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ウィザード&ワーウルフ  ~二つの最強を宿す者~  作者: 湖城マコト
2.5 日常 ~迫りくる嵐を彼らはまだ知らない~
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3 亜槍深幸

「やっほー! ただいまー」


 客足が無く閑散としていた「不可思議堂ふかしぎどう」の店内に、一際賑やかな女性の声が響いた。


「帰ってきてしまったか……」


 一人で店番をしていた織姫おりひめ楽人がくとは、平穏が崩れ去るのを感じ、大きな溜息をついた。


「ん? 楽人くん、今何か言った?」

「いえいえ何も、深幸みゆきさんが帰って来てくれて嬉しいなって喜んでいただけですよ」

「ならばよし」


 子供のような無邪気な笑顔を浮かべているのは、この『不可思議堂』の店主であり、熟練の魔術師でもある亜槍あそう深幸みゆきだ。矢祭やまつり涼成りょうせいの事件の頃に海外に買い付けに行ったっきりだったので、実に三週間ぶりの帰国となる。

 深幸は外見的には20代後半から30代前半くらいに見えるショートヘアーの美人だが、実年齢は誰も知らないし、年齢の話しを振ると威圧感タップリの笑顔を向けられるので誰も聞けない。

 余談だが、贄川が「不可思議堂」に務めるようになった八年前の時点から深幸の見た目はまったく変わっていないらしい。この街の大物である市長や図書館館長の灰塚はいづかとも古くからの友人らしく、彼らと同年代なのではという推測も立てられている。

 

「あれ、贄川にえかわくんは?」

「昼から出張鑑定に行ってますよ。そろそろ戻ると思います」

「そっか、じゃあ贄川くんへのお土産は後で渡すとするか」

「お土産ですか?」

「そう、もちろん楽人くんにもあるよ」

「……実用的な物だと嬉しいんですけどね」


 経験上、楽人はあまり期待を持てないでいた。これまでに深幸から貰った海外土産は、謎の部族の呪術師がつけていたといういわくつきの面や、干からびたヤモリのぶら下がったネックレス、得体の知れない果実を使ったチップスなど、お土産としてはセンスを疑う一品ばかりだったからだ。

 物選びのセンスがお土産だけに留まってくれていればよかったのだが、そのセンスが店頭に並ぶ商品選びにも反映されてしまうのが困ったところだ。


「じゃあ、まずはこれね」


 深幸から手渡されたのは、真っ赤な液体の入った1.5リットルのペットボトルであった。パッケージには、楽人にも読み解けない謎の文字で商品名らしきものが書かれている。


「なんすかこれ?」

「とある市場で買った『悪魔の血』という名前の飲み物よ」

「……原材料は何なんですか?」

「知らない。店主も教えてくれなかったし」

「よくそんな物をお土産に選びましたね」


 流石に劇物ということは無いだろうが、もっと無難に現地の名産品やらを買ってこようという気はないのだろうかと楽人は思う。


 ――あとで灯夜とうやを実験台にでもしてみるか。


 流石に飲まずに捨てるのは心が痛むので、適当な理由をつけて灯夜に飲ませてみて、問題が無さそうなら自分も飲もうと楽人は決めた。


「まだ他にもあるよ」

「……だから、なんすかこれ?」


 手渡された二つ目のお土産は急須ぐらいのサイズの赤茶色の壺だった。陶器のような質感だが、何となく禍々しい雰囲気を感じるような気がする。


「かつてある部族が蟲毒こどくに使用したという壺――」

「おいおい……」


 嫌悪感的な意味でも呪術的な意味でも背筋がもぞもぞとした。つまりこの壺の中では、呪術のために数多くの虫達がひしめき合い、最期の一匹になるまで喰いあっていたということになる。


「――という設定のただの壺だから、置物にでも使って」

「だろうな、本物だったらえらいことだよ! というか、そんな設定をつけて誰が買うっていうんだよ――」


 感情的に叫んだ瞬間、深幸と目が合った。


「いたよ、ここに買った人がいたよ!」


 深幸ような変り者を客層として狙った商品だったのかと、楽人は納得した。


 ――適当な理由をつけて、灯夜にでもやるか。


 残念ながら部屋には置いておくスペースなどは無さそうなので、灯夜に押し付け……引き取ってもらうのがが無難だろう。設定の部分さえ黙っておけばただの置物なので問題ないはずだ。


「そして一押しのお土産が――」

「はいはい、今度はどんな珍品が……」


 期待せずに筒のような形状の黒いケースを受け取った楽人だが、手にした瞬間にこれまでの珍品とは異なる雰囲気を感じ取った。アルバイトとはいえ楽人は魔術道具の鑑定を行っている人間だ。そういった系統の物は、触れただけでもある程度は分かる。


「これ、魔術道具ですね」

「開けてみて」


 得意気な笑顔を浮かべて深幸が促す。どうやら彼女にとっても、お土産の本命はこちらだったようだ。


「……眼鏡ですか?」


 ケースの中に入っていたのは、青いフレームのスクエア型の伊達眼鏡だった。

 ちなみに、楽人は両目とも2.0で視力は優秀なので、眼鏡はもちろんコンタクトの類も普段は使用していない。


「ジャワ島に住んでいる友人のお手製でね。楽人くん向きのアイテムだと思うのよね」

「かけてみても?」

「もちろん」


 楽人は好奇心の赴くままに青い眼鏡を装着。かけた瞬間、レンズ越しにこれまでとは異なる風景が瞳に飛び込んできた。

 どうやらこの眼鏡は、大気中のマナの流れを映し出す効果があるらしい。魔術発動の際のマナの活性化は本来は肌で感じ取るものだが、この眼鏡があればそれを視覚的にも認識できる。魔術師では無い楽人では灯夜たちに比べてマナを感じ取る力で劣るので、この眼鏡は重宝しそうだ。


「成程、確かにこれは俺向きですね」

「喜んでもらえたようで良かったわ」

「本当にいいチョイスですよ。流石は年の功――」

「何か言ったかしら?」

「い、いえ……」


 表情に影を落とした深幸の笑顔は、楽人の背筋を凍らせる程の威圧感を放っている。

 深幸に対して年齢の話しは、命を捨てる覚悟で振らなければいけないのだと、楽人は改めて感じていた。


「楽人、今戻ったぞ」


 楽人が深幸に威圧されてる最中、鑑定に出ていた贄川が戻って来た。


「おっ、お帰り贄川くん」

「帰ってきてしまったか……」


 深幸の顔を見た贄川の第一声は、奇しくも楽人と同じ言葉であった。

 店主の戻った「不可思議堂」は、この日を境に三割増し騒がしくなったという。



 不可思議堂の店主の亜槍深幸、元々は一章から登場させる予定のキャラだったのですが、諸々の事情で初登場が今回までずれ込みました。


 次回は弓原に焦点を当てたお話しとなる予定です。

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