第120話 広がる世界――from.アルカディア
僕たちは、ジープへと乗り込み、後部座席に僕と小林さんが座った。
シルフィが、ミラーの位置調整をしながら運転席から言った。
「……シートベルト、あるから締めて。」
「……う、うん。」
「締めたら出発する。」
公道はなさそうなのに、運転ルールはちゃんとしているのか?
もしかして、警察もいる?
僕たちのシートベルトのソウ直を確認するとエンジンが、かけられ、地球と同じく、BRUUUU、と音を鳴らし振動が伝わる。
「……本当に普通の車だ。」
「当たり前でしょ。」
「……異世界で聞くとは思わなかった。」
「うるさい。」
シルフィが、少しだけ笑った気がした。
車が、動き始めた。
森の中の道を、ゆっくりと進んでいく。
「……じゃあ、風霊の力を借りるから、じっとしていて。」
「分かった。」
シルフィが、小さく詠唱した。
「……風霊の王よ、力を貸して。」
神秘的な詠唱があるのかと考えていたけど、シルフィの口から発せられた言葉はとても短い言葉だった。
短い詠唱とは裏腹に次の瞬間、車の速度が上がる。
「……っ!」
「そんなに構えなくていい。ちゃんと制御してるから。」
「……とんでもなく速いぃっ!?」
「これなら半日の道が、二時間ちょっとで着く。」
「……それどこではないよぉ――」
「ふっ、礼はいい。」
ぐんっ、とスピードは上がり僕と小林さんは後部座席の背もたれに押し付けられる。
シルフィの表情は変わっていなかったことから何かしらの手段で防いでいるのかっ!?
窓の外を、アルカディアの森が流れていっているけど、何でこのスピードで木にぶつからないんだっ!?
森を少し抜けるとスピードが少しだけ緩み窓から外を観察する。
車体の外には木々が、青々と生い茂っており、見たことのない花が、道端に咲いていた。
不思議な国のアリスに出てくるような色の花もあれば、一目見れば忘れることはないだろうと思えるほど綺麗な花も咲いていた。
「……綺麗だね。」
小林さんが、窓に顔を近づけて言った。
「……この世界は、こんなところがあるんだね…。」
小林さんはうっとりした様子で花を見ていた。
もしかして花が好きなのだろうか?
「……そうだね。」
「外に魔物もいるのに、こんなに綺麗なんだね。」
「……矛盾しているようだけど、共存しているんだと思うんだ。」
「……アルト君、なんか知ったかぶりしてる?」
「……いや、なんとなくそう思っただけ。」
「そっかぁ。」
アルディスは相変わらず音沙汰なしだけど、心に共存しているせいかな、なんとなくこの世界のことを知っている気がするんだ。
ルージュのこともあるし、僕の記憶って何なんだろう…?
ふと、シルフィが、運転しながら前を向いたまま言った。
「この世界はこれが普通。危険なものと、綺麗なものが、隣り合って存在してる。」
「……それは、日本でも同じかもしれないね。」
「……そうかもしれない。」
日本も綺麗な場所があるけど、夜になると危ない街になったりもする。
まぁ、異世界とじゃ危険度が違うんだけどさ。
でも、僕たちの世界と違い魔物がこの世界では自生しているんだと実感してします。
あそこにいる牛?みたいな魔物なんて地面の野草を食べているし…。
ちなみに、僕たちの世界の魔物は発生源は解明されておらず、人間に対し攻撃的であるため研究があまり進められていなかったりするらしい。
しばらく、車の中がしんと静かになった。
エンジンの音と、風霊の風の音だけが聞こえていた。
「……みんな、無事かな。」
小林さんが、小さく言った。
「……きっと大丈夫だよ。」
これから、会えると思ったら不安になってきたのだろうか?
気持ちは僕にも分かるけど、言霊じゃないけど言ってしまったら現実になりそうだから口には出さなかった。
「……何でそう思うの?」
「皆で固まって転移したのなら、皆強いしきっと何とかなっているよ。」
「……それ、理由になってる?」
「……なってないかな?」
小林さんが、笑った。
よかった…彼女の不安を少しでも軽くできたのなら。
「……そうだね。マサト君たちが無事じゃないはずがないもんねっ!」
「……エミリさんも、リオさんも、ヒナさんも。」
「うんっ!あっ、あと、私も名前で呼んでくれない?」
「えっあっ、いいけど、いきなりだね…?」
「ぶぅ~、皆ばっか名前で呼んで私だけ仲間外れは嫌だよ?それに私、我がままに行くことにしたからっ!」
「う、うん、分かったよ、その…ナユタ?」
ずっと小林さんって呼んでいたから少し照れるな…。
小林さんはなぜか満足そうに、ふふ~ん、としているようだ。
僕たちはアウストラの森を抜け…アルカディアの道を走り続けておりあと、2時間ほどで皆に会える…そう思うとみんなの無事を願わずには入れなかった。
……みんな、待っていてください。
僕は心の中で、そう呟――
「……密室であまりイチャイチャしないで?」
「いや、してませんよっ!?」
――この世界の魔物は、『生きて』おるからなぁ。
――それ、言ってもよかったのかしらぁ?
――……っ!何でもないのじゃっ!
――……チビのじゃ女……(ボソっ)
――くっ、今回は何も言えぬっ!!!
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