第118話 異世界の電話事情
族長が、懐を漁り出てきたもの僕も持っているスマホだった…。
しかも僕よりも最新機種の…。
「……っ、あれは。」
族長が、スマホで誰かと話していた。
スマホの使い方はこなれておりここ最近で手に入れたものとは思えない。
長い耳に引っかからないようにうまく位置を調整し普通に通話を行っている。
「……っ、えぁ?」
思わず立ち上がってしまう。
「どうしたのだわぁ?」
クロノリアが、不思議そうに見上げた。
えっ、この現状を不思議に思っているのは僕だけ?
小林さんはまだ気づいていないけど、周りのエルフたちは族長の姿を普通に受け入れている。
……いや、よく見ると宴に参加しているエルフたちもスマホを使って動画撮影したりしてるじゃんっ!?
「……エルフ族が、スマホを持っています?」
「……そうねぇ。」
「そうねぇ、じゃないですよっ!?ここ、異世界ですよっ!?なんでスマホがあるんですかっ!?」
「……便利だからじゃないのぉ?」
「そういう話じゃなくて。」
「……あらぁ、驚くのはいいけど、声が大きいわよぉ?」
「……っ、す、すみません。」
僕はハッとして声を抑える。
族長が、電話を終えてこちらへ向かってきた。
僕の視線に気づいたようで怪訝な顔をする。
「……何だ、その顔は。」
「……族長、スマホを持っているんですかっ!?」
「持っている。それが何だ?」
「……ここ、僕にとって異世界なんですよねっ!?」
族長が、少し顔をしかめた。
「……田舎者だと馬鹿にするなよっ!」
「し、していないです、ただ驚いているだけで…。」
「ここでも一応電波は届いておるわっ!」
「……そういう問題じゃなくて。」
「何が問題だというんだ?便利なものは使うものだろう?何を言っているのだ?」
「……基地局とかはあるんですか、この世界に。」
「なかったら、どうやって電波を飛ばすというのだ?」
「……管理はどうしているんですか、魔物もいるのに。」
「そんなもの防壁があるし、警備員もいるさ。」
「……。」
「……まぁ、私も詳しくは知らないが、調べれば普通に出てくるじゃろ、そんなもの。」
「……この世界、思っていたより近代的なんですね。」
「妾たちを原始人とでも思っていたのか……?」
「お、思っていないですが、少し、剣と魔法の古風な世界を想像していました。」
「剣も魔法もあるが、それだけでは生活が大変ではないか…。」
た、確かに…。
でも、僕の異世界のイメージが…。
別に原始的なものを想像していたわけではないけど…なんだかなぁ。
「……そうですね。」
族長が、スマホをしまう。
「それより、ついでだ、今の電話の話を聞け。」
「……電話の相手は誰だったんですか?」
「知人の黒耳長族だ。」
「……ダークエルフ。」
「知っているのか?」
「……名前だけは。ただ、物語ではエルフとダークエルフは仲が悪いというのが定番で。」
戦争とかで争そっていたり、ダークエルフは魔王サイドの敵役ってイメージが強い。
この世界ではそんなことはないのだろうか?
いや、普通に電話しているくらいだし、どうなんだろうか。
「昔ならそうだったな、田中アルトの言う通りだった。」
「……昔は?」
「昔は肌の違いからダークエルフは穢れた一族とされておったが、ちょっと前からは魔王様の一存でそんな差別も無くなったわ。」
エルフの昔とは何年前のことを言っているのだろうか?
それにやっぱりいるのか、魔王…。
悪い存在なのだろうか?
いや、何かの逆鱗に触れるのもよろしくない…とりあえず、後でアマテラさんにでも聞けば教えてくれるかな?
