第23話 異世界魔王、バイト先に行く
俺はバイト先にたどり着いた。
バイト先は個人経営の飲食店だ。
入口近くの壁には「バイト募集」や「高時給」という文字が
書かれた張り紙がはってある。
実際、そこに書かれている時給は他の店の時給よりも高いものだった。
前世の記憶に目覚める前の俺も、それにつられてここでバイトを始めたんだったか。
実際には事あるごとに迷惑料として給料を勝手に天引きしてくるため、高時給どころか最低時給を割っているのだが。
なんなら、働いたのに給料が渡されない月もあったからな。
休みをとるとそうなるのだ。
俺は入口を開けて、バイト先へと顔を出す。
「来てやったぞ」
扉を閉め、その場で店長に話しかける。
「よく来たな」
店長は厨房からこちらに出てきた。
「バイトに遅刻したてめえは罰金だ。いつも言ってるよなあ、遅刻1回につき1万円罰金だって。今回も給料から引いてやる。あと、さっきは電話で俺に舐めた口をきいたからこれも罰金。俺の電話を勝手に切りやがったから罰金。合計3万円の罰金だ。給料から引くから覚悟しておけよ」
「ああ。そのことなんだが。俺から言っておくことが2つある」
「なに? 俺になんか意見でもあるっていうのか」
「もちろんある。1つは俺は今日――というか今この瞬間から、このバイトをやめる。今日はシフトにも入らないから用を済ませたらこのまま帰るぞ」
と、ここで俺はとあることを思い出す。
確か、バイトをやめるときには事前にその連絡をしておかなければいけないのだったか。
前世を思い出す前の俺が、それを調べていたのだ。
「確かバイトをやめるときは事前に言う必要があるのだよな。ならば、俺はバイトをやめるのは今月末ということにしよう。その間は俺にシフトを入れるな。仮に入れたとしても俺はここに来ることはない」
と、訂正して店長にそう連絡した。
簡潔な説明だな。
と、俺は思ったのだが。
「てめえ、何言ってんだ!」
俺の言葉を聞いた店長は激高していた。
「ん? 俺の言葉に何かわからない言葉でもあったか? お前程度の頭でも理解できるように言ってやったつもりだが」
「なんだその舐めた口はよおおおおおお! ざっけんじゃねえぞこらあああああ!」
「何かわからないのか質問をしたつもりだったのだが。なんだその返答は。まさかこいつも言葉を理解できないのか……?」
言葉を理解できない奴はもうこれで何人目だ?
日本人はIQが高い種族ではなかったのか?
外れ値を連続で引いただけだと思いたい。
「悪い悪い。お前の知能の低さを俺は見誤っていたよ。もっと簡潔に、わかりやすく説明してやる。今月でバイトをやめる。今月中はシフトには出ない。これで理解できたか?」
「理解できるわけねえだろうが、このゴミバイト野郎がよおおおお!」
「……そうか。幼児でも理解できると思って伝えたのだがな。これ以上にわかりやすく伝える方法を、俺は知らないんだ。俺からお前にかけてやれる言葉はない」
「ぺちゃくちゃ言ってんじゃねえぞコラぁ! バイトをやめる? シフトに出ない? そんな道理通るわけないだろうが!」
「なんだ。理解しているじゃないか」
ああよかった。
そこまで頭が悪いわけではなかったのだな。
「ふざけたこと言ってるてめえは罰金――」
「それともう一つ」
店長の言葉を遮り、俺は言葉を放つ。
「これまで俺に支払ってこなかった給料。その全額を、耳をそろえて俺に支払え」
「……ナニイッテンダテメエ」
店長は、俺の言葉を聞いて顔を真っ赤にしている。
しかし怒りは一周して、逆に声は小さくなっていた。
「これまで払っていなかった金を全額払えと言っている。お前がことあるごとに罰金やら迷惑料という名目で天引きして来た給料のことだ」
「はああああ?」
店長は、心底理解できないという面持ちだ。
しょうがない。
ここは俺が説明してやろうか。
「お前は知らないかもしれないがな、実は給料を勝手に天引きするのは法律違反でな。どうやらそれは全額支払うように請求することもできるらしい。そのため、俺は今ここで全額請求している。さっさと金を払え」
「………………」
俺の言葉を聞いた店長は、少しの間黙って俺の言葉をかみしめていた。
そして、口を開く。
「てめえ馬鹿か。金なんざ払うわけねえだろうがぁ!」
返答は否だった。
「どこの誰にそんなこと入れ知恵されたのか知らねえがなぁ! 金なんて払わねえよ! 法律? そんなもん守るわけねえだろ! ぶっ殺すぞこのゴミカスバイト野郎がよお!」
「ほう? 法律を守らないのか」
「あったりめえだろうがば~~か! そんなん守る気あるんだったら最初から罰金なんてしてねえよ! そもそもお前、俺に断られたらどうするつもりだったんだよ!? ウチの店辞めるつもりか? ウチをやめて他でやっていけるわけねえだろ! お前みたいな無能を雇ってくれる奴なんていねえよ!」
店長の常套句が来た。
この言葉を信じて、前世を思い出す前の俺はやめるにやめれなかったんだよな。
「くだらねえこと言ってねえでさっさと働け。クソみたいなこと言ったてめえは、今月の給料はなしだ」
「ふっ。やはり低能に言葉で伝えても無駄か……」
まあ。
これまでも同じようなことがあったから、こうなるだろうなとは思っていたけどな。
「ならばいい。実力行使に出るだけだ」
「はあ? なにいって――」
「グラビティ」
俺は重力魔法を発動させ、店長を地面へと押し付けた。
店長の身には通常の倍の重力がかかっている。
「が――これは――」
「法律を守らない? 気が合うな。《《俺もそのつもりだ》》」
魔王時代によくやった、他者を踏みにじるときの邪悪な笑みを浮かべて、店長に告げた。
「言葉を理解できない馬鹿は、痛みで教育するに限る。ここからは、俺は法律は守らないし――お前は法律に守られない」




