第7話 異世界魔王、野球をする
昼休みが終わったあとも、次の授業がある。
次の授業は体育だった。
体操服に着替えた後、グラウンドに集合して男女に分かれる。
今日の体育は、男は野球で女はバレーらしい。
野球か……。
子供のころに家にあったテレビで、野球を見たことはある。
だからどういうものかは理解しているが、実際にプレイしたことはないんだ。
子供のころに少年野球チームに入っていたわけでもないし。
簡単なルールくらいは知っているから、なんとかなるか。
クラスの男子が二手に分かれ、ゲームが始まる。
もちろん俺もそのうちの一つに入れられる。
「おい、バッター譲ってやるよ。先やれ」
クラスメイトからそういわれ、俺はバッターボックスに立つ。
学校の授業なので、バッターの順番などは適当だ。
打ちたい奴から打っていき、一巡したらまた打ちたい奴からスタートという感じだろう。
バッターボックスに立った俺は、後ろにいるキャッチャーから殺気を向けられる。
「てめえ陰キャ野郎……!」
「その陰キャ野郎というのは俺のことか?」
「あたりめえだろうがよ。昼休みは良くもやってくれたなあ。あのクラスのアイドル弓村さんと仲良くしたばかりか、彼女の弁当まで食べやがって。うらやましすぎるだろおい」
「くだらん……」
「スカしてんじゃねえぞ、陰キャ。どうせ内心大喜びだったんだろ。美味かったんだろ、弓村さんの弁当。なあ!」
「まあまあだったな」
「キェェェェェ!」
俺の言葉に怒り心頭に達し、キャッチャーの男は奇声を上げ始めた。
なんだ。
ただの道化か。
「お前は道化として面白がってやろう。よかったな」
「誰が道化だぁ! クソが! おいやれピッチャー!」
「おうともよ! 俺たちのあこがれの弓村さんと一緒にお弁当を食べたばかりか、あ、あーんまで……! 断じて許しておけねええええええ!」
気合いを入れたピッチャー。
気勢を上げているあたり、おそらくあいつも道化だろう。
「おい聞け陰キャ! 俺は野球部のエース、木村だ! この俺がお前を打ち取ってやる! そして三振とった情けないお前の姿を弓村さんに見せて、幻滅させてやる!」
「弓村に見せる、ね……」
俺は女子がバレーをやっている体育館の方を見る。
そこには何人かの女生徒が、野球をしている俺たちを見ていた。
そこには弓村の姿もある。
「ははは! 明日から弓村さんのお弁当を食べるのはお前じゃない。この野球部エースの木村だぁ!」
「そしてそのエースとバッテリーを組んでいるこの俺、山本も一緒に食べるのだぁ!」
「勝手にしろ。幻滅だのどうでもいいし、弁当などもっとどうでもいい。弁当なら妹のつくったものだけで十分だ」
「チクショウなんだその余裕はぁ! 自分、モテても別に興味ありませーんってか! スカしてんじゃねえ!」
「こっちは死ぬほど嫉妬してるっていうのによぉ!」
「ていうかてめえ今、妹の弁当って言ったよな! 妹に弁当作ってもらってんのか羨ましいぞ!」
「俺の妹なんざ、俺に対して臭いと死ねしか言わねえのによぉ!」
「「許さん!」」
二人して気合いを入れる。
キャッチャーの山本が構え、ピッチャーの木村がボールを投げた。
「遅いな」
一般の高校生の放つ野球ボールのスピードなど、せいぜい時速130kmほどだ。
普通の高校生ならば反応することは難しいだろう。
だが俺は普通の高校生ではなく魔王。
異世界では音速の戦いすらしていた俺が、この程度のスピードに反応できないわけがない。
むしろ遅すぎてあくびが出るほどだ。
バットを振ると、「カキン!」といい音がなってボールは空へと飛んでいく。
そのままボールは空の彼方へと消えていった。
「しまった。つい力加減をあやまって飛ばしすぎてしまった」
「え……?」
「うそ……?」
その場にいたクラスメイト全員が、ポカーンとしながら飛んで行った方向を見る。
「あれ? どこ消えた?」
「野球ボールってあんな飛ぶっけ?」
「どんだけ力があったらあんなに飛ぶんだよ。メジャーリーガーですら無理だろ」
と、各々呟いている。
クラスメイトがおののいている中で、俺には一つ疑問があった。
「これはホームランということでいいのか?」
●
ひとまず相談して、ホームラン扱いにはなった。
しかし俺は次から攻撃にはまわらないということになった。
理由は学校の器物をなくすわけにはいかないからだ。
それが決まった後、攻守交代をして俺は守備に回る。
攻撃に回ることはダメだが、守備は問題なかった。
守備側なら、飛ばしすぎてボールがなくなるなんてことはないからな。
守備の位置は適当に決めて、俺は外野を守ることになった。
場所はセンターだ。
センターといっても、学校の狭いグラウンドの一角でしているし位置も適当に決めているから正確ではないんだがな。
「はっはっはー! 野球部エースの木村参上! 俺は攻撃側も得意なんだよ! 先ほどは油断していてやられたが、もう同じ轍は踏まん! ここで活躍してやろう!」
ピッチャーがボールを投げるも、木村は軽々と打つ。
自分でいうだけあり、なかなか悪くないバッティングだった。
ボールは俺の頭の上を飛び越えていく。
本来ならば、俺はグラウンドを走ってそのボールを追いかけ、そしてボールを投げ返すということをしなければいけないのだろうが。
「面倒だな。この場でアウトにしてやろう」
そう決め、一気に10メートルほどジャンプする。
そしてボールをミットに収めた。
これで木村はアウトだ。
「ああ、ちょうどいい。他の打者もアウトにしてやろう」
木村の前に打った打者が一塁から二塁に向かって走っているところだった。
二塁にボールを投げ、塁に出ていた方もアウトにさせる。
ダブルプレーというやつだ。
「え……?」
しかし俺がダブルプレーをしてやったというのに、なぜか周囲が固まっていた。
「え? あれ、めっちゃジャンプしてなかった?」
「いま10メートルくらい跳んでたろ」
「普通に人間を超えてるだろあれ」
「見間違いか? 目の錯覚か?」
「高跳びの世界記録って何メートルだっけ……?」
「おい。さっさと続きをやれ」
固まっているクラスメイトに向けて、俺は言った。




