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13 他愛のない話

「今日は、私を説得にでも来たんですか?」


 灯夜と帆乃夏は出会った場所でもある病院の敷地内にある庭を訪れていた。

 帆乃夏はベンチに座る灯夜に背を向けて芝生の上に立っているため、その表情を窺い知ることは出来ないが、声色にはそこまでの警戒の色は無いように思える。


「今日はただ、お前と世間話でもしようと思っただけだよ」

「世間話ですか?」


 帆乃夏はキョトンとした顔で振り返った。重々しく説得でもされるのだろうと思っていたので、肩透かしをくらった形だ。

 灯夜が帆乃夏のことを疑っていないわけが無く、何か裏があるのではと帆乃夏は勘ぐるが、灯夜の自然体な言い方や、どこかとぼけた様子の表情を見ていると、そんな勘ぐりはどこかへ行ってしまった。

 もう一度会ってゆっくりお話しをしてみたい。それは、帆乃夏自身も望んでいたことだ。


「しかし、何を話せばいいのでしょうか?」

「うーん、通ってる学校とか?」

「ナンパみたいですね」

「そうか?」

 

 帆乃夏の思わぬ反撃に、灯夜は思わず苦笑した。


「今は休学中ですが、私は揚羽橋あげはばし高校に在籍しています。灯夜さんの方は?」

「俺は陽炎かげろう高校だ。ちなみにさっきまで一緒にいた詩月うたつき沙羅さらも同級生」

「詩月さん、素敵な方でしたね。とても明るくて、笑顔が可愛くて、子供達にも好かれているようでした」

「確かに、良い奴だよな。あいつは」


 この場にいない沙羅のことで話題は盛り上がって来た。こうして明るい話のネタとなってくれるようなところも、沙羅の魅力の一つなのかもしれない。


「灯夜さんは、詩月さんとお付き合いされているんですか?」

「唐突に何を言うんだよ……」


 まさか話しがそういう方向に発展するとは思っていなかったので、灯夜は少し言葉に詰まってしまう。


「あいつとは、そういう関係じゃない。俺には、他に好きな人がいるし」

「どのような方なんですか?」

「そこ、突っ込んで聞いてきちゃう?」

「恋バナは気になりますよ」

「まいったな……」


 俯きながらも、灯夜は静かに口を開いた。


「相手は年上なんだけど、いつも誰かのために頑張ってて、芯が強くて、でも弱いところも持ってて、俺はその人のことが大好きで、守ってあげたいと思ってる」


 言い始めた段階で、気恥ずかしさから灯夜は赤面しており、後半に関してはほぼやけくそで言い切った感があった。

 そんな赤面している灯夜の様子を冷かすような真似はせず、帆乃夏は微笑みながら静かに相槌を打っている。


「素敵ですね恋って」

「……改めて恋とか言われると、恥ずかしいな」

「少し羨ましいです」

 

 帆乃夏の笑顔は少し切なげだった。心の中から消失してしまっていた青春の二文字に想いを馳せているのか、恋への憧れなのか、その表情には、様々な意味が込められている。


「いつか心の底から笑えるようになるんでしょうか」


 明後日の方向を見て、帆乃夏は独り言のようにそう言った。

 それは灯夜に対する問いというよりも、自問のように思える。


「心の中の復讐心が無くなれば、私は心の底から笑えるようになるんでしょうか?」


 今度は灯夜の方を見てはっきりと帆乃夏はそう言った。自問では答えを得られず、灯夜にそれを求めたのかもしれない。


「俺にはその答えを出せない、それはお前自身が決めることだ」

「……そうですよね」


 帆乃夏は申し訳なさそうに目を伏せたが、灯夜の言葉は、これで終わりでは無かった。


「でも、子供達と触れ合ってる時の笑顔は、心の底から笑っているように見えたけどな」

「えっ?」


 もしかしたら本人も気が付いていないのかもしれないが、帆乃夏が子供達の前で見せる笑顔は、本当に楽しいからこそ出来るものだと灯夜は確信していた。子供達だって本心で笑っていない人間になど懐いてはくれないだろう。帆乃夏の笑顔に惹かれたからこそ、子供達もまた笑顔になれるのだ。


「……でも、私は――」

 

 何かを言いかけて、帆乃夏は結局言葉を噤んでしまった。

 灯夜も追及するような素振りは見せない。


「すみません、私、そろそろ子供達のところへ戻ります」

「そうか、俺はもう少ししたら帰るから、ロビーで待ってると、沙羅には伝えておいてくれ」

「分かりました」


 伝言を受け取ると、帆乃夏は灯夜に背を向け、振り向かないまま小児病棟の方へと向かって歩き始めた。


「矢祭帆乃夏、天罰はまた起こるのか?」

「……少なくともあと一回は起こるかと思います」

「そうか」


 灯夜の問いに素っ気なく答えると、帆乃夏は今度こそ病院の中へと姿を消した。


「あと一回か……」


 灯夜が短く復唱すると、背後から微かに車輪のような物が動く音が聞こえ、灯夜は静かに振り返る。


「驚かせてしまってすみません」

「あんたは?」


 灯夜が振り返ると、車椅子に乗った若い男性が微笑んでいた。病気せいかやつれたような印象は受けるが、穏やかな表情と温かい眼差しには、温厚な人柄を感じさせた。


「初めまして、久世くぜ灯夜とうやくん。矢祭やまつり涼成りょうせいと申します。帆乃夏の兄です」






第二章もだんだんと終盤に近付いてきました。

元々、この二章は一章よりも短めな話しとして設定していましたので、二十話前後で終了する予定です(執筆中に物語が膨らんで、それ以上になる可能性も否定は出来ませんが)


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