第104話 夢の試練 8――現実世界にて1
その頃、現実の世界では異変が起きていた。
試練の扉の前で、ナユタが目を覚ました後のことだった。
「……終わったんだ。」
私はそう呟いた。
涙で濡れた顔を、拭うと心が、軽いことに気がついた。
隣を見ると――
アルト君は、まだ眠っていた。
さっきまで苦しそうだったけど表情が、今は変わっており、とても穏やかに微笑んでいるかのような顔になっていた。
私の試練では、私の過去のトラウマを見せてきて、それが解消?と言えばいいだろうか、問題が亡くなれば試練クリアだった。
アルト君もこんなに穏やかな顔をしているんだから、試練をクリアしたのではないかと思い――
「……アルト君、起きたの?」
とりあえず、呼んでみた。
だけど、返事はなかった。
どうやら、まだ眠っているみたい…。
「アルト君?」
一応もう一度、呼んでみた。
やはり返事はなかった。
「……アルト君、起きて。」
肩を揺さぶってみた。
だめだ、返事はない。
……起きない。
「……おかしい。」
私は、眉をひそめる。
試練が終われば目が覚めるはずなのでは?
この表情…試練をクリアしたんじゃないの?
自分はそうだった。
なのに、アルト君は起きない。
「……アルト君、聞こえる?」
その時、アルト君の体が、いきなり動いた。
なんだ、やっぱり起きてたじゃん!
「……っ!」
アルト君は起き上がった、起き上がったのはいいけど…。
目と瞳孔が開かれていて、目の色が、おかしい?
焦点が、定まっておらず、人形のようなガラス玉みたいな目をしていた。
「……アルト君?本当に起きてる?」
返事はなく、ただアルト君が立ち上がり、腰に備えていたフランベルジュを、腰から抜いた。
「……え、ちょっと!何してるのっ!?」
無言のアルト君が、こちらへゆっくり…ゆっくりと歩いて向かってきた。
「ちょ、ちょっと待って! アルト君!!」
フランベルジュが、振り下ろされ咄嗟に、横に転がった。
な、何がっ!?
さっきまで私がいた場所を見ると床に刃が当たって、火花が散っていた。
ほ、本気でアルト君が私を…っ?
「……っ、何が起きてるの!?」
立ち上がって間合いを取る。
再度、アルト君を注視するとアルト君の目は、こちらを見ているようで一切こちらを見ていなかった。
いや、正確にはこちらを見てはいた。
でも、見ているのは私じゃなく夢の中の何かを、見ていると言った方がいいのだろうか。
「……夢の中に囚われたまま、身体だけが動いてるの?それも、無意識に?」
村長さんはこのことを言っていたのだろうか?
このダンジョンに入る前にアルト君と村長さんが話していて、そんな大事なことは早く言ってくれよ…、って言っていたことを思い出す。
私は、この世界の言葉は聞き取れないから、アルト君が言っていたことでしか判断できないけど…。
でも、仮定であろうと、今私はそう判断した。
「……アルト君を傷つけずに、止めないと。」
また、フランベルジュの斬撃が飛んで来る。
私は、とりあえず躱し間合いを取った。
今のアルト君の動きは、いつものアルト君とは違って本能的で、機械的で、ただ目の前の何かを排除しようとしている、そんな動きだったからどうにか対処は出来る。
でも――
「……意識がないのに、この動きの速さ…っ。」
そう、とにかく速いのだ。
今のアルト君は、一つ一つの動作がいつものアルト君より速かった。
無意識だから、制限がなくなっているのだろうか?
技能がない代わりに肉体の限界を超えた動きをしているの?
でも、そんな動きを続けたらっ――
いや、そんなことを考えている場合じゃないっ!
フランベルジュが、また飛んで来る。
しかも、今度は連続で。
攻撃するわけにもいかず、私は回避し続けることしかできなかった。
……どんどん攻撃に技が掛かってきている気がする…っ。
「……アルト君っ! 私だよっ! ナユタだよっ!?……聞こえてないの!?」
な、なんで返事がないのっ!
呼びかけても無視され、一方的に私に攻撃をしてくる…なんだか少しだけだけどムカついてきたよ?私っ。
フランベルジュが、また振り下ろされるけど、私は、今度は躱さなかった。
逆に踏み込み、フランベルジュの軌道の内側に入り込んで、アルト君の腕の内側に体を滑り込ませて、肘で手首を打ったやった。
ガキンっ!!
という音がして、フランベルジュが空中をくるくると回転し舞って床にカランカランっと落ちた。
その流れのまま、アルト君の背後に回り込んで、アルト君の腕を後ろから取って、動きを封じた。
「……アルト君、止まってよっ!」
アルト君は、剣が無くなりただただ暴れている。
やっぱり…っ力が強い…っ!
私の力じゃすぐに解かれちゃうよ…っ。
「……っ、止まってっ!」
腕に、さらに力を込め何とかアルト君を押さえつけ、また、呼びかけを試みた。
「……夢の中で、何があるのか分からないけど…。」
アルト君が、まだ暴れている。
でも、私は諦めないよ、アルト君…っ。
「……でも、私は…ここに戻ってきて欲しいよ…。」
動きが、少し弱まった?
この切り口なら…私に反応してくれているの?
それとも、中にいるアルト君が抵抗をしてくれているの?
分からない…でも、少しでも効いているならっ――
「……みんながいるよ…?マサト君も、エミリちゃんも、リオさんも、サクラ先輩、ヒナ先輩だって…っ!」
そう皆いるんだよ、アルト君?
私が一人じゃないようにアルト君も一人じゃないんだよ…?
「……それに…私も、いるよ。」
やっぱりっ!
アルト君の身体の力が、少しだけ抜けているよ…っ!
それでも、意識は全然戻らないけど…。
だって、目の焦点が、まだガラス玉のままだし…。
「……だめ、なの?」
――ヲイっ!なに早々に諦めとんのじゃ…っ!
――絶対離さないのだわぁ…。
――出たなっ、メンヘラめっ。
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