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第22話 異世界魔王、配下と合流する


 15分が経った。

 千歳と約束した時間になる。


「よかったな。もう地獄は終わりだぞ」


 俺が話しかけるが、高野は何も答えない。

 ただ虚空を見つめているだけだ。


「しばらくはこのままだろう。それなりの時間を置けば、心も回復するかもな」


 やはり15分では完全に心を壊すまではいかないか。

 俺は戦闘向きの魔法ばかり修練して、拷問魔法は得意ではなかったからな。

 

「俺はもう行く。お前らはそこで寝ていろ」


 結界を解除し、俺は気絶しているクズたちを放置して千歳の元へむかう。





「遅くなったな」


 図書室に行き、本を読んでいる千歳に話しかける。


「お待ちしていました。魔王様」


 千歳は読んでいた本を置き、立ち上がってペコリと頭を下げた。


「先ほどの方たちは?」


「ああ。俺が教育しておいた。もう二度と俺達に関わることもないだろう。忘れていいぞ」


「さすがは魔王様です」


「では帰ることにするか」


 俺と千歳は下駄箱に行き、靴を履き替えて帰ろうとする。


「あ、魔王君だ」


 そんなとき、下駄箱で澄香に出会った。


「澄香か。なんだ、お前は今日部活ではなかったのか」


「それが聞いてよ~。今日顧問の先生が、放課後に小野田先生のお見舞いに行くらしくて、部活にこれなくなっちゃってさ~。おかげで今日の部活なくなっちゃった。お菓子つくってこれなくてごめんね」


「謝らなくていい。別にお前が悪いわけではない。しかし、顧問がいないと部活ができないのか?」


「うん。火とか刃物使うからって、先生がいないと部活できないんだ。急にキャンセルってひどいよね」


「そういうことならば仕方ないだろう。しかし、放課後にわざわざ見舞いに行くとはな。小野田はそんなに慕われていたのか。意外だな」


「ん~。慕われていたわけでもないみたいだよ? いちおう同僚だからって理由で、お見舞いに行くように教頭から言われたんだって」


「つまりは強制か。ご苦労なことだ」


「ほんと。大人って大変だねぇ」


 しみじみと澄香はいい、その後すぐ明るく告げた。


「でも、おかげで魔王君と千歳と一緒に帰れるからね。悪いことばかりじゃないよ」


「塞翁が馬だな」


「お、難しい言葉知ってるね~」


「当たり前だ。俺は魔王だぞ。教養もある」


 塞翁が馬という言葉は、前世の魔王時代ではなく今世で学んだ言葉だけどな。



 俺と澄香と千歳は一緒に校舎を出て、会話をしながら下校する。


 そして歩いていると、俺の携帯電話スマホではなくガラケーが鳴った。


「ん?」


 なんだ?

 電話してくるような知り合いなどいなかったはずだが。


「すまん。電話に出る」


「どぞどぞ」

「お電話の邪魔をしないよう、静かにしています」


 携帯電話を取り出し、そこに映し出された連絡先を見る。


 そこには店長という言葉が書いてあった。


 店長?

 ああ、そうか。

 俺は確かバイトをしていたな。


 そこからの連絡ということか。



「おい、王真ぁ!」



 電話に出ると、すぐに怒声が飛んできた。


「でめえ、時間になっても来ねえとはどういうことだ!」


「なに?」


「今日はバイトあんだろうが、もう時間だぞてめえこら!」


 ふむ。

 バイトか……。


「ああ。忘れていた。すまんすまん」



 そういえば今日はバイトのシフトがあった。

 最近いろいろあって、完全に忘れていた。


「すまんじゃねえだろうがああああああ!」


 俺の言葉に、店長はブチぎれていた。


「言葉はいいからさっさと来い! あと、遅刻したんだからその分の迷惑料は払ってもらわねえとなあ!」



 ああ、うん。

 だんだん思い出してきた。

 この店長はこういう奴だ。


 パワハラ上等。

 そういうクズだった。


 ミスをしたらどんなに小さなことでも大声で数十分も責め立てる。

 土日には朝から晩まで休憩なく働かせる。

 連勤は当たり前で、100日間ずっとシフトを入れられていたこともある。

 ちなみにシフトをきかれたことなどない。勝手に入れられているのだ。


 そんなに働いているのだから、給料はいいとおもうだろう?

