第25話 異世界魔王、プレゼントを贈る
店長から金を受け取り、家に帰る途中。
俺は携帯ショップを見つけた。
そこにはスマホの最新機種がどうたらと書かれたのぼりがある。
「スマホか」
澄香も千歳もスマホを持っていた。
その二人だけではなく、俺以外のクラスメイトは全員スマホを持っている。
いまどきの若者でスマホをもっていないのなんて俺と愛華くらいなものだろう。
そういえば、愛華もスマホを欲しそうにしていたな。
俺だって、澄香や千歳との連絡のときにスマホがないのは不便である。
「買ってみるか」
ちょうど金も入ったところだ。
これくらいの散財は問題ないだろう。
そう判断した俺は、スマホを買うために携帯ショップへと足を向けた。
●
「お兄ちゃんおかえり!」
家に帰ると妹が出迎えてくれた。
「ただいま」
「あれ? 今日は確かバイトの曜日じゃなかったっけ?」
「いろいろあってな。バイトをやめてきた」
「えっ!? そうなの。どうして」
「お前には言っていなかったが、いろいろと問題のあるバイト先でな。今後のためにも、やめてきたところだ」
「あー。そうなんだ。バイト先が……。ごめんね、そういうの気づかなくて」
愛華はしょんぼりした様子で謝罪する。
俺のバイト先が法令順守していないブラック職場であることは、愛華には言っていなかった。
彼女を心配させないよう、前世を思い出す前のかつての俺が隠していたのだ。
そうして隠し事をして自分で抱え込むのはかつての俺の悪い癖だな。
早めに誰かに相談していれば、あのように搾取されることもなかったろうに。
そこら辺については全く評価できんな。
とはいえ。
俺がこれまでどのように苦労していたのか、いまここで愛華に言っても栓のないこと。
そこら辺についてはぼかしてもいいだろう。
ポン、と愛華の頭の上に手を置く。
「ふっ、お前が気にすることではない。魔王である俺の隠蔽技術が高すぎるというだけのことだ」
実際には、隠していたのは魔王である俺ではなく前世を知らない過去の俺なのだが。
まあ、どちらも同じ俺であるのだからいいだろう。
「ふふっ。なにそれ」
俺に頭を撫でられながら、愛華は小さく笑った。
「それに、バイトをやめたことは悪いことばかりでもない」
「へ?」
「バイトをやめるとき、店長がいろいろと金を工面してくれてな。それなりにまとまった金を貰った。それでこれを買ったのだ」
鞄の中に入れていた携帯ショップの袋を取り出す。
「えっ! これって!」
「スマホだ。最新機種らしい」
「ええっ! ス、スマホって、あのスマートフォン!?」
「そのスマートフォンだ」
「え、これ高いんじゃないの?」
「確かに高かったが、新規契約やら家族割やらでいろいろと割引がされてな。思っているよりも安く買えた」
2台分のスマホの箱を取り出して、1つを愛華に渡す。
「魔王からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ」
「お、お兄ちゃん。……い、いいの?」
「当たり前だ。お前もむかし、スマホが欲しそうにしていたろ」
「……そんなことあったっけ?」
「あった。携帯ショップの前を通る時、スマホを羨ましそうに見ていた」
「そうだったかな……。そうだったのかぁ」
小さくつぶやき、愛華は大事そうにスマホの箱を手の中に収める。
「まったくもう。お兄ちゃんはよく見てるなー。私のこと大好きじゃん」
「ああ。そうだよ」
「!」
「何を驚いている? 俺が一度でもお前のことを嫌いだと言ったか?」
「いや……言ってないけど……。えっ、なにっ? お兄ちゃんがデレた!? 最近あんまそういうのなかったのに! 中二病になってからは特に」
「俺はなんの病気にもなっていない」
魔王である俺は健康そのものだ。
肉体的にも精神的にも何の問題もない。
「それと、デレるというのはどういうことだ?」
「えーっと、相手に対して好意を明らかにするっていうことかな?」
「ほう。ならば俺は常にデレているな。俺は他者への好意も嫌悪も隠したことなどない」
「まあ確かに、中二モードに入ってからのお兄ちゃんは、そういうのは隠してないよね……」
「それに、お前も常に俺にデレているだろう?」
「ふぇ!?」
「俺に対して常に好意をあらわにしているではないか。お前風に言うならば、これはデレだ」
「あー、まあ……。確かに……」
先ほどまでと異なり、愛華の声が小さくなる。
「どうした? 急に声が小さくなったな」
「なんでもない! お兄ちゃん、なんていうか、その……。そういうとこ気を付けないといつか刺されるからね!」
「俺は魔王だぞ。俺のことを刺すような者など、勇者ぐらいなものだ」
「いつか勇者があらわれないといいね……」
「ふん。現れれば、俺が奴を成敗してくれるわ」
そのときは前世の仇をこの俺自らがとってやろう。
二度と負けん。
「いつまでも玄関にいる必要もないだろう。リビングに行くぞ」
「あ、うん。引き止めてごめん。あと、その……ありがとう! スマホ買ってくれて!」
俺たちはそろって玄関からリビングへと移動する。
「ねね、ラインっていうの交換しよ! 一度やってみたかったの!」
「構わんが、どうするのだ? そもそもラインというのはどこで手に入るのだ」
「えーっと……。それは……。わたしにもわかんないや!」
「ならば調べるか。このスマホでな」
俺と愛華は、二人で新しく手に入れたスマホの電源を入れた。




