第117話 You have a newer model than me?
第四部完!
族長が言っていた用意された服は、エルフ族の衣装のものだった。
白と緑を基調にした、軽い素材の服だった。
…これの素材って何なんだろうか?
肌感は運動服に似ている気がするけど…エルフのイメージだと…虫とかの皮じゃないよね?
「……こういう服、初めて着たよっ!」
小林さんが、自分の衣装を見ながらそう言った。
「……似合ってるね、小林さん。」
「本当っ!?」
「本当だよ。」
いや、本当に似合っているよ。
元々可愛い人だったけど、このエルフの民族衣装を着たことによって可愛いが綺麗に昇華したって感じだ。
まるで、森の妖精かのように儚いイメージがあるけど、いつもの小林さんの太陽のような笑顔が儚さと明るさを両立させていた。
「……アルト君も、なんかそれっぽいよ?」
「……???」
それっぽいとは?
「うん、エルフみたいだよ?」
「……耳は尖っていないよ?」
僕は自分の左右の耳に触れながら小林さんに頭をかしげながら聞き返す。
小林さんはクスクスと笑いながら、
「でも雰囲気はそれっぽいっ!」
と言っていた。
僕ってエルフたちみたいな超絶美形ってわけじゃないんだけどなぁ。
僕たちは身を清め衣装に着替え終えたので集落の中心に、大きな広場へ向かった。
木々の上の家々から、光が漏れており、たくさんのエルフが、集まっている広場を照らしていた。
中央では火が、焚かれていて…キャンプファイヤー?みたいに感じてしまう。
食べ物と飲み物が、並んでいき――
そして、音楽が流れ始める。
どこかから聞こえてくる弦楽器の音。
「……綺麗な音だね。」
「……うん、とても綺麗。」
僕たちが音楽で呆けていると近くにいたエルフ女性が席に案内してくれた。
案内された席はとても目立つ席で族長の隣の席であった。
席に座ると族長がすくっと立ち上がり声を上げる。
「……改めて、歓迎しようっ!我らが友、田中アルト、小林ナユタ。」
族長が声を上げるとエルフたちが、「おぉぉぉぉ!」と一斉に声を上げた。
「……ありがとうございます。」
「食べろ、そして飲め。今夜は楽しめばいい。」
族長にそう促され勧められた食べ物を口にする。
よかった…虫とかは無いようだ。
「……美味しい、です。」
「そうか、そうか。」
「……何ですか、これ?」
「この地の果実で作った料理だ。其方たちの世界にはないものだろう。」
そういえば、族長は僕たちが異世界から来たってすんなり信じてくれたなぁ。
もしかして、僕たち以外にも過去にいたのだろうか?
エルフというからには長生きなんだろうし。
いや、今はせっかくに宴なんだ、考えるのは後にしよう。
この果実の料理…甘くてとてもおいしいな。
「……こんな味がするものが、あるんですね。」
「アウストラの森は、食材も豊かでこの森に越してからは危機になったことはない。」
宴が、賑やかになっていっていきエルフたちが歌い踊り始めた。
小林さんが、それを見ながら目を輝かせている。
もしかして――
「……私も混ざってきていいっ?」
やっぱりか…。
JKって凄いな、怖いもの知らずなのだろうか?
僕は知らない人の中に混ざるのはとても怖いよ?ましてや、言葉が通じるようになったって言っても、日本ですらないし。
「混ざってもいいですか、族長?」
「構わん構わん。友なら、共に楽しもうではないか。」
「……やったぁ!アルト君、私行ってくるねっ!」
小林さんはそう言い残し、エルフたちの輪の中へ飛び込んでいってしまった。
そして、最初驚いていたエルフたちもあっという間に、馴染んでしまい気づけば小林さんが輪の中心になっていた。
「……我らが友は、どこでも馴染めるのだな。」
「……人を惹きつける何かがあるんですかね。」
族長が、そんな小林さんを見て少し笑っていた。
その時だった――
「……あらぁ、楽しそうなのだわぁ。」
僕の背中に冷や汗がタラリ…聞いたことのある声が聞こえた。
僕はばっと振り返る。
「……っ、クロノリア!?」
クロノリアが、エルフたちに混じって立っているではないかっ!?
