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第19話 異世界魔王、先輩と楽しく会話する


 高野たちに連れられてやってきたのは校舎裏。

 そこは、俺がこの間不良共を痛めつけてやったところだ。


「それで、用事っていうのはなんだ?」


 単刀直入に、高野へと尋ねる。


「まさかここで話でもしたいのか?」


「ああ、まさにそうさ。僕はここで君と話したかった」


 意外にも、高野の答えはイエスだった。


「あはは。変な連れ出し方をしてすまなかったね。でも、本当に話をしたいだけなんだ」


 高野は笑いながら言う。


「そうか。周りの奴らはそうは思っていないようだが」


 周囲の連中を見ると、彼らはみな俺のことをにらみつけている。

 今にも殴りかかってきそうな雰囲気である。

 どうかんがえても話し合いで終わりそうにないだろう。



「いいや、話し合いで終わるよ。君の態度次第だけどね」


 高野は後半部分の声を低くして告げた。


「よしわかった。話し合いで終わるというならばいいだろう。それで、何について話したいんだ?」


「君が脅している女の子たちについてさ」


「脅し……?」


 あまりにも意外過ぎる発言に、俺は困惑する。


 脅し? 

 誰のことだ?


 いや、脅迫を行ったことならこれまでたくさん経験ある。

 前世では文字通り死ぬほど行ってきたことだしな。

 男も女も老いも若いも、そういうことはたくさんした。



 だが、この世界でそれをした覚えはない。


 不良や教師を痛めつけたことは覚えているが、別に痛めつけて廃人にした程度であって脅してはいない。

 ましてや女など、脅しもしていなければ痛めつけてもいない。



「記憶にないな。どこの誰のことだ?」


「とぼけるのはダメだよ? 澄香と千歳のことだ」


 俺が質問を行うと、高野はそう返答した。


「君のようないかにもモテそうにない陰キャが、いきなりあんな美少女二人に囲まれて、しかも名前呼びまで許されている。これはとてもおかしいことだ。僕のような軽音部部長でイケメンで陽キャが二人から囲まれるなら自然なことだけど、君じゃあねえ」


 俺のことを小ばかにしたように笑いつつ、高野は続ける。


「モテない君が女の子から囲まれる方法なんて脅迫ぐらいしかないだろ? そんな状況に置かれている哀れな女の子たちを目にしたら、正義の味方である僕は救いたいと思ってしまうんだよ。さあ、いますぐ彼女たちを脅すのをやめろ。金輪際あの二人に近づかないって約束してくれるなら、痛い目に合わなくてすむよ?」



 つまり、痛めつけられたくなければ澄香と千歳から離れろということか。

 こいつが行っていることこそまさに脅迫だ。

 当の本人はそのことに気づいていないようだがな。


 しかし、まったくとんだ勘違いをしているものだな。


「なるほど。俺が脅しているから、あの二人が近くにいるのだとお前は思い込んでいるのだな」


「思い込んでいる、じゃないだろ! お前が脅しているに決まっているんだ!」


 俺の言葉に対して高野が激高する。


「そうに決まっている! そうに違いない! お前が脅迫しているから、逃れられないから、澄香はいつまでたっても僕になびかなかったんだ。遊びに誘ってやってもついてこないし、名前で呼んでやろうとしても断るし、ラインをどれだけ送っても全く返さないし、ライブに招待してやっても来ない! それもこれも全部、お前のせいだ! お前が脅しているからだ!」


 激高する高野は止まらない。


「ああそうだそうに決まっている。僕が名前で呼ぶのは断ったくせに、お前みたいな陰キャが名前で呼ぶのを許されるのは、お前が脅しているからだ。やけに距離が近いのも、朝一緒に登校するのも、親し気に話すのも、全部脅してるからだ。しかも澄香だけじゃなくて、自慢げに別の巨乳の女まで侍らせやがって! 絶対に許せなあああああい!」


 話しているうちにヒートアップした高野は、ついに叫び始めた。


 騒がしいやつだな……。

 とはいえ、話を聞いてわかったことがある。


 こいつはただ、俺に嫉妬しているだけだ。


「やれやれ、何かと思えばただの嫉妬か。つまりお前は、自分が意中の女からモテないことを他人の責任にしたいわけだな」


「も、モテない!? 僕のどこが! 僕の恋人になりたい女の子は、この学校にはたくさんいるんだ!」


「だが澄香はその中には含まれていない」


「ぐっ――」


 俺の一言に高野は何も言えなくなる。


「有象無象の女から求められることで満足するなら、その事実で自分を慰めていればいい。だがお前はそれで満足しないから、澄香にアプローチをかけているのだろう? そのアプローチも意味をなしていないのだがな」


「意味がないわけない。お前が脅迫をしているだけで、僕の言葉は澄香に届いていた。彼女は僕のことを好きになっているに違いないんだ」


「妄想にふけるのは構わんが、俺と会話するときだけは現実を見ろ。お前に対して澄香が何と言っているのか思い出せ。そこに好意はなかっただろう。ああちなみに、澄香はお前のことを迷惑だと言っていたぞ?」


 ビクン、と高野はその言葉を聞いて震えた。


「その反応を見る限り、お前も心当たりはあったのだな」


 高野は心の底から脅迫だのなんだのを信じていたわけじゃない。

 ただ、自分が澄香に相手にされず、俺と澄香が仲良くしているという事実に耐えられなかった。

 その事実から目を背けるため、自分の中で自分を納得させる理屈をひねり出したのだ。


「なんだ。ああだこうだ述べていたが、すべては現実逃避のためか。クク、その矮小さ、みじめでとても面白い」


「ぐ、ギギギ――」


「そんなみじめなお前に対して、俺が一つ助言をしてやろう」


 顔をこわばらせている高野に対して、俺は助言を告げた。




「大人しく諦めろ。みっともないぞ」




 

「これは俺が珍しく、まっとうに、皮肉ではなく、お前のためを思って与えた助言だ。こんなことはめったにない。幸運にむせび泣け」


「…………」


 高野は黙っている。

 俺の助言に胸をうたれ、感動して言葉もないのだろう。



 この話し合いも、これで終わりだな。


 なんだ。

 終わってみれば、至極平和な話し合いだったな。



「いやはや、なかなか楽しい会話だったぞ。みじめな男の嫉妬と現実逃避を見ることができた。高野よ。お前には道化の才能がある。魔王たる俺が認めてやろう」



 ああ。

 楽しい会話だった。

 道化と会話をして、その滑稽な姿を見るのはなかなかいい。



 こういう類の道化は、前世にも時々いた。


 とある国の王子の話だ。

 自分を聖女と偽るどこぞの平民の女に盲目になり、婚約者の貴族令嬢を追放した馬鹿な王子がいた。

 本当はその婚約者こそが国を守護していた聖女だったのにな。

 婚約者を追放したせいで守護の結界が解け、俺に攻められて国が崩壊したのだったか。

 

 あれはいい道化だった。


 あれほどではないが、こいつにも似たような素質を感じる。


 まあ、俺が助言をくれてやったのだから、こいつはもう少しマシになるかもしれないがな。



「俺は大変満足した。今日の会話はこれで終わりだ」


 

 そう告げ、俺は図書室で待つ千歳に会うために身をひるがえそうとした。

 が――。



「待てよこの陰キャ野郎ぅ……」



 告げたのは、道化の高野だ。


「僕をここまでコケにして、タダで帰れると思ってんのか」


 高野は周囲の男たちに告げる。



「やれ! こいつをリンチしろ! 二度と歩けない体にしてやる!」



 やれやれ。

 道化は、何を言われても道化だったか。

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