第112話 【僕】って存在
王鍵を、握りしめ僕は告げる。
「……僕の可能性を開かせてもらいます。」
――開錠『僕の可能性』
「――神威解放」
鍵が、輝く。
淡く、静かに黄金色に輝いた。
その光が、体の中へ流れ込んでくる。
鍵穴を探すように、じわじわと体の奥へ、奥へと光が向かってくる。
「……っ。」
体が、熱い…っ。
なんだこれ……っ?
今まで感じたことない熱に…解放感に僕は――
パリンっ
何の音かは分からない、だけど確かに何か…僕の中に封じられていたものの何かが、1つ解けた、それだけは分かった。
パリンっ
また、1つ。
パリンっ
また、1つ、と。
「……っ、あ、あぁっ。」
眩暈がする。
視界はぐにゃりと歪み目の前に迫ってきている【僕】の姿も歪んで見えた。
あまりにも、一度に潜在解放しすぎて、頭が処理しきれなかったのかもしれない。
おそらくこれは魔力視が、今まで見たことのない景色を映し始めたのだろう。
自分の体の中に、今まで気づかなかった流れが見える…。
細い流れではなく、太く、深く、どこまでも続く流れ――
終着点は世界の魔力だった。
「……これが、僕の。」
――魔力の原点…。
「大丈夫なのか?」
えんあの声がした。
「……主様おかえり…思い出した?」
ルージュも、何かを確かめるように僕にそう尋ねてきた。
うん、少しだけだけど…解放の効果かな、ルージュとの出会いを少しだけ思い出すことが出来た。
新宿ダンジョンが初めての出会いじゃなかったんだね…。
気づくのが遅くてごめんね…ルージュ。
「……その話は、後でしよう、ルージュ。」
「……ッ!!う、うんっ!」
ルージュは驚きながらも喜びの感情を見せそのまま地面にゆっくりと座り込む。
やっぱりスキルの影響か、疲労が激しいようだ、ここからは僕一人で大丈夫だよ。
少しだけ待っていて。
【僕】が、こちらを見ていた。
その目が、少し変わっており、さっきまでの冷たい目ではなく、何かを確かめるような目だった。
よく見ると、【僕】と僕の胸にも魔力の線で繋がっていた。
やっぱりか……。
「……【僕】が何者か気づいたんだね。」
「……うん、ごめんね。ずっと気づかないでいてしまって。」
「なら、これからどうすればいいか分かるね?」
「うん、結局は戦うしかないんだね?」
「そうだね、それでしか【僕】は君を認めることはできない。」
「分かった。…行くよ、戦おう。」
そう言って僕は踏み込む。
素手での踏み込みだ、未来のアルトが、拳を繰り出してきた。
さっきまでとは違い今度は、受け止めることが出来た。
王鍵の効果は凄まじく、たとえ今回限りだとしても自分の力が何倍にも膨らんでいるそんな実感があった。
「……っ!?」
【僕】が、目を見開き固まる。
さっきまで弾き飛ばされていた攻撃を、今度は受け止めた、その事実に驚いているようだ。
「……ちょっとズルくない?その鍵…。」
「……使えるものは何でも使う主義なん、だっ!」
僕は受け止めた拳をそのまま押し返した。
【僕】が、後退し体制を整える。
「……僕なんて、何もない全然弱いただの学生だよ、でも、力を貸してくれたみんなの期待は裏切りたくないんだ、僕は。」
「いちいち癇に障るなぁ、君はぁっ!」
【僕】が、本気の殺意を持って僕に突貫してきた。
連続して、攻撃してくる拳は一撃一撃に力が籠っており、ルージュですら危ういだろう。
僕はその攻撃を魔力の噴出で防ぎきる。
「……っ、強すぎるっ!?」
「……でも、これはただ強くなっただけじゃ試練の本質じゃないんでしょ?」
アマテラスさんの声が、頭の中に響く。
――気づいておったのか…。
「……えぇ、魔力線の繋がり、時大精霊の反応でなんとなく察しました。」
――ほほぅ、なかなかの洞察眼じゃな。
僕は【僕】を再確認するように見る。
「……【僕】はただの召喚体ではないでしょ?これは、最初から分かっていました。」
【僕】は少しの間黙っていた。
いや、だって、他の召喚体と違って一人だけ話していたし……。
「……気づいたんだ。」
「……君は僕なんだね…。正確に言うなら、僕の弱い心、なのかな。」
「……っ。」
「僕の幼い頃から積もった、妬む心、恨む心……僕の中にある、全部の弱さの塊――」
「そうだよ…やっと気づいたんだね。【僕】は田中アルト自身の弱さのだ、だからこそ、お前には負けるわけにはいかないんだよっ!」
「……どうして?」
「【僕】がお前に負けたら、【僕】の…僕の存在意義が無くなってしまうっ!?お前はいいさっ!今を楽しくやっているのだろうっ?でも、僕はそうはいかないっ!だって、僕には世界を恨む権利があるっ!特に、そこの女神は特にねっ!」
「……っ!?」
どう向き合えばいいのか、分からなかった。
はたして倒すだけでいいのだろうか?
だけど、倒すだけでそれはどういう意味になるのだろうか?
「……主様。」
ルージュが言った。
「……その人を、どうしたい?」
「……分からないだ。倒せばいいのか、それとも。」
――これから、どうなるんだろう…。
――それは、ナユタの友達が決めることだよ…俺たちは見守ることしかできない。
――うん。
――……ナユタは友達のことを信じてやればいいんだよ?
――うんっ!
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