第119話 ダークエルフの里へ向かうのだけど…
ちゅんちゅんちゅん……ぐぇぐぇぐぇ……――
PIIIIIっっっ!!!
翌朝、鳥の声とスマホのアラーム音で目が覚めた。
日本と違う鳴き方をしているようだ、ぐぇ、とか言っていたし。
でも、朝だということは分かった。
「んんん~……よく眠れた。」
昨日あれだけのことがあったのに、不思議なくらいよく眠れた。
いや、精神的に疲労していても眠れるものなのかな…。
家に引きこもっていた時は、昼夜が逆転していて夜は起きていることが多かった気がする。
エルフの集落に用意してもらった部屋は、質素だけど思いのほか清潔で、静かで、布団が柔らかかった。
そして、体を起こし昨日族長から借りた充電器からスマホを外す。
「おはようっ、アルト君。」
小林さんが、窓の外から顔を覗かせていた。
昨日は同室だったけど、昨日今日は別々の部屋を準備してくれた、やっぱり男女で同じ部屋は不健全だと思うし。
「……おはよう、もう起きていたの?」
「うん、エルフの子たちに起こされたんだぁ~。朝ごはん、用意してくれてるってさ。」
「……ありがたいね。」
すごいなぁ、小林さんは…たった一日でこの集落に馴染んでいる…。
それから、僕たちは用意していただいた朝食を食べた後、族長を探した。
族長は一昨日と同じ集落の中心の建物にいた。
「……族長、おはようございます。昨日思いついたことを相談したいのですがいいでしょうか?」
「あぁ、おはよう、だが……??どうしたのだ?」
「……ビデオ通話をしてもらえませんか、ダークエルフの方と。」
族長が、少し考えた。
「……ビデオ通話か。」
「はい。保護されているのが本当に仲間かどうか、確認したくて。声だけでも聞ければ安心できるかなって。」
「……気持ちは分かるが、それは難しいんだ。」
「……難しい、ですか?」
「ダークエルフは、外部の者に対して慎重なのだ。向こうがお前たちを信用していない状況で、里の情報を明かすことはできない。ビデオ通話も、里の様子が映ることになるから、向こうが嫌がるだろう。それに、ビデオだと、第三者に情報が漏れる可能性が高いのだ。」
「……そう、なんですか。」
「お前たちへの信頼が、まだ向こうにはないからな。今回は我らがいるからどうにかなっているが。」
「……また試練みたいのがあるんですか?」
思わず言ってしまった。
だって、試練はもう嫌だよ…?試練続きの異世界なんて……。
本来の目的とかけ離れてしまうし……。
族長が、少し目を細め、
「……昨日のが堪えたか?」
「……まぁ、その…はい。」
「……ダークエルフの試練については、私は関知していない。…ただ――」
「ただ?」
「里に入ること自体は、エルフの里の者が同行していれば可能だ。私たちと向こうの間には、長年の信頼があるからな。その信頼を、お前たちも借りることはできる、我らの友だからな。」
「……つまり、エルフの方が一緒に来てくれれば、入れる?」
「そういうことだ。」
「……その、同行してもらえませんか?」
「まぁ、風霊の契約者を同行させるから問題ないだろう。」
族長が立ち上がり、僕たちをどこかえ誘導するように手でジェスチャーをし始める。
「……あと、移動手段も手配していたぞ。」
「……ありがとうございます。どんな移動手段ですか?昨日も風霊と言っていましたが…。」
「ついてこい。」
僕たちは地面にある集落の外れに連れて行かれた。
木々の間に、開けた場所があった。
そこに、一台の車が…いや、
自動車があった。
「……っ。」
「どうした?」
「……いえ、なんとなくはあると思っていましたが、何で自動車があるんですかねぇ…。」
「???移動手段だと言ったぞ?」
「……いやいや、百歩譲って普通の自動車ならわかりますよ?でも、これ高級車のジープじゃないですかっ!」
「そうだぞ、私の自慢の愛車なのだっ!……結構高かったのだぞ?」
「……なんで異世界に…いや、そもそも何で地球と同じ規格なんですかね……。」
「そんなもん知らんよ。それに昨日も言ったぞ?便利だからだ。」
「……そういう話じゃなくて。」
「何が問題なのだ?まったく騒がしいな、我らが友は。」
「……昨日もスマホに驚きましたが。」
「異世界だからなんだ?今重要なのは友と会うことなのだろう?それなら、慣れろ、いちいち驚いている暇なんてないぞ。」
「……慣れろで済む話じゃないですよ。」
「慣れろ。」
族長が、あっさりと言うけど、何で異世界と地球のものでこんなにも酷似しているのだろうか。
酷似どころか、まったく同じものだ…。
借りていた部屋にコンセントもあったし、充電ケーブルも多種を用意してくれていた。
ここは本当に異世界なのだろうか?
