第11話 異世界魔王、配下を得る
小野田に対する教育が終わった。
なので、俺は本来の目的に戻ることにする。
本来の目的とは、委員会の仕事をするために芦野を迎えに来たことだ。
先ほどまでの行為を見て、芦野は目を白黒させてただただ困惑していた。
「え、えと……。どういう、こと? 急に小野田先生が悲鳴を上げて苦しんで、気絶したんだけど……。ええと、もしかして王真君がやったの?」
「ああ」
「な、なにをしたらあんなことになるの。もしかして、格闘技とか?」
「格闘技? そんなものでああはならんだろう。そもそも俺はあいつにふれてすらいないのだからな」
「それもそうだよね……」
「ああ。俺がやったことは魔法だ」
「ま、まほ……う?」
「ああ。俺は魔法が使えるんだよ。なにせ魔王だからな」
「まおう……。魔王って、あの、ゲームとかで出てくる悪役の?」
「……まあ、その魔王でいいだろう」
ゲームに出てくる存在と言われると、少し違和感があるが。
しかしあれと似たようなものと思ってもらってもいいだろう。
そういう存在と、やっていることは大差ないからな。
それに――。
「別に信じられないのならば信じなくともかまわんぞ」
「え? いいの?」
何か意外だったのか、芦野は俺の言葉に驚いている。
「そういうのって、信じてほしいものだとおもうけど」
「普通はそうかもしれんが、俺は違う。別に信じなくてもいい。俺が魔王であることを、他人が信じるかどうかなど、どうでもいいことだ」
なぜなら――。
「俺が俺でいることなど、俺自身が信じていればそれでいいからな。他人がどう考えるかなど、いちいち考える必要はない」
そう。
他人がどう思おうが、俺は俺だ。
であるならば、魔王であることを信じなくともどうでもいい。
まあ、俺に対して失礼な態度をとれば相応の仕置きはするがな。
ちょうどそこで倒れている小野田という教師のように。
「自分のことは自分が信じていればいい……。他人がどう考えるかはどうでもいい……」
芦野は、俺が言ったセリフを反芻していた。
俺の考えに引いたか?
確かに唯我独尊的な考え方は、周囲との和や協調を美徳とする日本人には受け入れられない考え方だろう。
そうでなくとも先ほどまでの小野田に対して行った仕打ちを考えれば、俺に対する嫌悪感をこいつが抱いたとしても不思議はない。
「ふん。まあいい。この考え方も、別に受け入れられようとは――」
「すごい!」
しかし、俺の想像とは裏腹に、芦野の反応はずいぶんと肯定的だった。
キラキラと目を輝かせ、まるで尊敬する人間と出会ったかのような表情だ。
「す、すごい! かっこいい!」
「か、かっこいい……?」
思っていたのとは異なる芦野の言葉に、俺は困惑することになった。
「かっこいいよ! 普通の人には絶対できない。そんなこと!」
「当然だ。俺は普通の人ではなく魔王だからな」
「そうだよね。魔王さんだから、普通の人とは違うよね」
納得したかのように芦野はうなずく。
そして、意を決して話し始めた。
「私、いままで引っ込み思案で、流されてばかりで、自分を全然持っていなかった。だから、しっかりとした自分を持っている王真君は、すごくかっこいい。尊敬しちゃう」
「ふっ。尊敬か。それは殊勝な態度だな」
記憶が目覚めてからというもの、こういう殊勝な態度をとるものはいなかった。
良い心掛けだ。
「だから、その……。私を、王真君の――ううん、魔王様の配下にしてください!」
「……配下、か」
配下にしてほしいという嘆願。
それも、俺にとっては意外なものだった。
前世では、俺の配下になりたいという魔族はたくさんいた。
だが、俺の配下になりたいという人間はいなかった。
それはこの地球でも同様だと思っていたが。
まさか、ここにきてそういう人間が現れるとはな。
この俺ですら、意外過ぎて虚を突かれたぞ。
この俺を二度も驚かせるとは。
こいつ、意外と大物なのかもしれん。
芦野の方をマジマジとみる。
こいつは、魔王の配下としてふさわしいか?
戦闘力、という点では落第だろうな。
魔族はおろか、この世界の人間の中で考えても下から数えた方が早い方だろう。
だが、その精神性はなかなか興味深い。
前世の世界にすらいなかった、俺にあこがれて配下になりたいという願望。
その行動により俺を二度も驚かせたという事実。
なるほどなかなか面白い。
少なくとも、そこらにいる木っ端どもよりもずっと良い。
その精神性に比べれば、戦闘力などというものはどうでもいいものだ。
どだい、俺からすれば魔法も使えない人間の戦闘力など大差ないからな。
巨人が蟻のサイズをいちいち見分けられるとおもうか?
それと同じだ。
そう考えると、こいつを配下として扱ってみるのもよいかもしれん。
どうせこの世界に魔族はいない。
もはや魔族による魔王軍の再編など望むべくもないのだから、人間を配下として持つのも一興だ。
「よし、いいだろう。お前を俺の配下にしてやろう」
「い、いいの!?」
「ああ」
「ありがとうございます! おうまく――じゃなかった、魔王様!」
「呼び方など好きにしろ。魔王呼びを強制することはしない」
「好きにしていいのなら、魔王様でいいですか?」
「好きにしろと言ったはずだ」
「はい! じゃあ、魔王様って呼ばせていただきます!」
「構わん。代わりに俺もお前のことを好きに呼ばせてもらうがな。そうだな……俺の唯一の配下を名字で呼ぶのも忍びない。千歳と名前で呼ばせてもらおう」
「な、名前……」
俺に名前を呼ばれて、千歳は頬を赤く染めていた。
「嬉しいです。魔王様」
千歳ははにかながら笑顔になり、喜びを示す。
そういえば、いつのまにか千歳の口調が敬語になっているな。
俺の配下になったのだから、失礼のないように自主的に敬語になったのだろう。
その殊勝な態度、悪くない。
「ではいくぞ。もうこの場所に用はない。さっさと職員室に行かねばな」
「あ、待ってください。小野田先生のことはどうしますか?」
「放っておいても死にはしない。しばらくしたら目が覚めるか、あるいはここに人が来たら起こすだろう。俺たちがわざわざ起こしてやる道理もないのだ。そのまま捨て置け」
「わかりました」
と、千歳も納得して小野田は放置されることになった。
その後、俺たちは委員会の仕事のため職員室へ行った。
今日、俺に配下ができた。




