第113話 【僕】と僕
「……分からないだ。倒せばいいのか、それとも。」
「……倒すことが答えだと思う?」
「……思わないよ。」
「……じゃあ、何が答えだと思う?」
「……っ。」
【僕】が、笑っている。
正直今の僕なら倒すだけなら本当に簡単に出来てしまう。
しかし、これは…この試練はきっとそういうものではないのだろう。
ルージュ達も神様もこの世界に入ってくることが出来たのだから。
「……どうせ、お前には分からないさ。お前はいつもそうだった…大切なものを失って、守れなくて、それでも前に進もうとして、でも怖くて、怖くて、怖くて…それでも最後には【僕】を忘れて前に進んでしまう。」
「……そう、だね。」
「……っ!あぁ、そうだろう――」
「……怖いよ。いつも怖がっているばっかりさ。この試練で思い出したけど……D災害の時も怖かったし、お父さんとお母さんを失った時も怖かった。ヒナさんを殺したと思った時も怖かった。怖くない瞬間なんて、僕にはほとんどなかった。」
「……だったら、なんで前に進もうとするんだ。怖いなら、止まればいいだろ?」
「……止まったら、僕には何もなくなっちゃうんだよ。また、あの何もない頃に戻ってしまう…そう思うんだ。」
「……。」
「……それに、マサトも、エミリさんも、みんなが僕を待ってくれているんだ。……ヒナさんが、笑っていてほしいから。」
僕はMこの空間にいる偽物の魔物化しているヒナさんを見て言った。
「……言いたいことはそれだけか?」
「……天にいるお父さんとお母さんに、僕が、ちゃんと生きているんだぞっ!って姿を見せたい。」
【僕】が、また黙った。
「……君が、僕の弱い心だと言うなら僕の弱さも全部知ってるはずだよね。」
「……あぁ、知っているさ。」
「……それでも、前に進もうとする理由が、僕にはあるだよ。……弱くても、怖くても、友達が、家族がいてくれるから僕は田中アルトでいられるんだよ。みんなの存在が僕を田中アルトにしてくれているんだ。」
「……それで、【僕】にどうしろというんだ?」
「……君は僕の弱い心だと言ったね?正直、僕自身弱い心は必要なものだと思うんだ。」
「……っ!?どういうこと?」
ハハハ、さすがの【僕】も驚いているようだ。
そりゃそうだよね、さっきまでバチバチに戦っていたのだから。
でも、潜在解放は、攻撃するためじゃなくて最低限防御をするために使用したのだから。
「……僕も戦いながら考えてたんだよ?君という存在は何なのかとか、己との立ち向かい方とか。」
自分と戦うのはこれで2回目だし、1対1なら以前より精神的には余裕はあった。
僕の言葉に【僕】が、少し揺れていた。
「……でも、弱い心があるから、失敗するし、恐怖で身体が竦み守れないことも多い……それに僕自身を傷つけるんだよっ!?」
「……そうかも、いや、そうだったね。」
「……それでもいいの?」
先程までの口撃はもうなく、【僕】は僕に何かを懇願するように確認してくる。
「……それだけだったら、よくないね。でも、【僕《弱い心》】がいるからこそ僕は人に優しくできるし、強く成長できたんじゃないかと思うんだ。それに、僕は完璧になろうなんて考えてないよ、だから、友達と切磋琢磨して自分を磨きここまでやってこれたんだよ。」
弱い心が、また黙った。
長い沈黙だった。
「……僕は、【僕】を受け入れられるの?」
「……もう、受け入れているよ。」
「……僕にとって【僕】は何?……邪魔なもの?」
「……僕が強くなるために必要な【相棒】かな。」
「……どうしてっ……【僕】がいるから…弱い心があるから、苦しむんだよっ!?」
「……それでも。」
僕はゆっくりと【僕】に近づいていく。
それに驚いたのか【僕】が、構え攻撃を加えようとしてくる。
その攻撃を僕は優しく包み込むように受け止めそのまま、引き寄せ抱きしめる。
――放ってきた拳以上の強さで。
勝負だよ。
「……【僕】が僕の一部だと言うなら、僕が【僕】の全てを抱えていくよ。」
「……っ。」
「……【僕】を押しつぶすつもりはないし、消すつもりもない。君は、僕にとって『必要な存在』なんだ。」
【僕】の身体は、震えていた。
ちょっとクサすぎたかな……?
