次の日〜2
左胸にイサリビの持った刃物が刺さる。多分直接俺の心臓を狙ったんだろうが、力が足りなかったようでそこまで届かなかった。
「ぐっ!ああぁあ!!!!!!殺るなら一発でやれよ!」
「なんだと!?」
よし、俺の発言に驚いたみたいでなんかいい感じになったな。左胸に刺さった刃物を抜かせないように右膝でイサリビの背中を蹴る。抜かれてから攻撃しても良かったが、抜く時にグリグリと捻られるとその痛みで余計隙を作ることになる可能性があるので、同じ痛みでも隙が少ないと思いたいものを選んだ。
「ぐっ、おま・・・!」
「さすがに何回もやらせるわけにはいかねぇからな!イサリビ!」
逃げるとしてもどこに逃げる?目が覚めた部屋に逃げようか?他に隠れられる場所なんて俺は知らないし、それが一番良さそうだ。
刃物が刺さったままで俺は部屋へと向かう。振り向くまでもなく———振り向く余裕が無いだけとも言うが———、イサリビが後を追って来る。怪我をしている今の状態じゃ確実に追いつかれ、次こそ引導を渡されるかもしれない。ならどうするか・・・・・・?
・・・・・・あぁもうワンチャンに賭けるしかない。一瞬の隙を作るためにくるりと回り使える右腕をイサリビの急所へと伸ばす。俺の腕の速度では捕らえられるのも当然だった。だがそれでも下半身に向けての攻撃の勢いは殺しきれず、そのまま急所に手が当たる。
「ひっ!?・・・・・・こっんの!変態がぁぁああああ!!!!!」
言われなくたって分かってるわボケナス!俺だってそんなことやりたくないんだよ!
流石にいきなり痴漢行為を行った俺の行動には驚いたようで・・・・・・いや、ただの嫌悪感でしょうな。かなり後ろへ引いてしまう。もう一度触られるなんて嫌だと思ったんだろう。俺でもそう思うし、後で謝っておこう。
だが、距離は取れた。これを有効活用しなかったらただの変態だ。もし変態扱いされるとしても、俺は変態という名の紳士なんだ!・・・・・・とか言ってもやった事は最低だからなぁ・・・・・・はぁ。
大きく開いた距離のおかげで俺は部屋へと戻ることが出来た。鍵を閉めて、近くにあった椅子やらで扉を抑えて時間稼ぎを行う。もう少し時間が経てばきっとリーリャさんが来るはずだ。それまで何とか粘るしかない。
一瞬とはいえ休む時間が作れた。そう思ったら急に左胸の痛みが強くなった。そりゃ刺さったまま全力で走ればそうもなる。
床に腰を下ろして一度息を整える。このまま胸に刺さったままなのはマズいので、それに手を当てる。
触れるだけで左胸から肩が熱湯をかけられたかのように熱くなる。だが、このままでは傷が塞がらない。壊死だってするかもしれない。・・・・・・覚悟を決めるしかないか。
刃物の取っ手をしっかりと掴み、大きく深呼吸をする。歯を噛み締めて一気に抜き取った。
「があああぁぁああ!!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!
即座に刃物を投げ捨てて、空いた右腕を床に何度も叩きつけながら歯をくいしばる。肩を大きく動かしてしまう。
抉るように抜いたつもりはなかったが、やっぱり刃物を含めて血小板が傷を塞ぎ始めていたようで、抜いた後に鼻血のようにボタボタと血が流れ出してしまった。
そのまま結構な時間が経ってやっと自傷行為をしないで、痛みを堪えられるぐらいになった。出血はどうなったのかと身体を引きずって鏡の前で上を脱いで傷の所を見ると、もう血は止まっていてその上傷も塞がっていた。腰の方もだ。これは流石に速すぎる。抜いてから結構時間は経ったとはいえ、それでも数分の話の筈だ。俺が思っている以上に時間が経っているのなら、考えられないこともないが、それなら後ろを追っているはずのイサリビが何故来ていない。
自分の身体に恐怖を感じながら、先程脱いだ服を着てイサリビが刺した刃物を狂学者が作った脚部ユニットの隙間に入れる。部屋に置きっ放しにする訳にもいかないので、当然の判断だと思う。
さてとどうするか?外にはイサリビ、他に逃げる場所は窓しかない。だがロープがある訳じゃないからほぼ飛び降りる形になってしまう。それは怖いのでやりたくない。
・・・・・・けど、今の回復速度ならここから降りても大丈夫な気がする。刺されてもあの速度での修復だ。問題はあり過ぎるがいけないこともないだろう。
とうとう扉からノック音が聞こえる。ノックの音にしては大きすぎるのでイサリビが扉を押し破ろうとしているのかもしれない。時間はない。・・・・・・飛び降りるしかない・・・・・・のか?
今日何度目かの覚悟を決めて飛び降りようとした時、扉が押し破られてそこから出てきたのは、イサリビではなくリーリャさんだった。
「ナオフミ君!?」
「えっ・・・!リーリャさ———ああああぁあぁ!!!!!」
意識が窓にいったことでバランスを崩し、体勢も酷い状態で地面へと落ちてしまった。