試練の空間の豪華な衣装のまま、周囲のエルフと普通に溶け込み話していた…。
「……なんでここいるっ!?」
「この世界は魔力が濃厚なのだわぁ。そちらの世界《地球》とは違い私たち霊体《アストラル体》でも実体化して普通に生活できるのだわぁ。」
「……えぇっ。」
「この世界では意外と私たち精霊も…神々だって、普通に生活しているのだわぁ。」
「……そ、そんなことが。」
こっちの宗教団体が聞いたら目玉どころか魂まで飛びぬけていきそうな程ショッキングな話を聞いてしまったよ。
「驚くことでもないのだわぁ。この世界では、当たり前のことだものぉ。」
クロノリアが、席につき当然のように、料理に手を伸ばしていた。
ってか、なんで僕の隣に座って普通にご飯食べているんですか?
さっきまで、僕はあなたに試練でボコボコにされているんですけどっ!?
というか、霊体《アストラル体》って言ってましたけど食べたご飯はどこに消えるんですか?
「……あなたも、宴に参加するつもりですか?」
「せっかくだから、ねぇ。」
「さっきまで試練で散々やられていたんですが。」
「それはそれ、これはこれなのだわぁ。」
「……。」
「私、大精霊だものぉ。小さいことは気にしないのだわぁ」
「……そ、そうですか。」
僕が気にするんですけどっ!?
もうヤダ、この人?……。
その時、また声がした。
まぁ、クロノリアが来ればこの人?も来ますよね……。
「アルト、楽しんでおるか?」
「……アマテラさんも普通に出て来れるんですね…。」
天照大御神が、そこにいた。
白い衣を纏って、長い黒髪を揺らして、当然のようにそこに現れた。
「……あなたも実体化できるんですか?」
「異世界の魔力は濃ゆい。この地においては、妾もちぃとだけ力を使えるのじゃっ!」
それさっきそこの精霊さんから聞きましたよ…。
まぁ、神々も普通に生活していると言っていた時点で少し察していた部分もありましたけど…。
「……そうなんですね。」
「驚くな。妾は常にそばにいると言ったであろう?」
「……言ってました。」
……こんないつもそばにいるとは思っていませんでしたけど…。
「うむっ!」
アマテラさんが、席につきクロノリアと向かい合う形になった。
二人が、目を合わせた瞬間――
「……久しぶりじゃの、歯車女。」
「……そうねぇ、日光女。元気そうでよかったのだわぁ。」
もしかしなくても、あまり仲がよろしくない感じでしょうか?
試練の時のテンションはおかしかったけど、温厚そうなアマテラさんが今毒を吐きました?
そして、甘い口調であなたも毒を吐きましたよね?クロノリアさん?
「お主も変わらんなぁ。」
「……褒め言葉として受け取るのだわぁ。」
「……二人は知り合いなんですか?」
「まあ、そうじゃのぉ。長く生きておれば、顔見知りくらいにはなるのじゃ。」
「……神と大精霊が、顔見知り?世界が違うのに?」
「珍しいことでもないわよぉ。この世界では、ねぇ。」
族長が、二人を見た。
「……天照大御神様と、時の大精霊様はどちらも、太古より存在されるお方だ。」
「知っているんですか、族長さん?」
「天照大御神様の名前は聞いたことがあるなアルディスから。……顔を見るのは初めてだが。時の大精霊様は最後に見かけたのは444年前だな。」
444年前っ!?今が2026年だから…1582年っ!?やっぱり、とんでもなく長生きじゃないですかっ!?