でも、本心だしなぁ…。
これは、僕が昔誰にも相手されなかったときに誰かに言われたかった言葉なんだ。
君が僕だというならきっとこの言葉を待ってくれていたんじゃないかと思うんだ。
――だって君は、僕なんだから。
「……それが、君の答え?」
「うん。」
「……【僕】という重荷があってもいいんだ。【僕】は存在していてもいんだね…。」
「そうだよ。僕には【僕】が必要なんだ、いなくなられたら困っちゃうよ?」
「……馬鹿な奴だなぁ。」
気づくと目の前の【僕】は身長が縮んでおり、小学生頃の僕になっていた。
……正直僕自身の泣き顔なんて見たくないんだけどなぁ…。
少し恥ずかしいし。
「……そうかもね。」
「……でも――」
【僕】が、顔をくしゃくしゃにしながら笑った。
今度は、さっきとは違う笑い方で――
既に【僕】の心は歪んでいなかった。
そう思ったんだ。
「……僕らしい答えだね。」
「……そう、かな?」
「……【僕】は、ずっとお前に否定されたかった…そして僕に消されるのを待っていたんだ。」
「消さないよっ!?」
「……フフフ、分かっているよ。だって、【僕】を一緒に連れて行ってくれるんだろ?」
【僕】が、少しずつ形を失い始めつま先から光の粒となって崩れ始める。
消えるのではなく、溶けるように、僕の身体へ戻ってきている様だった。
「……ありがとう。」
「……こちらこそ。」
「【僕】じゃない弱い心も、君の一部だよ。忘れずに大事にしてね?」
「……うん。」
「「またね、アルト。」」
こうして【僕】は、完全に僕に溶けた混ざったのだった。
白い空間が、静かになった。
クロノリアが召喚した者たちが、1体ずつどんどん消えていく。
アイアンゴーレムと武田先生は既に僕たちで消してしまったが残っていた、閉門衆達、ヘカトンケイル――
――そして、魔物化したヒナさんが、消えた。
全員が、消えていって試練が終わったことを悟る。
「……終わったわぁ。」
クロノリアが、拍手をした。
「……合格なのだわぁ。」
「……合格、なんですか?」
合格とは?
判定基準ガバガバすぎるのでは?
「ただ強くなるだけでは、この試練は終わらない。自分の弱さと向き合えて初めて終わるのだわっ!」
この人?基準で決まる合格とはこれ如何にっ!?
しかも、この人?なりに基準があるにしろ、こんな曖昧な……。
「……試練の目的は、一体何だったんですか?」
「……アルトちゃんは、強いだけではいけないのだわぁ。弱さを知り、弱さを抱えながら、それでも前に進める者でならなければいけないのぁ。」
「……???」
「……アルトちゃんはそれでいいのだわぁ。」
クロノリアが、微笑むが、なんだかすっきりとしない……。
笑い方もねっとりとしており、なんだか怖いし。
とりあえず――
「……ルージュ、えんあ、ありがとう。本当に助かったよ。」
「……主様が、ちゃんとやったから。…現実に戻ったら記憶のことちゃんと話して?」
ルージュが、よろめきながら言った。
記憶のことか……。
「……うん、分かったよ、ちゃんと話そう…えんあも、ありがとう。」
「あぁ、それが我の役目だからな。だが、次は、もっと早く呼べ。」
「う、うん。」
「……アマテラスさんも。」
――よくやったの、アルトぉ!
アマテラスの声が、温かく響いた。
なんだか、鼻水垂らしていないか?この人……。
この人にとって僕とは一体何なんだろうか?
まぁ、今気にすることでもないし、ゆっくり話を聞いていけばいいか……。
――うぉほんっ!とりあえず、ゆっくり休みなさい、アルト
「あっ、はい。本当にありがとうございました。」
光が、広がっていく。
温かかったな光が僕を包み込み本当にこれで試練が終わったのだと悟る。
「……目が覚めたら、小林さんがいてくれるといいな。」
そう呟く。
今度こそ白い光が、僕の全てを優しく包んだ。
こうして、僕の長い長い試練に終止符が打たれたのだった。
――勝った…勝ったよ、お父さんっ!
――あぁ、やったなっ!流石は俺の娘の友達だっ!
――あっ、じゃあ、私ももう戻らないといけないのかな…。
――ふふふ、俺はいつでもナユタのこと見ているからなっ!安心しろっ!
――……ありがとう…お父さん。じゃあ――いや、またね!お父さんっ!
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