 しかしそんなことはない。


 なんやかんやと理由をつけ、迷惑料という名目で給料を減らしてくるのだ。


 遅刻したら罰金。

 提供が遅かったら罰金。

 テーブルに少しでも汚れが残っていたら罰金。

 店に来るときに挨拶の声が小さかったら罰金。


 なんなら、休んだ場合はその月はタダ働きをさせる。

 事前に連絡を入れていたとしてもだ。

 むかしインフルエンザで40度の熱が出た時に休んだ時も、容赦なくその月の給料がなくなった。



 きちんと働いていたにも関わらず、本来支払うべき給料を支払わない。

 それはつまり、俺が本来得るはずだった金を貰えないということだ。


 そう考えると、うちの貧乏の原因は、親の失踪だけでなくこの店長のせいでもあるな。 



 昔の俺も、さっさとこんな場所をやめればよかったのに。

 どうしてこんなところを辞めずに働いていたんだろうか。


「うちは優しい職場だぞ。ここをやめるような奴が、他のところで働けるわけねえだろうが」


 という店長の言い分を信じて、やめることができなかったのだろう。


 呆れるくらいの弱者ぶりだな。

 我ながらため息が出る。



「てめえ話聞いてんのか、こらぁっ!」


「わかったわかった。すぐに行けばいいのだろう? 今から向かうから待っていろ」


「てめえなんだその偉そうな口のきき――」


 ピッ。

 くだらない言葉を最後まで聞く義理もないので、電話を切った。


 

 俺は千歳と澄香に対して言う。


「すまない。バイトがあることを忘れていてな。いまからそっちに向かうことになった」


「うん……。それはわかる。聞こえてたし」


 俺の電話が聞こえていたようで、澄香は引いていた。


「ええと、その……。迷惑料って聞こえてきたんだけど。魔王君っていったいどういうところで働いてるの?」


「ああ。それはな――」


 俺は澄香と千歳に、自分の働いているバイト先について説明する。

 その店長の行動についても。



「ひどい! なんなのその店長!」


 俺の話を聞いた澄香は怒っていた。


「魔王様に対してなんという仕打ち。許せません……!」


 千歳も、澄香ほど感情を表に出していないが腹を立てているようだ。


「魔王君。その店長がやっていることは犯罪だよ! 勝手にお給料を天引きするなんて!」


「だろうな」


 さすがにそれは俺も理解している。 

 記憶が目覚める前の俺もそうだったろう。


 その時の俺は、店長のパワハラに負けてなにもできなかったが。

 


「法律じゃ、天引きされたお給料はちゃんともどってくるはずだよ。弁護士に相談すればいけるはず」


「当てはあるのか?」


「私のお父さん、弁護士なの」


「ほう? それは驚いた」


 こんなところに法律の専門家がいたとはな。


「だが、それには及ばん。いまからバイト先に行って、俺自身が金を回収してくる」


「魔王君、無理しちゃだめだよ。こういうのは、ちゃんと専門家に相談した方が――」


「無理はしていない。まず俺が行って金を支払うように言うだけだ。お前の父親には、俺が失敗した後にでも相談するさ」


「……ほんとに無理しちゃだめだよ? 私も一緒に行こうか?」


「不要だ。むしろ俺一人の方がいい。なに、ほんの少し話をするだけだ。大したことはない」


「そう……。それじゃ、がんばってね。ファイトッ!」


 グッと、両腕に握りこぶしを作る澄香。


「魔王様。ご武運を」


 千歳も澄香にならって同じポーズをする。


「大げさに言うな。では俺はバイト先に行くから、お前たちはさっさと帰れ」


 二人に告げた後、俺は金を受け取るためにバイト先へと向かって行った。


 

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