第12話 異世界魔王、配下と朝に会う
魔王たるこの俺に、地球で人間の配下ができた。
その翌日の朝。
「おにいちゃああああん!」
英気を養うために休息をとっていた(つまり寝ていた)俺を、妹である愛華の大声がたたき起こした。
「朝からなんだ……」
「おにいちゃん、早く起きて。大変なの」
「大変? 俺の安息を乱すことの方が大変にきまっているだろうが。まったく、勇者が攻めてきたわけでもあるまいに」
しかし勇者はいまこことは異なる世界にいるはず。
なので勇者が攻めてきたわけではない。
なので大変ではない。
証明終了。
横にある時計を見ると、まだ朝の7時である。
「なんだまだ7時か。あと30分は寝れるな」
再度布団にくるまり、俺は目をつむる。
この布団、なかなか寝心地がいいものだな。
この日本という国は、個々の戦闘能力自体は程度は低い。
しかし文明的には異世界を大きく追い越している。
こうした布団も、その一つ。
柔らかくて寝心地がよい……。
ぐー。ぐー……。
「二度寝すなっ!」
えい、と言いながら愛華は俺が寝ている布団を引きはがそうとしてきた。
俺も布団をつかみ、それに抵抗する。
もちろん人間の女程度の力では、魔王の力に敵うことはできないので、布団をはがすことはできない。
できないとはいえ、邪魔ではある。
「おい愛華。この俺の眠りを邪魔するとは、万死に値する蛮行だぞ。妹とはいえ看過できるものではない。すぐに布団を離せ」
「なーにが万死に値する、だ! 休日でもないんだから寝てないで起きなきゃだめだよ! というか、そもそも大変なの! 寝てる場合じゃないの!」
「なにが大変だというのだ」
「お客さんが来てるの!」
「客……? こんな平日の朝から客など来るわけないだろう」
「ほんとにお客さん来てるもん! かわいい女の子! あれだれ? お兄ちゃんの知り合い? 彼女?」
「俺に彼女などいない。いるとするならば配下くらいなものか」
「いや高校生のお兄ちゃんに配下なんているわけないでしょ。なに寝ぼけているの!」
「寝ぼけてなどいない。ああわかったわかった。起きてやるから布団を引っ張りながら騒ぐのをやめろ」
俺は起き上がり、布団から出る。
「それで、女の客が来たというのか?」
「うん。家のドアの前に立ってる」
「誰だ?」
俺は玄関へと向かい、ドアを開ける。
そこにいたのは、昨日俺の配下になった千歳だった。
「なんだ。千歳じゃないか」
彼女は高校の制服を着て、俺の家の前にいた。
「おはようございます。魔王様!」
千歳は深々とお辞儀をして、朝の挨拶をする。
「おはよう。挨拶がしっかりしていて良いぞ。それで、どうしてここにいる?」
「は、はい! 魔王様のお出迎えにあがりました!」
千歳は手をグッと握ってそう告げる。
「出迎えか。それはご苦労だったな。だが、時間が早すぎる。こんな朝早くから学校に行ったとて、暇を持て余すだけだろうが」
「あ……。た、たしかに。そうですね。すみません。私、魔王様のお出迎えに張り切っちゃってて。早い時間に来てしまいました。一度家に戻りますね」
「別に戻る必要はない。俺の家で時間をつぶせばいいだけだろうが」
「えっ、魔王様の家に!? 入ってもよろしいのでしょうか!」
「許す。さっさとあがれ」
「ありがとうございます魔王様。お邪魔します」
千歳は挨拶をしつつ、俺の家にあがりこむ。
「わっ。やっぱりお兄ちゃんの知り合いだったんだ。彼女?」
「彼女ではない」
「か、かのっ……! そんな恐れ多いっ!」
愛華の言葉を俺は即座に否定し、千歳は恐縮していた。
なにはともあれ、愛華と千歳は初対面。
ここは自己紹介からだろう。
「愛華。まずは自己紹介をしろ」
「はーい。私はお兄ちゃん――王真勇人の妹の愛華です。よろしくおねがいします。兄がいつもお世話になっております」
「い、いえいえ! お世話になっているのは私の方です!」
と、千歳はぶんぶんと腕を振りつつ否定している。
「千歳。次はお前が自己紹介をしろ」
「わかりました」
と、俺の言葉に千歳は返事をする。
「名前呼び……。怪しいですなあ。ほんとに付き合ってないのー?」
そして愛華はおかしな邪推をしていた。
「私は芦野千歳です。魔王様とは同じ学校のクラスメイトで、同じ委員会で、そして魔王様の配下です。妹様、今後ともよろしくお願いいたします」
「???」
千歳の言葉を聞いて、愛華は混乱していた。
「え? えーと、いろいろおかしな台詞があったように思えるんだけど……」
「おかしな台詞なんてないが?」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「魔王に対して黙れとは不敬な」
これが妹でなければ万死に値するぞ。
とはいえこの程度の軽口で腹を立てるほど俺は狭量でもない。
軽く流すことにして。
愛華と千歳の会話は続いていた。
「ええっと、確認なんだけど。まずほんとに恋人じゃないんですよね?」
「はい」
「友達?」
「配下です」
「先輩と後輩とか?」
「同い年です。クラスメイトですし」
「バイト先の先輩後輩?」
「私はバイトをしていません」
「……同じ委員会っていってましたよね。その委員会で、委員長と副委員長みたいな関係ですか? だから配下って言ってるとか?」
「いいえ。委員会では私も魔王様も役職にはついていません」
「ああ。お互いに平だったな。委員長も副委員長も、別のクラスのやつがやっていた」
「ふーん。そうなんだ……。え、じゃあなんで配下になってるんですか?」
「それは、魔王様のかっこいいあり方に感銘を受け、ついていきたいと思ったからです! 自分から魔王様の配下に志願いたしました!」
「さっきから言ってる魔王様って、もしかしなくてもお兄ちゃんのことですよね!?」
「はいもちろん! 他に魔王様などいはしません!」
「うわぁぁん! どうしよう! この人お兄ちゃんの同類だぁぁぁ!」
愛華は頭を抱えてそう悲鳴を上げた。




