさんはここで待っていてください」
「えぇ~、…ついてっちゃダメかな?」
「…。はぁ、分かりました。静かにしていてくださいね?」
「は~い」
僕は、登録窓口のあるカウンターに移動した。
窓口にいたのは、20代中盤程の女性だった。
彼女は淡々と話しを始める。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「えっと、冒険者登録を行いたくて…」
「承知いたしました。こちらの紙にご記入お願いします」
僕は促されるままに紙に記入をしていく。
書き終わり紙を渡す。
「……はい。問題なさそうですね。次に、マイナンバーカードの提出をお願いします。」
「あ、はい。」
僕は、鞄を漁り自分のマイナンバーカードを渡す。
受付の彼女はカードを受け取り一瞥したのちに固まった。
「……目が紫紺。……D災害…?」
僕はどきりとした。
そう、D災害にあった人はダンジョン発生時の特殊な魔力に体が浸されるため髪や瞳孔が紫色になることがある。
僕は、D災害にあってから、髪は皆と同じ黒髪だが瞳の色は魔力に充てられて紫色だった。通称、Dサバイバーと呼ばれているらしい。
まぁ、そもそもD災害にあって生き残っている人の方が少ないのだが……。
僕を含めて生き残った人は日本で10人もいない。
「……もういいですか?」
「…!失礼いたしました。」
「いえ大丈夫です。慣れていますから。」
実際中学校の頃、友達が出来なかった理由の一部はこれだった。
人は、人と違うものを排除したがる。今回で言えば、それが僕だっただけの話。
「…ンンッ!冒険者制度の説明は必要でしょうか?」
「はい、お願いします」
「承知いたしました、では、説明させて頂きますね。」
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