第15話 蛙怨《フロッグ・ヘイト》
「…か、カエルの仕返し。」
青い顔をした佐藤さんがボソッと呟く。
僕はその声に反応する。
「…カエルの仕返しって何ですか?」
聞き覚えの無い言葉だったので、こんな状況で聞き返してしまった。
佐藤さんはマグマトードから目を離さず説明をしてくれた。
「カエル系のモンスターは稀に特殊なスキル?…習性を持つ個体がいます。」
「…習性ですか?」
「…えぇ、カエル系は仲間を殺されると群れで復讐する習性があるんです、しかも、対象を捕食するまで追ってきます。」
僕には覚えがあった…。
先日五匹のマグマトードが現れて僕は降伏した一匹だけ見逃したことがあった…。
額から冷汗が流れ出る――
…まさか、あの時のマグマトードが…っ
「…僕のせいだ」
僕のせいだ、失敗した、判断を間違えていた。
「すみませんっ!…これは僕のせいかもしれません。」
「今そんなこと言われても困ります!貴方達は立てますか!」
佐藤さんは僕を一蹴し怪我をしている冒険者グループに声を掛ける。
「…仲間の2人が重傷で歩けないが、俺が背負って走る、同行させてくれ!」
「分かりました。では、これより急ぎ後退します。田中様申し訳ありませんが、先行してモンスターの討伐をお願いします。」
「…っ!分かりました。行きます!」
今は僕の独りよがりな後悔をしている暇はない。
急いで地上に出なくてはっ!
僕は痛む左腕を抑えながら走り出した。
◇
僕は佐藤さん達より少し前を走り三層の広間に着き魔物の気配を探る。
…っ!魔物の気配がする!なんで、こんな時にっ!さっきまでいなかったのにっ!
しかも、こんな沢山っ!
「佐藤さんっ!魔物気配がします!種類は不明!多くの気配を感じます!」
「なんですってっ!」
普段温厚な佐藤さんが先程よりも青い顔で叫ぶ。
声がダンジョン内で響き渡り悲惨な声がこだまする。
声につられたのか魔物たちが姿を現す。
現れたのは、先程佐藤さんが話していた軍隊アントだった。
しかも、気配の通り一匹ではなく三十匹以上――
まずい、囲まれたっ!
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…っ
「田中様?…っ、田中様落ち着いてください!」
佐藤さんが僕の両頬を掴んでくる。
「田中様がイレギュラーが初めてなのは承知しています、でも今は無理にでも落ち着いてください!でないと、私たちは全滅します!」
「…すみません。」
…そうだ、慌てても仕方ない。
前方も後方も魔物は多数、同行者は、5人中2人重傷の上2人はけが人を背負っており戦えない。
でも、こんな状態僕にはどうしたらいいか分からない。
だから、僕は――
「…佐藤さん僕はどうしたらいいですか?」
「…落ち着きましたか、優秀です。これからモンスターをこの広場に集め手薄になった瞬間を狙い第四層を目指します。」
「地上には行かないんですか⁉」
怪我人がいるのだから地上を目指した方がいいのではないのだろうか?
佐藤さんは、何で四層を目指すんだ!
「…田中様だけで軍隊アント30匹を相手に出来ますか?しかも、怪我人を庇いながら。」
「…出来ません。」
「…マグマトードが第三層に現れたってことは、第三層のボス《アイアンゴーレム》はマグマトードの群れにやられたと考えていいでしょう。それなら、第四層のマグマエリアで軍隊アントを撒きます。マグマトードはその後考えましょう。」
…凄い、走りながらでこんな緊急時なのにこんな指示ができるなんてっ!
「…分かりました。」
そして、マグマトードの群れが広場に集まるまで僕たちはちょっとの間休息を得た。
◇
カサカサ
軍隊アントの足音が広場で逃げ惑う僕たちを追ってくる。
マグマトードの群れはアントと僕たちの逃走劇を高みの見物をしている。
早くっ!早くっ!早く集まってくれ!
「ぐぅぅぅ…。」
怪我人を背負った冒険者の足がアントに噛みつかれる。
僕は即座に噛みついたアントをナイフで刈り取る。
「ぐぁ、す、すまない!」
「判断が遅くなってすみませんっ!」
僕のせいでマグマトードが来てしまっているのに怪我人を増やしてどうするんだっ!
もっと…もっと集中しなきゃ駄目なのに、焦れば焦るほど集中が出来ないっ!
どうしよう、どうしよう、どうしたら…っ!
「田中様っ!」
ふいに突き飛ばされた僕は地面に転がる。
「えっ」
じゅっと
肉が焼ける匂いが広間に漂う――
「佐藤さんっ!」
「……田中さん無事ですか?」
――半身が焼け爛れる佐藤さんがそこに倒れていた。
……僕は庇われたんだ。
僕の代わりに佐藤さんがマグマトードの唾液に焼かれてしまった。
冒険者たちの悲鳴が響き渡る。
立ちすくむ僕の目の前が暗くなる――
僕のせいでマグマトードの群れは現れた。
僕のせいで佐藤さんはここに倒れている。
僕のせいで全滅、する。
僕のせいで
僕のせいで
ぼくのせいで
僕のせいでっ!
◇
何も見えない…
何も感じない…
僕はここで死ぬのかな…。
父さんと母さんに会えるかな…。
目の前が暗くなった僕に突然声が聞こえてくる。
【また、奪われるのか?】
嫌だ!僕から、もうこれ以上奪わないでくれ…。
【この現実を許容するのか?】
嫌だ!こんな現実を認めたくない…。
【…もう諦めるのか?】
諦めたくない!……諦めたくないけど、僕には、もう守れる力が無いんだ…。
【いや、お前には力があるはずだよ】
あると思っていたさ!だからあの日、調子に乗ってモンスターを見逃してしまったんだ…。
【…お前は、まだお前の力を理解していない。】
なら!…なら教えてよ!その力を!
【石碑に書いただろう?血の中にヒントはある】
…っ!誰なんだよ!さっきから!だれなんだよ!
【…ただの敗北者だよ、…アルト、お前に僕の全てを掛けているんだ、こんなところで負けることは僕が許さない。】
…説明になってないよ…。このままだと全滅だよ…。あぁ、ヒナさんに昨日の子と謝りたかったなぁ。
【負けることは許さないって言ったよね?アルト、君は忘れているけど、本来の僕たちはもっと強い。制限はあるけど少しだけ力を戻すよ。】
…もう負けそうなんだよ!力を戻す?何を戻すんだよ!
【15%だけだけど今の器の状況なら問題ないはずだよ……かなり代償はあるけど。】
…っ!王の器!?15%…スキルの解放率!?
【…アルト忘れるな、力はお前の中にあることを。門はお前を拒まないこと。】
回答になってないよ…。
だんだんと目の前が明るくなっていく。
話しかけてきた人物が薄っすら見えた。
黒髪に紫のオーラを纏った20代程の青年の後ろ姿が…。
その背中を見ていると不思議と不安と焦りが霧散していく――
◇
そして僕は目を開いた。
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