「……やっぱりあるんですね、異世界なのに。」
小林さんが、隣で呟いた。
「……ほら、小林さんも驚いていますよ?」
「まあ、驚くよね。」
「……驚かないのは族長だけです。」
「当たり前のことに驚かれても困るぞっ!?」
「……当たり前ではないと思うんですが。」
族長が、車体の方へ近づき歩いていく。
「……と リ あ ず だ。今回は急ぐから、風霊の力を借りることにしようと考えている。」
「昨日も言っていましたが、風霊の力、というのは?」
「……あぁ、それは精霊魔法の一種だ。風霊と契約した者が、車を走らせる際に風を後押しすることで、速度を大幅に上げる。……んんん、あっ、簡単に言えば、ターボのようなものだと思えばいい。」
「……なるほど。」
レーシングゲームなどでよくあるターボ機能ですね、はい。
ゲームのような機能を知っていたとしても、簡単にはもう驚きませんよ?
「普通に走らせれば、ダークエルフの里まで半日かかるが、風霊の力を借りればその半分以下で着けるぞ。」
「……それは助かります。」
「ただ、一つ問題があるんだ。」
「……そ、それは、何ですか?」
「お前たちは、車の運転できるのか?」
「……あっ、免許を持っていないです……。」
「だと思ったいたぞ。」
いや、そもそも自動車があるなんて思ってもいなかったんですよ?
それに僕らは、まだ17歳だ、免許なんて持てないですよ。
僕が頭の中で反論していると族長は集落の方へ目を向けた。
「……そこで、同行者を用意した。」
族長がそういうと足音を鳴らし集落の方から、誰かが歩いてきた。
若い女性のエルフようで髪が、族長と同じ深い緑色で目も族長と同じ深い金色だった。
「……おはよう。」
その女性は少し眠そうに眼をこすりこちらを認識したようだ。
歳は僕たちと同じくらいだろうか?
いや、族長も見た目は若いのだけど、ね。
「……おはようございます。」
「紹介しよう。」
族長が言った。
「……私の娘だ。」
「え、娘さん!?」
「……そんなに驚くな、照れるだろう。」
いや、照れる要素はないのですがっ?
いやいや、貴女子供いたんですか!?見た目が若すぎて子供がいるなんて思いもしなかったですよ!?
「いや、でも、急に。」
「急でも何でもない。昨夜のうちに話はつけてある。」
娘さんが、こちらを見た。
「……あたしが風霊の契約者よ。貴方達の代わりに運転もするし、案内もしてあげる。」
「……ありがとうございます。」
「礼はいい。早く出発した方がいいから。」
「名前を伺ってもいいですか?」
娘さんが、少し考えるような顔をした。
「……シルフィ。」
「シルフィさん。」
「さん、はいらない。シルフィでいい、敬語もいらない。」
「……分かったよ、シルフィ。」
シルフィが驚いた顔をして、すぐに元の表情に戻ってしまった。
どうかしたのだろうか?なんで、驚いた顔を?
……あと、僕の隣で小林さんが頬を膨らませていた……なんで?
僕が一人問答をしている間にシルフィが、ジープの運転席に向かい、僕たちにも声を掛ける。
やや、無感情めだけど優しそうな人でよかった……。
「乗って。早い方がいいでしょ。」
「……あっ、はい。」
族長が、こちらへ向いた。
「……お前たち気をつけていけよ。」
「……はい。族長、昨夜はありがとうございました。……宴とても楽しかったです。」
「……礼はいい。仲間を無事に見つけてこい。」
「……はいっ!」
「それと――」
族長の声が、少しだけ声を低くなった気がする。
「……ダークエルフの里は、我らとは違う慣わしがある。絶対に礼を欠かすな。」
「……わ、分かりました。」
「礼を欠かせば、私の顔に泥を塗ることになるし、お前たちは死ぬ。」
し、死ぬ?殺されるんじゃなくて?死ぬんですか?
呪いか何かがあるのだろうか?
しかし、シルフィも特段驚いている様子がないし当たり前のことのだろう。
いや、大丈夫僕たちは日本人だ、礼を重んじる民族、大丈夫…きっと。
「……そ、そのようなことはしません。」
「分かっているが、一応シルフィの言うことを聞くんだぞ?」
族長が、少し笑った。
からかわれたのだろうか?いや、シルフィの反応から考えるとおそらく本当のことなのだろう。
本当に気負付けよう…。
「……では、良い旅を。」
――お い て か れ だ の じゃっ!
――……寝ている間に置いて枯れたのだわぁ…嫌われているのかしらぁ?
――まぁ、歯車女は嫌われても仕方ないのぉ?
――……チビのじゃ女……(ボソっ)
――えっ、なんて言った?
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