第29話 異世界魔王、闇金に行く
借金取りを思う存分痛めつけた。
「う、うう……」
俺に拷問魔法で痛めつけられた借金取りは、うずくまったまま泣いている。
人間の身には余るほどの苦痛を与えられたのだ。
だが、廃人にはなっていなかった。
俺が手加減してやったからだ。
手加減した理由は同情ではない。
「お前にはまだやることがある」
「や、やること……?」
「今後お前のような馬鹿が派遣されてきて、いちいち相手をするのも面倒だ。なので、俺は根本の原因を断つことにした。根本の原因とは、俺の借金だ」
「そ、それはつまり……。借金を帳消しにするってことか!?」
「ああ。お前の闇金の事務所に案内しろ。責任者に話をつけてやる。案内するのはお前だ。断るならさっきの苦痛を死ぬまで続ける。やってくれるな?」
俺の言葉に、借金取りは必死でうなずいた。
借金取りと共に闇金の事務所にたどり着いた。
街の雑居ビルの一室だ。
看板には「金野ファイナンス」という文字が書かれていた。
即日借入・低金利などと書かれている。
なにが低金利だ。
トイチの闇金のくせに。
案内させた借金取りが事務所に入り、俺もそれに続く。
事務所の中には何人かの男がいる。
電話をしたり、PCをいじっていたりする。
ここだけ切り取れば、いたって普通の会社だな。
とはいえ全員がスーツではなく私服で、強面という面に目をつむればだが。
「ん?」
事務所内を見ていると、俺はとある男に気づいた。
見覚えのある男が一人。
「お前、店長じゃないか。こんなところで会うとは奇遇だな」
「ひ、ひぃっ! お前は王真!」
そこにいたのは、俺のバイト先の店長だった。
いや、元バイト先か。
「ど、どうしてこんなところにいるんだよ!?」
「俺も借金を抱えていてな。まあ、実際に金を借りたのは俺の父親だが。しかしお前もこんなところにいるとはな」
「な、なんだよ。俺はもう金は渡したぞ! そのせいで借金までする羽目になったんだからな!」
「ああ。だからこんなところにいるのか。ここには金でも返しに来たのか?」
「い、いや。利息の相談をしにきたんだ。って、俺のことはもういいだろう! 俺はもうお前には関係ないはずだ! もう俺はお前には関わりたくない、帰る!」
店長は鞄をもって、逃げるように事務所を出ていく。
「クク……。逃げ足だけは速いな」
「あ、おい! 長田! てめえ、まだ途中だったってのによ!」
奥にいた厳つい男が店長にむかって大声で言う。
それをきかずに店長は一目散に逃げていった。
「チッ……。あの野郎、下村さんの紹介だから甘くしてやりゃ調子乗りやがって。っつーか、ガキ。お前誰だ? おい、島田。お前が連れてきたのか?」
「は、はい。社長」
俺を案内した借金取りが返事をする。
こいつはどうやら島田という名前らしい。
どうでもいいことを知った。
そして、奥にいる男はどうやらこの闇金の社長らしかった。
これはそれなりに有用な情報だ。
「金借りに来たのか? 別に金は貸すなら相手がガキでも関係ないが、返せるあてはあんのか?」
「し、社長。こいつは金を借りに来たわけじゃなくてですね」
「俺は王真勇人。むかしここで金を借りた王真弘人の息子だ」
「あん? 王真弘人……?」
社長がPCで検索し始める。
「あー。出てきた。ウチで金借りたくせにトびやがったカスじゃねえか。今は息子から金を引き出してんだな。で、その息子が一体何の用だ? 金持ってきたのか?」
「いや、金は持ってきていない。俺の借金をチャラにするためにここに来た」
「はあ!?」
社長が大声でキレながら立ち上がる。
それを受けて、騒がしかった事務所内がシーンと静まり返った。
「なに言ってんだてめえ」
「借金をなくしてほしいと言ったまでだが? 他に別の意味に聞こえたのか?」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞテメエコラ!」
「ふざけてはいない。そもそもここの闇金の10日で1割という利息は暴利だ。ここに来るまでの間にスマホを使って調べたのだが、年利15%を超える場合、法的にはその借金は支払わなくていいらしい。元本も含めてな」
俺はさっそく契約したばかりのスマホをつかって、金利に関する情報を集めていた。
スマホというのは便利だな。
買ってよかった。
「本来ならば、俺がお前たちにこれまで払ってきた金は返却すべきだ。しかし俺は寛大だ。いまここですべての借金をチャラにし、もう金輪際俺に関わらないと誓うならば、俺が払った金は返却しなくても許してやろう。俺の寛大さに咽び泣いて喜ぶがいい。ああ、頭は下げなくてもいいぞ?」
借金をなくすというだけで金は返却しなくてもいいとは。
我ながら甘い。優しすぎる。
その寛大さに、この闇金共はさぞや胸をうたれ感動しているかと思われた。
のだが、その場はシーンと静まり返っている。
「どうした? 感動しすぎて言葉も出ないか?」
「そんなわけねえだろうが! 頭沸いてんのか、ああ!?」
社長がキレ気味に叫ぶ。
「おい、島田! なんだこの頭おかしいやつは! なんでこんな奴連れてきてんだ!? こういうのを教育するのがてめえの仕事だろうが!」
「す、すいません社長! で、でもですね。こいつめっちゃ強くて逆らえないんです!」
「はああ? 大の大人がガキ相手になに情けないこと言ってんだよ!?」
「すいません!」
島田と社長の応酬が続く。
「おい、闇金ども。俺の話は終わったから、もう俺は帰るぞ。あとはお前たちが勝手に処理しろ」
「そうはいくかよ」
闇金の一人が事務所の扉を閉め、鍵をかける。
事務所内の社員たちが、こちらを取り囲んできた。
「好き勝手ふざけたこと言いやがって。てめえ、ここから出られると思うなよ? 金を返さねえなら体で支払ってもらうしかねえな。ロシアの漁船かインドネシアの漁船か選ばせてやるよ」
「お前は何を言っている? 俺の話を聞いていなかったのか? 金は返さないし、漁船にも乗らん。まったく。人の話は聞いておけ、馬鹿どもが」
「てめえざっけんじゃねえぞコラァ!」
闇金の一人がこちらに殴りかかろうとしてくる。
そんな攻撃を、わざわざ食らってやる必要はない。
「グラビティ」
俺は事務所にいる俺以外の全員に、重力魔法をかけた。
「「「がああああああ!」」」
社長や島田を含む、闇金全員が重力魔法に耐えられず床に突っ伏した。
「いまならば借金をチャラにするだけで許してやったものを。俺の優しさを無下にするとはな。いいだろう、お前たちにも教育を施してやろう」