僕が驚いている横ではクロノリアが、族長に向かって微笑んでいた。
「……よろしくするのだわぁ。」
「こ、こちらこそ。」
クロノリアは相も変わらず何を考えているのかよく分からない…。
しかし、今この場所で何かをするということはないのだろう、アマテラさんもいるし。
族長が、少し表情を崩した。
「……賑やかな友を持ったものだな、田中アルト。」
「……友達ではないですけど、僕も、そう思いますよ。」
宴が、まだまだ続いていく。
小林さんの方を見ると、エルフたちと一緒に踊り続けているようだ。
「……楽しそう、小林さん。」
「……あの子は、本当に自由ね。」
クロノリアが言った。
「……出会った時から、彼女は楽しもうと努力する人でしたよ。」
「……羨ましいのだわぁ。」
「大精霊が羨ましいと思うんですか?」
「……いつも時間を管理してばかりだから、ねぇ。あんな風に、何も考えずに楽しめたら、どれだけいいかと思うのだわぁ。」
「……クロノリアにも、そういうことがあるんですね。」
「あるわよぉ。意外だったのだわぁ?」
「……少しだけ。」
「……ふふ。」
クロノリアが、笑った。
……試練の時よりも笑顔が自然に見えるが少しだけさみしそうにも見える気がする…。
アマテラさんは、僕の隣で宴の景色を見ていた。
「……アルト。」
「はい?」
「……今日、よくやったのじゃ。」
「あ、ありがとうございます。」
「……弱い心と向き合えたのじゃ。それは、大きなことよ。」
「【僕《僕の弱い心》】は、消えていないですが。」
「消さなくていいのじゃ。」
「……。」
「……弱さを知りながら、それでも前に進む。それが、妾が見守りたかったお前の姿じゃ。」
「……アマテラスさんは、なんで僕を見守ってくれているんですか?」
実は、ずっと思っていたことだ。
僕は加護を持っているが、自分自身そんなたいそうなことをした覚えはないし、選ばれる素質があったとも思えない。
何かあったのではないのだろうか?
「……それは、今は言えぬのじゃ。すまぬ…。」
「いつか、教えてもらえますか?」
「……時が来ればの。」
「……分かりました、その時まで待ちますよ。」
火が、揺れ音楽が、続いている。
エルフたちの歌声が、夜の森に響いき渡る。
集落の木々に音が反射して音が重なり包まれているかのようだ。
「……アルト君っ!」
小林さんが、こちらへ走ってきた。
「……すごく楽しんでるね。」
「楽しすぎるよっ!こんなイベント初めてだよっ!アルト君も一緒に踊ろうよっ!」
「……僕は踊れないのですが。」
「大丈夫、エルフの人が教えてくれるってさっ!」
「……っ。」
腕を引かれてしまう。
本気で拒めば振り払えてしまうけど、せっかうの宴だし僕も踊った方がいいのかな…。
でも、人前でへたくそな踊りを披露するのもなぁ…。
「あらぁ、アルトちゃん引っ張っていかれちゃったのだわぁ。」
クロノリアが、笑っていた。
いや、止めてよ。
「……アルトらしいの。」
アマテラスも、笑った。
暗に優柔不断と言ってますか?アマテラさん…。
族長が、それを見ながら、静かに杯を傾けた。
「……賑やかな夜だな。」
「……そうですね。」
と言いかけたが、もう僕はそこにいなかった。
小林さんに引っ張られて、踊りの輪の中に連れていかれてしまったから。
「……本当に、賑やかだ。こんな日常が続くと良いのだがな。いかんいかん、私ももう歳かな、感傷にふけってしまうな。…あっ、そうだ、約束通りあ奴に連絡を取っておくかな。」
夜の森に、歌声と笑い声が響き続けている中、族長が、一人そう呟き懐をガサゴソ漁りだす。
prrrrrr……
懐から出された四角い板から規則正しい音が鳴り響き広場の中央にいた僕がその音に反応する。
試練の名残か僕の五感はまだ少しだけ鋭かったのだ。
「……もしもし、私だ。少々聞きたいことがあるのだが、今電話は大丈夫か?」
…。
……。
………。
ス、スマホっ!?
そう、族長が手にしているのは、僕も持っている携帯電話――スマートフォンだった。
――しかも、僕よりも最新機種の…。
えっ、どゆこと?
――【不在中】
――【不在中なのだわぁ】
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