第9話 異世界魔王、女生徒を救う
―――芦野千歳視点―――
私の名前は芦野千歳。
高校二年生。
いま私は、担任の先生に連れられて社会科資料室へと来ていた。
委員会の用事があったので行こうとしたところ、先生に呼び止められて連れてこられたのだ。
用事があるので後にしてください。
そう断ることもできたのに、私にはそれができなかった。
すべては……私自身の引っ込み思案な性格のせいだ。
本当なら、同じ委員の王真君と一緒に職員室に行って資料を受け取る予定だったのに。
それを私が放棄した形になる。
この引っ込み思案な性格で、自分が割を食うならば別に構わない。
だけどそのせいで自分以外の人に迷惑がかかるというのは申しわけなくて、罪悪感がズシリと心にのしかかった。
「よく来たなあ、芦野」
社会科資料室についた後、担任の先生がこちらを振り向いてそう告げた。
「はい……」
よく来たもなにも、この人が無理に私を連れて来たのに。
そう思ったけど、そのことは声に出さず、ただうつむいて先生の言葉にうなずくだけだった。
「まあ座れ。ゆっくり話そうじゃないか」
「は、はい……」
小野田先生の言葉にしたがい、私は近くにあった椅子に座る。
本音としては、あまりゆっくりしたくない。
私は、この小野田先生が苦手だった。
小野田先生は、私の胸によく目線が行く。
私は同年代の人に比べて胸が大きい。
いや……本当は、大人の人と比べても大きい。
この大きな胸は私のコンプレックスだった。
だけど小野田先生は、無遠慮に私の胸をジロジロとみている。
この人は、学校の教師なのに……。
「なあ、芦野。最近調子はどうだ? 新学期になって、クラスで居心地悪くないか? 馴染めてないんじゃないか? お前は引っ込み思案そうだからなぁ」
小野田先生は座る私の後ろに立ち、肩に手を置いた。
ビクンッ、と驚いて背を震わせる。
「あ、あの……。先生?」
「なあ、先生がお前に自信をつけさせてやろうか?」
「え? な、なに、言って……」
「お前に自信がなくて引っ込み思案なのはな、経験がないからだ」
「…………」
「人はいろんなものを経験して、成功や失敗を重ねて、それが自信につながっていくんだ。お前は経験をしていないから、自分に自信がなくて、引っ込み思案なんだよ。だから、俺が経験をつけさせてあげよう」
「な、なんの……。けいけん、ですか?」
「そんなのセックスに決まってるだろ」
小野田先生の言葉に、私は頭が真っ白になった。
「…………い、いや」
「いや、じゃないだろ。どうせお前みたいな女は、いずれ体を売るようになるんだ。エロい体してるもんな。パパ活とか立ちんぼとか、するようになるんだよ。その前に、俺が一回やって自信をつけさせてやる」
「や、やめて……。し、しない。そんなの」
「ああ!?」
「ヒッ」
大きな声を出されて、私は震える。
「し、しません。そんなの……! 失礼します」
精一杯の勇気を出してそう言い、私は立ち上がって資料室を出ていこうとする。
しかし、逃げようとした私の手を小野田先生はつかんだ。
「逃げるなよ」
「ヒィッ……」
小野田先生に手をつかまれて、私は足がすくむ。
「てめえこのこと誰かに言おうとしたら、どうなるかわかってるだろうな!?」
「い、いわない。いわないから……」
「てめえのことさらって犯しまくってやるからな。二度とまともに生活できなくさせてやる!」
「……!」
その言葉を聞いて、私は恐怖のあまり声が出せなくなった。
こんなとき、反抗できない弱い自分が嫌になる。
誰か……。
誰か助けて……。
「ほう。くだらないことをしているな」
その時、声がかかった。
いつの間にか社会科資料室の扉が開いていて、一人の男子生徒がこちらを見ている。
その人は……同じクラスの王真君だった。
●
―――王真勇人視点―――
「おい、芦野。委員会の用事に行くぞ。こんなところで油を売ってないで、さっさと来い」
社会科資料室にたどり着いた俺は、同じクラス委員の芦野に声をかけた。
「お、おうま、君……!」
芦野は小さい声で俺の名前を呼ぶ。
ふと見ると、クラスの担任の男――確か名前は小野田といったか――が、芦野の手をつかんでいる。
こいつが邪魔で、資料室を出れないのか。
「おい、そこのお前。邪魔だろうが。さっさと手を離せ」
そう気づいた俺は、小野田に向けて言葉を放つ。
「誰だてめえ……って、なんだようちのクラスの陰キャかよ」
小野田は俺の乱入により、一瞬だけ焦った顔をした。
しかし俺の顔を見て、ほっと一息安堵する。
「こいつなら大丈夫だろ。おい、俺たちは取り込み中なんだ。さっさと帰れ」
「くだらんな。どうせ若い女に発情して性行為を図っただけだろう。そんなものより、クラス委員の仕事の方が大事だ。俺の手を煩わせるな」
この状況を見れば、だいたいの事情は察せられる。
この男が盛ろうが、芦野がその毒牙にかかろうが。
本来ならば、そんなことは俺にとってはどうでもいいことだと切り捨てるのみ。
だが、そんなくだらないことのせいで芦野が委員の仕事をさぼることになり。
それによって俺の仕事が増えることは業腹だ。我慢ならない。
そういうのは、やるべき仕事が終わった後でやれ。
「あん? なんだお前。わかってんのかよ。頭の回転が悪いやつだと思っていたが、案外、感はいいらしいな。まあいい。王真、お前このこと言いふらしたりすんなよ。ああそうだ、どうせなら口止め料代わりにお前もヤっていくか? よかったなあ、 こんなエロい体の女抱けるなんて。こんな機会、お前の人生には二度とないだろうよ! ギャハハ!」
「……なんだこいつは」
呆れの余り、俺はため息を漏らす。
吐く言葉は低俗な戯言ばかり。
おそらく、こいつは昨日俺が処したあのクズどもと同種の存在だろう。
自らの肥大化した欲望を理性で抑えることができず。
この俺の言葉を理解する知性も持っていない。
そんな、ゴミのような存在だ。
「俺に対して敬意を欠いた言動を行ったこと。一度は許してやろう。だが二度目はない」
そう小野田に告げた後、芦野に対して言う。
「お前もそんなところで固まっていないでさっさと出ろ」
資料室の外へと出させるべく、芦野の手をつかむ。
「あっ……」
と、芦野は小さく声を漏らす。
そのまま引っ張ると、小野田のつかんでいた手は離れた。
「てめえなに俺の邪魔してんだよおおおおおおお!!!」
芦野を連れていこうとしたら、後ろで小野田が発狂していた。
「陰キャのくせになんだぁ? 女の子助けて点数稼ぎかぁ? 俺はてめえみたいな正義マンが大っ嫌いなんだよおおおおお!」
「……二度はない、と言ったはずだがな」
どうやらこいつも昨日のクズ共と同じく、力によって痛みを与えることでしつけなければわからない質らしい。
「ならばいいだろう。お望み通り、痛みで教育してやろう」




