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第8話 異世界魔王、勧誘される


 体育が終わった後。



「すごかったね、王真君!」


 弓村が話しかけてくる。


「見てたよー。王真君がホームラン打つとこ。それとジャンプしてボールとるとこ。あんなすごいの初めて見たよ! むかし野球やってたの?」


「やったことない。あれが初めてだ」


「えっ! 初めてやってあんなホームラン打てたってこと!? それほんとうにすごくない!? 練習したら野球選手になれるんじゃないかな!」


「興味ないな」


「そう? もったいないなー」


 でも王真君らしいかもね、と弓村は付け加えた。



「おい、陰キャ――いや王真!」


 俺と弓村が話していると、野球部の木村と山本がこちらにやって来た。


「何の用事だ」


「王真。俺はお前のことを、弓村さんに近づくいけ好かない陰キャだと思っていた」


「私?」


 自分の名前が出てきたので、弓村が口をはさむ。


「えっ、あっ、弓村さん。いたんスか……?」


 弓村がいたことに気づいた木村が、なぜか急に声が小さくなり語気も弱まる。


「はじめからいたんだけどな」


「影が薄いんじゃないか?」


「あっ、ひどーい。そんなひどいこと言う王真君にはパンチしちゃうもん」


 えい、えい、と弓村が俺に弱い勢いで拳を当てる。

 こんなもの、俺でなくとも痛くもなんともないだろう。

 だが、たとえ威力が弱かろうと俺に向かって殴ることは不敬にあたる。

 

「不敬だぞ。やめろ」


「はーい。ごめんなさい」


 俺の言葉に素直に従う弓村。


「その素直さに免じて、今回だけは特別に許してやろう」


「ははー。ありがたきしあわせ」



「お、おい、王真ぁ……? 俺達と話してる途中で、なぁーんで弓村さんとイチャついてんのかなぁ?」

「そうだぞ王真。けしからん羨ましい憎らしい妬ましい……!」


 木村と山本がまた殺気を放つ。


「い、イチャ……!」


 木村と山本の言葉を聞いた弓村は頬を赤くする。


「べ、別にそんなことないんじゃないかな。か、からかうくらいなら、私はもう行くね!」


 弓村はそう言葉を残して逃げるように校舎へと戻っていった。



「それで、お前らは結局何の用事だ?」


「あ、ああ……。俺たちはお前を野球部に誘おうとおもってだな」


「あれだけのバッティングスキルにジャンプ力。きっとお前には優れた野球の才能があるのだろう」


「俺はお前のことを、弓村さんに近づくいけ好かない野郎だと思っていた。いやいまでも思っているが」


「だがそれはそれとして、お前に野球の才能があることも事実だ。そんな人間を野球に誘わないことは、野球の神様が許さん」


「というわけでだ、王真! 野球部に入り、俺達と一緒に甲子園を目指さないか? 俺と山本とお前なら、甲子園優勝も夢じゃない!」


「ともに甲子園を目指そう!」



 木村と山本は俺を勧誘していたが。


「断る。興味はない」


 野球にも甲子園にも興味がない俺は、それを断ることにした。


「な、なぜだぁ~。お前さえいれば、絶対に甲子園にいけるのに!」


「我が野球部悲願の甲子園出場が~!」

 


「だから興味ないと言っているだろう。甲子園ならお前たちだけで勝手に行け」


「俺達だけで行けるわけないだろう!」


「他人に頼るなバカどもが」



 野球部に入れ、甲子園に共に行こう、と縋りつく二人を払いのけ、俺は校舎へと戻っていった。




 5限の体育が終わり、6限の授業も終わった後。

 放課後になった。


 そのまますぐに家に帰ろうかとも思ったのだが、そういえば委員会の用事を頼まれていたことを思い出した。


 面倒だが、俺は与えられた仕事から逃げるような情けないことをする魔王ではない。


 それに委員会の用事といっても、職員室から書類を貰って配るだけだ。

 大したことではない。


 ああ、そういえば。

 俺の他にもこのクラスに委員はいたな。


 そいつも伴って職員室に行こうとしたのだが。

 しかしそのクラス委員はどこにもいない。


「帰ったか。不届き者めが」


 魔王たる俺ですら仕事をこなそうとしているのに、たかが人間ごときが仕事を放りだすなど言語道断だ。

 明日、その身にふさわしい罰をあたえてやらねばと思いつつ職員室へと向かっていると。



「……なんだ。いるではないか」


 廊下の窓から、件の同じ委員の生徒が歩いている姿を見ることができた。


 その生徒の前には担任の教師もいる。


 彼らはどこぞの教室の中に入っていった。

 あそこは……たしか、社会科資料室とかいう部屋だったか。


 何があって、いつ使うのかわからない部屋だ。

 当然、委員会の用事ではないだろう。

 


「この俺がいる限り、サボりなど許さん。やれやれ。しょうがない。ここはこの魔王たる俺が迎えに行ってやろうか」



 俺は彼らが入った社会科資料室へと足を向けた。


「ええと、確かあいつの名前は……芦野千歳だったか」

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