5 語らい
「今日はたくさん飲もうぜ」
「そうですね」
とある居酒屋のカウンターに、贄川と左文字の姿があった。二人は先の事件で知り合ってから意気投合し、以前から約束していた二人で飲みに行くという約束をこの日果たしていた。
真名仮市に赴任してきて間もない左文字に代わり、居酒屋のセッティングは贄川が行った。普段から贄川が利用しているこの居酒屋は、繁華街からは少し離れた通りに面しているが、おつまみが絶品で隠れ家的な名店として一部では人気がある。
「この街にはなれたかい?」
「まあ、ある程度は。赴任早々事件続きでしばらくはバタバタしてしましましたが、最近は休日を利用して街中を巡ったりしていますよ」
「そいつは良い。ここは時代の最先端を行く街だ。そうそう退屈しないはずだぜ」
「確かに。再来週にはアリーナも完成しますし、街はさらに活気づきそうですね」
「アリーナのお披露目の際はけっこうな数のゲストを呼ぶらしいな。警備部も大変そうだ」
「はい。ですから、今の内に羽を伸ばしておきますよ」
他愛のない会話だがだからこそ面白い。酒をたしなみつつ男二人で語らう。
仕事の話、プライベートの話、鉄板の笑い話。ほろ酔い気分も手伝って話題には事欠かない。
飲み始めて一時間ぐらいは経過しただろうか。話題は、二人にとって切っても切り離させない内容に差し掛かる。
「左文字。お前さんはいつから魔術の道に?」
真名仮市に住み。魔術に関わる仕事をしている者同士がその話題に行きつくのは必然である。そんな当たり前な話であるため二人の間にも気負いは無い。
「自分は7つの頃からです。元々魔術に縁のある家系で父も魔術師でしたから。幼少期より魔術は身近なものでした」
「お前さんの魔術は格闘術と併用して使うことが多いようだが、あれは何か流派のようなものがあるのか?」
「いえ、あれは自分の完全オリジナルです。魔術と並行して格闘技術も磨いていたので、この二つを組み合わせることが一番自分らしいスタイルかと思いまして」
「そいつは凄いな。将来は門下生でも招き入れて左文字流でも開いてみたらどうだ?」
「ご冗談を」
左文字は苦笑して酒を一杯口へと含む。オリジナルと言えば聞こえは良いが、そうするしかなかったというのが左文字の本音だ。
「……正直、自分は魔術師としての才にはそれ程恵まれませんでした。格闘術と併用して、ようやく私は他の捜査官並みに戦えるんです」
「お前さんの実力は誰もが認めている。あまり自分を卑下する必要は無いと思うがね」
「……そうでしょうか」
「魔術が当たり前となったこんな世の中だ。魔術の才に恵まれないとそれだけで腐っちまう奴もいるが、お前さんはそれを自分なりの方法でカバーし、その力を人を守るために使っている。俺から言わせたら、十分立派だよ」
「贄川さん……」
「これからも街の平和を頼むぜ、捜査官殿」
「もちろんです。全力を尽くします」
左文字は贄川の言葉により少しだけ自分の在り方を前向きに肯定することが出来た。酒の力で勢いづいて、普段なら絶対に口にしないような心情まで吐露してしまったが、それも悪く無かったと思える。
「贄川さんの方は、いつから魔術関係の道に?」
「俺は魔術に関わるようになってからまだ8年くらいしか経っていない。当時は大学の工学部に在籍していて、将来も研究者の道に進むつもりだったから、当時の俺が今の俺を見たら驚くだろうな」
「意外です。知識も豊富ですし、それこそ幼少期から関わりがあるのかと思っていました」
贄川の鑑定人としての能力や魔術関連の知識の豊富さは、プロの捜査官である左文字も一目置くほどだ。よっぽどの情熱が無ければ、僅か8年でものにすることは出来ないだろう。
「まあ、俺は天才で飲み込みが早かったしな」
冗談交じりに笑い飛ばす贄川につられ、普段は寡黙な左文字の表情も微かに緩む。
「それに、今の仕事に就いたのにも理由はある」
「理由ですか?」
「個人的に探している魔術道具があるんだ。深幸さんの顔の広さもあって、あの店には世界中の名品珍品が集まる。この仕事を続けていれば、いつかそれを見つけることが出来るんじゃないかってな」
「ちなみに、どんな物を探しているんですか?」
「……伝説に登場するような珍品さ。正直俺だって、本当に存在しているなんて思ってない。ロマンで探しているような物だ」
「自分には専門的なことは分かりませんが、見つかるといいですな」
「ああ。ありがとうな」
気を良くした贄川はグラスの中の酒を一気に飲み干し、左文字の背中を軽快に叩いた。
「魔術に関わるようになったきっかけのようなものはあったんですか?」
立ち入った質問かとも思ったが、左文字は酒の勢いにかこつけて贄川へと尋ねる。この際気になることは色々と聞いてみようと左文字は思ったのだが、
「……きっかけか」
酔いも忘れ、贄川の表情が素に戻る。だが、左文字はその僅かな変化には気づいていない。
「……妹の影響かな」
「贄川さん。妹さんがおれるんですか」
「二つ下のな」
「市内にいらっしゃるんですか?」
数秒の沈黙が流れる。
「8年前に死んだよ」
「……知らずとはいえ、すみません」
左文字の酔いは一気に冷める。素面でなら贄川の変化に気付いただろうが、酒の影響でそれに気づくのが遅れてしまった。
「気にするなよ。それよりも飲もうぜ。俺が注いでやるから」
「あ、ありがとうございます」
贄川の事情について左文字は興味を持ったが、空気を読み、流石にこの場で切り出すような真似はしない。
結局この日は、贄川が魔術と関わるようになった経緯を聞くことは出来なかった。
前回から間が空いてしまいましたが、五話目の投稿となりました。
今後については、二章と三章を繋ぐこのシリーズはあと二話で終わる予定です。
次回は瑠璃子に焦点を当てた話を書き、登場人物にスポットをあてた内容はそれで最後に。
残るもう一話で三章に繋がる前日譚のような短編を書き。この章は終了となります。




