第13話 ヒナの戦い方と魔物について
「アルト君にはこれから、うちと模擬戦をしてもらいます。」
「……なんでですか?」
「それがアルト君には必要だと思ったからだよ?」
「……手加減はします。」
「え?」
ヒナさんが笑った。
「アハハ…アルト君は強いけど、うちには勝てないよ?」
一緒に探索に行ってたから、ヒナさんの戦い方は知っているつもりだ。
こう言っちゃ悪いけど、ヒナさんに負ける要素が浮かばない。ヒナさんのこの自信はなんだ?
「…何でですか?」
「ん~自分で気づいて欲しいかな!」
ヒナさんはそれ以上言わず訓練所の木製のナイフをこちらに投げてきた。
「ミスリルのナイフは危ないからこっち使ってね!開始の合図はコイントスでいい?」
「…大丈夫です、問題ありません。」
「じゃあ、いくよ~」
軽くそう言って、ヒナさんはコインを空中に飛ばした。
僕もナイフを構える。
大丈夫、おそらく僕は強い…。
いつも通りにやれば僕は負けない!
そして、コインが地面に落ちた。
「っ!」
ナイフが僕の眼前に迫っていた。
コインを注視していたせいかヒナさんがナイフを投げたのに気づかなったっ!
「あぶなっ!」
ギリギリのところをなんとか避ける。
今のは危なかった…。
ヒナさんの方を見直す。
するとこちらに向かって走ってくる。
「ふっ!」
僕は咄嗟にナイフを振るう。
だが、止めてしまう。
人に、本気で刃を振るう感覚に躊躇したのだ。
その一瞬だった。
ナイフとナイフがぶつかり鍔迫り合い状態に落ち込む。
「っ…重っ!やっぱり力強いんだね、でもっ!」
力なら僕の方がつよ――
視点が回る。
どうやら、足技で足を払われたようだ。
「痛っ!」
クルっと体が回り頭が地面にぶつかり声をあげる。
急いで視線を上げると僕の首元にナイフがあった。
「はい!これで一本ね!」
「…。」
「アルト君は身体能力は高くて総合的に強いけど、力任せに戦いすぎだよ?」
「…え?」
「相手を倒すことしか考えてない。だから動きが大きいし、読みやすいんだよ?」
確かにそうだった。
僕はヒナさんとの模擬戦で戦い方を決めていたわけじゃないし、魔物相手に考えたことも無かった。
「人間相手でもそうだけど、ダンジョンの深層もモンスターも知能が高くなるからこのままだと通用しなくなるよ。ほら、この前の第四層のマグマトードがいい例かな?」
「…マグマトードがですか?」
「うん。あの時マグマトードはアルト君の力をみて降伏して逃げて行ったよね?」
「…逃げましたね。」
アルトはこの間、マグマトードを見逃したのを思い出す。
でも、今のと何の関係が…?
「あの時逃げたマグマトードは多分知性が高かったんだと思うだ。ダンジョンのモンスターって基本的には知性がなく本能で外的生物…人間を襲うみたいなんだよね。」
「…なんでヒナさんがそんなこと知っているんですか?」
「あ~これは学校で習うよ!でね、ダンジョンのモンスターは本能で襲ってくるから知性を持ち合わせていないんだって。」
…ん?ダンジョンの?
ダンジョン以外に魔物はいるのか?
「あのヒナさん…その言い方だとダンジョン以外にモンスターがいるみたいな言い方だと思うんですけど…。」
「…いるんだよ、ダンジョン外にモンスターが。ダンジョン自体が出来てもう何年もたっているけど、世界にはあまり公表されていない。海とか海外の森の奥…人があまりいない地域に魔物は生息しているの…。しかも、最近は徐々に魔物区域が広がっているみたい。まぁ、これは学校に行ってから学べばいいよ!」
…。
魔物がダンジョン外に…。
頭がズキッと痛む。
《…アルト…ずっと愛しているからね。》
《アルト!生きてくれ。絶対にそこから出てくるなよ。》
たまに見る悪夢が頭に浮かんでくる。
あのⅮ災害みたいな存在が外に出ているのか…。
「アルト君…大丈夫?」
「いえ、大丈夫です。…ありがとうございます。」
「…広がっているといってもそこまで緊急でもないから、まだ気にしなくても大丈夫だよ?不安にさせちゃってごめんね?」
「本当に大丈夫です。心配をおかけしました。」
「ならいいけど…もうちょっと模擬戦していく?」
「…お願いします。」
この日、僕は何度もヒナさんに挑んだが勝つことはできなかった。
ヒナさんには悪いけど一人で帰りたくて、区役所で別れ帰宅する。
家への帰り道に一人僕は今日を振り返る。
10戦10敗
これが今の僕の限界だと知れた。
僕はまだまだ弱かったみたいだ…。
とても、悔しい。
僕は普通より強いと思っていたのに…!
しかも、見下していたわけじゃないけど、ヒナさんにかすり傷すらつけられなかった。こんなんじゃ僕はあの無気力な時の僕から何も成長していないじゃないか…
…頑張ろう。
もう、僕は負けたくない。
…僕の態度悪かったかな…明後日、ヒナさんに謝ろう…。
◇
家に帰ると義母さんが僕を出迎えてくれた。
「アルトおかえり、ヒナちゃんとのデートはどうだった?」
義母さんはニヤニヤとこちらを見てくる。
「…デートじゃないです。」
「…あら、元気ないじゃない?どうしたの?何かあった?」
義母さんは僕の表情を見て心配そうに声を掛けてくる。
…最近顔に感情が出ることが増えたみたいだ。
「…僕って冒険者としてあまり強くなかったみたいで。ちょっと自信が無くなりまして…。」
「なんだ~よかった!ヒナちゃんと喧嘩したのかと思っちゃったじゃない!」
僕は真剣に悩んでいるんだ!
それなのに、軽く流されて僕は少しイラついた。
「僕は真剣に悩んでいるんです…!軽く言わないでください!」
「フフフ…ごめんね、別に軽く言ったつもりじゃないのよ?ただ嬉しくてね。」
僕がこんなに悩んでいるのに何を喜んでいるんだこの人…!
「アルトがね、こんなに感情を表に出せるようになったことが嬉しいのよ。それにアルトは才能がないわけじゃないと思うわよ?」
「…なんで分かるんですか?」
「なんの見込みもない人に、たった数日であんな可愛い子が一緒にいてくれるわけないじゃない?大体冒険者になって、たかが数日の人に何がわかるって言うの?」
「……。」
「アルトは冒険者辞めたいのかしら?」
「…いえ」
「ヒナちゃんと何があったのか分からないけど、ヒナちゃんのこと嫌いになっちゃった?」
「いえ!」
「…なら、それでいいんじゃない?」
「…えっ?」
「アルトはまだ子供なんだから、これからたくさん悩んで迷って答えを出せればいいと思うわよ?」
「…義母さん!」
「ふふふ、やっとママらしいことが出来ちゃった♪」
…台無しだよ、義母さん。
でも、そうか僕はまだ悩んでもいいのか…。
「……ありがとう、義母さん。」
僕はボソッと呟くように義母さんに言った。
聞こえるか分からないほどの大きさで。
なんだか照れくさくて僕は自室に戻った。
「ふふふ、アルトも大きくなったなぁ…ヒナちゃんには感謝しないとね。」
◇
明日は難度証明書のために第三層に潜らないといけないので今日は早く寝ないといけない。
あっ準備まだしてないや…。明日すればいいか。
今日はいろんなことがあって疲れちゃったしもう寝たい。
僕はベットの上で目を閉じる。
その日僕は夢を見なかった。
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