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第6話 異世界魔王、弁当を食べる


 学校の授業を受ける。


 記憶を思い出す前の俺はまじめに学校に行っていた。

 そのおかげか、授業の内容についていくことは造作もない。


 ここらへんは、過去の王真勇人の生真面目に感謝しなければいけないな。


 魔王たる俺が、学校の授業が難しくてついていけないというのは格好がつかない。


 

 まあ、もしついていくことができなかったとしても、すぐに追いついてみせただろうがな。

 これでも頭の出来はいいのだ。


 俺が魔王軍を率いていたのは、ただ力が強かったからだけではない。

 それにふさわしいだけの頭の良さもあったからだ。



――キーンコーンカーンコーン。


 鐘が鳴り、四時間目の授業が終わる。

 昼休みになったのだ。


 食事休憩を含めた1時間近くの休みが与えられる。

 学生にとっては最も楽しい時間だな。


 教師が教室から出ていった後、生徒たちはいくつかに分かれる。


 学食に食べに行く派。

 売店に食事を買いに行く派。

 持ってきた弁当を食べる派。



 俺は弁当派だ。 


 鞄から自分の弁当を取り出す。

 市販品ではない。愛華が作ってくれた弁当だ。


 愛華はこうして毎日弁当を作ってくれるのだ。



「あ、王真君もお弁当?」



 弁当を取り出した時、横から話しかけられる。

 相手は弓村だ。

 

 弓村は、休み時間になるたびに俺の机に来て話しかけてくる。

 昼休みも案の定こちらに来た。



「私もお弁当なんだ。一緒に食べてもいい?」


「構わん」


「やった。ありがとー」


 弓村は隣の席の椅子をこちらへ持ってきて、俺の横に座り、自分の弁当を置いた。


「いただきまーす」


 と言って自分の弁当を食べ始める。


「王真君のお弁当おいしそうだね」


「やらんぞ」


「ふふ。お弁当好きなの?」


「そういうわけではない。妹が献上してきたものだからな。他者にはやらんというだけだ」


「献上って。ふふっ。面白い言い方するよね」


 弓村は小さく笑う。

 

 こいつは何がおかしいのか、俺の話し方が面白いらしい。

 その程度のことで腹を立てるほど狭量でもないので、スルーしているが。



「でもすごいね。妹ちゃんが作っているんだ」


「ああ」


「すごくおいしそうだな……。ちょっとだけもらってもいい? 私のお弁当もあげるからさ。交換しよ?」


「断る」


「ケチ」


「ケチだと? 自分の卑しさを棚に上げるなよ」


「い、卑しさって……。だから交換だって言ってるでしょー」


「残念だったな。俺の弁当とお前の弁当では価値が異なる。なんといってもこの弁当は、俺の妹――つまりは魔王の妹が作った弁当だからな」


「ふーん。妹ちゃんが作ったから特別かー。王真君ってもしかしてシスコン?」


「シスコン? なんだそれは」


「妹のことが大好きなお兄ちゃんのこと」


「なにかとおもったらそんなことか。別に大好きというわけではない。ただ、愛華は魔王の妹であり、普通の人間とは異なる特別な存在だというだけだ」


「やっぱりシスコンじゃん」


「語り聞かせても無駄か。お前も所詮はその程度の存在ということだな」


「王真君もかたくなだね……。はいはい。わかった。王真君はシスコンじゃありません」


「わかればいいのだ」



 弓村がようやく理解したところで、俺は弁当を食べ始める。




「――――――クソ、あの陰キャ野郎」


 小さい声が聞こえてくる。


 相手は弓村ではない。

 クラスの男どもだ。


「クラスで……いや学年で1番の美少女の弓村さんとお近づきになりやがって」

「陰キャのくせに生意気だぞ」

「絶対許せねぇ」

「弓村さんもなんであんな陰キャと弁当なんて食べているんだ」


 

 ブツブツつぶやきつつ、男どもはこちらを睨みつけている。


 陰キャとは俺のことだろうな。


 このつぶやきは小さく、距離が離れている以上、耳のいい俺にしか聞こえないだろう。

 事実、弓村なんかはのんきに弁当を食っているくらいだしな。


 

 クラスにいる男どもは、俺に対して殺気を浴びせている。

 この殺気は休み時間に弓村が俺に近づくたびに漏れていた。


 殺気といえども、前世で魔王軍たちが常に持っていたような殺気とは比べるべくもない小さいものだが。


 小さい羽虫が威嚇しているようなものだ。

 この程度の殺気、気にするほどのものではない。



「ねえ王真君」


「なんだ」


「王真君のお弁当と私のお弁当を交換するっていうのは断られちゃったけどさ」


「ああ」




「なんだあいつ。弓村さんの誘いを断りやがったのか」

「陰キャのくせに生意気だ」

「弓村さんの弁当を貰えるんなら、俺なら消費者金融に借金してでも貰うのに」

「俺は内臓を売る」

「俺は家宝を質に入れる」

「お前の家に家宝なんてないだろ」




 くだらん嫉妬は置いておき、弓村の言葉をきく。


「それがどうかしたか?」


「じゃあさ。私が一方的に王真君にお弁当をあげるのはどう? それはいいでしょ?」


「別に構わんが、お前に得はないぞ」


「え~。すっごい得だよ? 王真君が美味しいって顔を見れるかもしれないし」


「俺の顔など見た所でべつに面白くはないだろう」


「そんなことないよ? 私、王真君の顔みるの好きだな」


 弓村は俺の方へと顔を近づけてくる。


「うん。けっこういいかんじ」




「陰キャ野郎ーーーーーーーー」

「あいつマジふざけんなまじでおい」

「弓村さんに顔を近づけてもらうだけでも死ぬほどうらやましいのに、さらには顔を褒めてもらうとかうらやましすぎて死ぬわ」




 弓村は俺から顔を離し、にっこりとほほ笑む。


「というわけで、王真君に美味しいって喜ぶ顔してもらうために、おかずあげるね♪」


「つまりお前は、俺に物を献上したいというわけか。殊勝な心掛けだな」


「ふふふっ。そうそう。殊勝なの。これはわたしのおご――。あ、ちょっと待って、言い直す。ふっ、これはオレのおごりだ」


 なぜかキメ顔をしながら弓村は自分の箸を使っておかずを差し出す。


「はい。あーん」


 差し出されたおかずを俺はパクリと食べる。


「まあまあだな」


「あっ。ひどーい。せっかくあげたのに」


「献上されたものに対して、俺がどういう感情を抱こうが俺の勝手だ」


「まあそれもそっかー」


 あはは、と弓村は笑う。




「陰キャアアアアアアアア」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「あいつマジふざけんなあいつマジでおい」

「弓村さんからあーんしてもらうだとぉぉぉぉぉぉ」

「なんて羨ましいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「しかも『まあまあ』だとふざっけんなあああああ」

「そこは美味しい以外の答えはねえだろうがよおおおお」

「羨ましい憎らしい死ね死ね死ね死ね」

「次の授業は体育か……」

「覚えていろよ陰キャ野郎……」



 クラスにいる男どもから嫉妬がうずまいているが……。

 まあ、どうでもいいか。


 気にすることはなく、俺は妹の弁当を食べ続けた。


 うむ。美味い。

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