第17話 紫煌《しこう》と帰還
「…すみません、お待たせしました。」
僕は冒険者さんに声を掛けた。
「ハァハァ…待ってたぞ…。」
冒険者さんは斧を盾のように構え僕を庇ってくれていた。
その姿はアントたちに齧られ、マグマトードの涎で所々焼かれていた。
こんな姿になるまで僕のことを信じて耐えてくれたのか…。
ならばその心意気に今度は僕が応える番だ。
この人は成した。ならば僕も成さなければ嘘だ。
僕は前方のアントたちの前に静かに構える。
これは僕にとって初めての技にして決意証明だ。
もう僕は迷わない、もう僕は負けない!
そう願いを込めて一気に光を解き放つ――
「紫煌――」
腰だめの姿勢からナイフを横に振りきる。
そのまま紫紺の斬撃はアントたちを飲み込み――
遅れて、無数の外殻が崩れ落ちた。
「「「kieeeee!」」」
前方のアントの群れを崩せたっ!
「皆さん今です!通路を抜けます!」
僕は佐藤さん元の駆け寄り立たせる。
冒険者さんの方を確認すると仲間を背負い直し指示に従って通路の方に向かおうとしている。
「佐藤さんすみません、身体が辛いと思いますが立って走ってください!僕が殿を務めます!早くっ!」
「…っ!すみません、ありがとうございます。」
皆を通路に押し込み後ろの気配に注意しながら僕も通路に入っていく。
通路を通り抜け中部屋程の大きさの広場にたどり着く。
ここまでくれば――
「佐藤さん、今日僕たちよりも先に入った人たちはいますか?」
「…いえ、第三層以降に下りた冒険者パーティーはいません。」
「…ありがとうございます。」
佐藤さんの情報を確認した僕は今放てる限りの魔力をナイフに込める。
ミスリルナイフが悲鳴を上げるようにピシピシと音が鳴る。
刀身には細かな亀裂が走り始めていた。
それでも僕は魔力を止めない…止められない。
ここでどうにかしないと…僕たちは負ける…。
魔力がこれでもかとナイフに魔力が籠っている。
それを今、解き放つ。
先程よりも強い光が放たれダンジョンの通路が崩れる。
崩れ落ちる瓦礫の奥。
炎のように赤い瞳だけが、僕を射抜いていた。
――次は逃がさない。
そう言われた気がした。
◇
第三層から第二層に上がってきた僕たちはまだ走っていた。
魔力の大量消費で脂汗が出てきて服が張り付き気持ち悪さを感じながら。
佐藤さんも冒険者さんたちも限界なんかとっくに超えている僕だけが弱音を吐いていられない…。今は我慢して走ることに専念しよう…。
「田中様っ!大丈夫ですか!?もうちょっとで出れますからもう少しだけ頑張ってください!」
僕の前を走る佐藤さんが後ろでへばっている僕に発破をかけてくれる。
もうちょっと…もうちょっとで地上に出れる…。
僕はヒナさんに謝らなければいけない…。
僕は義父さん達に悲しみを与えたくない…。
ならば、ここで踏ん張らなくちゃ…!
◇
第一層への階段が見えてきた瞬間、僕の膝が崩れた。
「ぁ――」
力が入らない。
ダメだ。
途轍もなく気持ち悪い…。
視界が揺れる。
呼吸が上手くできない。
心臓が壊れそうなくらい脈打っていた。
「おい!大丈夫か!どうしたんだ!」
一番前を走っていたはずの男性冒険者さんが僕の様子に気付き声を飛ばす。
「分からない、です。とても、気持ち、悪くて、今にも倒れそう、です。」
薄れる意識を何とか繋ぎ止め自分の状態をどうにか伝える。
「…魔力喪失、か」
マジック・ダウン…?なんだそれ…?
「なんで、すか、それ?」
「魔力を限界値まで使うとなってしまう症状だな、しばらく待てば収まるが…この状況だ待ってやれる状況じゃない…。」
…この雰囲気は、なんだ…。
僕は置いて行かれるのだろうか…?
佐藤さんは手負いの上女性で、僕を担げない。
冒険者さんたちは仲間を背負っているので僕を背負う余裕はない…。
この状態で置いていかれたらスライムにでも負けてしまう…。
置いていかないで…置いていかないでくれっ!
表情に出ていたのか男性冒険者は苦笑しながら僕に語り掛けてくる。
「…そんな顔するな、置いていかねぇよ!お前は俺たちの命の恩人なんだからな!」
「…えっ?」
「…顔に出ていたぞ?安心しろ、俺たちはそんな薄情者なんかじゃない、ミサキすまねぇ自分で歩けるか?」
男性冒険者は背負っていた女性冒険者さんに声を掛けていた。
「…つぅ。タカシ降ろしても大丈夫だよ。その少年を背負ってあげて…。」
ミサキと呼ばれた女性冒険者は男性冒険者の背中から降ろされ、男性冒険者は僕の方に寄って来る。
「ほら、方に手を回せ、肩を貸してやる。」
「あ、ありがとうございます。」
「…こちらこそ、ありがとうな。…今回ばっかりは本当に死んじまうかと思った…。」
「ハハハ…僕もです。」
これは冗談でもなく本当の話だ。
僕はあんな大群を相手にしたことも無いし、こんなに魔力を使ったことも無い。
魔力を使うとこんなことになるなんて思いもしなかった…。
◇
第一層では数回スライムが現れた。
普段なら脅威にもならない相手だが。
それでも、今の僕たちには十分脅威だった。
息を切らしながら、互いを支え合うようにして僕たちは進み続ける。
見えた…!ダンジョンの入り口が…!
ゆっくり、ゆっくりと階段を踏んで上っていく。
もう少し
もう少しで帰れる…!
そして最後の階段を上りきったところには、いつもの係りのおじさんが立っていた。
「……っ!大丈夫ですか!?」
僕はおじさんの顔を見た安心感かそこで意識が途絶え完全に男性冒険者さんにもたれ掛かる。
「た…様っ!」
「おい!後ろを空けろ!」
声が遠ざかっていく。
あぁ…。
帰って、これたんだ…。
その安心感に包まれながら、僕の意識は暗闇へと沈んでいった。
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