「……仲がいいんですか?エルフとダークエルフが。」
「珍しいことだと言いたいのか?」
「……そうは言っていないですが。」
「長く生きていれば、種族を超えた繋がりができることもある。それにわざわざ、肌の違いだけで差別など阿保らしく思ったのだ。そんなものより魔王様の方がヤバいからな…。」
魔王という存在は、どれほどの存在なのかな…。
古風な族長が「ヤバい」なんて言うなんて相当ヤバい存在なのだろう。
まぁ、すぐに帰還する予定だし、会うことはないと思うけど…。
族長はそう言って、僕の隣の席についた。
「で、そのダークエルフから、情報が入ったのだ。」
「……何かあったんですか?」
「おぬしらとは別の転移者を保護した、と言っておったぞ、知っているか?」
「……転移者!?」
声が大きくなってしまい、小林さんが、踊りの輪の中からこちらに気付いた。
僕が手で合図し小林さんが、輪から抜けてこちらへ駆けてきてくれる。
「……何があったの?」
「族長さんが調べてくれた結果、僕たちとは別の転移者を保護したという情報があったそうなんだよっ。」
「転移者って、まさかっ!?」
「……ヒナさん達かも…。」
流石の小林さんもかなり驚いているようで踊りは止まっていた。
僕たちの様子を確認した族長が、話を続ける。
「……複数人だと言っていたぞ、人間種が3人と、もう1人。」
「……3人と、もう1人?」
なんだろう、その言い方は?
人間じゃないのだろうか?
でも、それだと人数が足りない…。
「もう1人は、そのもう1人は転移者じゃないそうだ。」
……なるほど。
「……ヒナ先輩だねっ!」
小林さんが言う。
僕もそう思う、希望的観測だけど…。
でも、ヒナさんは前にこっちの世界…アルカディアから来たと言っていたよね?
「……そうだね。それで、残り3人は、マサトとエミリさんとリオさん。」
「……全員いるのかな?」
「……そうだといいんだけど。」
いや、スマホを使えば写真で確認できるのか?
……なんて、都合のいい異世界…。
でも、場所は離れているのだろうか?
「ダークエルフの集落は、ここから遠いんですか?」
「……半日ほど歩けば着くが。」
「半日、ですか。」
「徒歩でだ。移動手段があれば、短縮できる。」
「……移動手段?」
「この集落には、風霊の契約者がいる。頼めば、早く着けるかもしれないぞ。」
「……頼めますか?」
「急いでも仕方ない、明日、話をつけてみよう。今夜は、ゆっくりしろ。」
「……ありがとうございます。」
小林さんが、ほっとした顔をしたので僕は小林さんに語り掛ける。
「……よかった。みんな、無事なのかな。」
「……きっと無事だよっ!」
「うん…うん、そうだね。」
クロノリアが、杯を傾けながら言った。
「良かったわねぇ、手がかりが出てきてぇ。」
「あっ、はい。」
「アルトちゃん、今日だけでいろいろありすぎたわよぉ。」
……8割は貴方なんですがね。
何を他人事のように言っているんですか?
貴女のせいですよ?
「……そうですね。」
「普通の人間なら、頭がおかしくなりそうなのだわぁ。」
「……少し、おかしくなりかけてます。」
貴女のせいでね。
と言うか、貴女が僕をここに引き寄せた可能性まである。
貴女のせいでみんなとはぐれたのでは?
「正直ねぇ。」
アマテラスが、静かに笑った。
そう言えば、アルディスの声が聞こえないけど、どうしたんだろうか?
寝ている?いや、精神体が眠るのかは分からないけど…。
「……アルトは、いつも正直だの。」
「……褒めてますか?」
「褒めておるよ。」
広場の中央にあるキャンプファイヤー(みたいなやつ)の火が、揺れている。
バチバチと音を鳴らし、静かなアウストラの樹海を温かい空気で包んでいく。
修学旅行とか、こんな感じだったのかな…。
僕は修学旅行に行ってなかったから分からないけどね…。
「……明日、みんなに会えるといいな。」
小林さんが、星空を見上げながら言った。
「……会えるよ、きっと。」
そう思ってないと、やってられないよ…。
でも、みんなバラバラに飛ばされている可能性もあるんだよなぁ。
少し不安だけど、明日族長に相談してみようかな。
「……うん。」
「マサトは元気よく怒鳴ってくると思うし、エミリさんは冷静に状況を分析しているはず。」
「……リオさんは?」
「……お父さんのことを、諦めていないはずだよ、この世界にやっと来れたんだから。」
「うん、そうだね。」
「ヒナさんは――」
小林さんが、少し間を置いた。
「……またアルト君にくっついてるんじゃない?」
「……どうだろう、そうなるかな?」
そんな他愛のない話で二人で、笑った。
満天の星空が、アウストラの樹海を照らしている。
今日僕たちは大きな試練を乗り終えたんだ。
今日くらいのんびりと星空を見ていても問題ない、きっと。
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