7 魔力と魔法
「え、ええと……」
「ごめんね、戸惑わせちゃって。別に無理強いとかしたいわけじゃないから、話さなくても大丈夫だよ」
落ち着かせるように告げれば、ミレツィアは少しほっとした表情を見せた。
「いえ、そのように言っていただいたのが初めてだったので」
「まじで?」
思わず素で返してしまった。
「わたくしは、魔力が多すぎるのです」
「魔力!?」
普段は聞くことのないその単語に、美桜は思わずポカンと口を開けてしまった。
魔力といえば、よく田中が言っていた異世界転生につきもので、魔法を使えたり、チート級のすごい技が使えたりするもだ。
(そういえば、アニメでもダンディス様が魔法を使ってたっけ。つまり私、ダンディス様みたいになれちゃう!?)
思わずキュンとしてしまった。
(でも、落ちこぼれっていうことは……魔力が多いのが、よくない風潮とか?)
今まで美桜が見てきたアニメや漫画では、魔力の多い人物は主人公だったり、人気キャラだったりしていた。
魔力なんて多ければ多いほどよいのでは? というのが、正直すぎる気持ちだ。
美桜が不思議そうにしていたからか、ミレツィアは「制御ができないのです」と詳細を教えてくれた。
「魔力が多いこと自体は、とても喜ばしいことです。わたくしも生まれたときは、魔力の多さから喜ばれたと聞きましたし……」
ミレツィアは表情を曇らせて、「ですが」と話を続ける。
「わたくしは魔力が多すぎるゆえに、制御ができなかったのです。初めて魔力が暴走したのは一〇歳の誕生日でした。わたくしは……屋敷を半壊させてしまったのです」
「屋敷を半壊……!?」
美桜はつい、視線をずらしてスリズィエ家の屋敷を見てしまった。五階建てでとても大きく、とてもではないが壊すなんて不可能に近い。
「は〜〜、魔法ってすごいんだねぇ」
ついついこぼれた率直な感想だった。
ミレツィアからすれば、屋敷を半壊してしまったことを告げた感想がそれなのか? という、なんとも言えない気持ちだろう。
目を瞬かせたあと、ミレツィアはふふっと声を出して笑った。
「そんなことを言われたのは、初めてです」
「あはは。気分を害しちゃったらごめんね」
「いえ」
ミレツィアは首を横に振って、目元を緩める。
「なんだか少し、気持ちが楽になったように思います。ありがとうございます、ルシェラ様」
「私は何もしてないのに」
美桜もミレツィアに釣られるように、クスクス笑う。
そして少し雰囲気が落ち着いてきたのを見計らって、美桜は今一番気になってることを問いかけた。
「ねえ、もしかして私も魔法が使えちゃったりする!?」
ルシェラは今まで虐げられて生きてきた。
しかしとんでもなく強い魔法が使えるとなれば、開き直って虐げながら生きていく人生だって送れるようになるだろう。
まあ、もちろんそんな物騒なことはしないけれど。
ミレツィアは首を傾げながら、じっと美桜を見てきた。
「基本的に、人間は誰しも魔力を持っています。その中でも、貴族は魔力が大きいとされていますから……練習さえしっかりすれば、貴族ならば使えるようになると思いますよ」
「なるほど、私の中に魔力はあるんだね」
あまり実感は湧かないけれど、もしかしたら集中すれば感じることができるようになるかもしれない。
(でも、本当に何も感じないんだよなぁ……?)
こらは毎日ちょっとずつでも検証をした方がいいだろう。
(中身は日本人ですが、ルシェラちゃんのめにとっっても頑張るのでお願いします!!)
この世界の神が誰だかいるかもすらわからないけれど、私はひとまず桜へと祈っておいた。
「それで、本題!」
「本題、ですか?」
美緒の言葉に、ミレツィアはいったいどういう意味? とばかりに櫛を傾げた。
つい先ほどミレツィアに話してごらん★と言ったことをもう忘れてしまったのだろうか。
「そりゃあ、ミレツィが話してスッキリすること! だよ!」
当たり前だろう! というノリで、美桜はぐっと指を立てた。
おちこぼれであることを解決する糸口すら見つけられないかもしないけれど、話をすれば幾分かはマシになるはずだ。
ミレツィアは困惑した様子で、美桜を見てきた。
「そう言われましても、話すことはあまり得意ではなくて……」
「あー……そっかあ。私も無理強いしたいわけじゃないしなぁ。……ちなみに、私が喋って相槌を打ってもらうのはアリ?」
「はい」
今度はしっかり頷いてくれた。
美桜はまだ魔法のことはよくわからないので、ここぞとばかりに聞いてしまおうと考える。
そして最終的には、自分もダンディス様のようなイケメン紳士にーー! なんて可愛い夢を見ている。
「魔力が多くて大変っていうけど、いつもはその魔力どうしてるの?」
「溢れ出てしまう前に、消費してます」
「消費?」
「魔法を使って、魔力を減らすんです。魔法を使うには、魔力が必要ですから」
なるほど確かに! と、美桜は納得してポンと手を打った。
「つまり……暴走する前に魔力を使い切っちゃえばいいんだよね?」
「はい。ただ、わたくしは何もできないので、その使い切ること自体が難しいのです」
そう言って、ミレツィアは項垂れる。
「……騎士団の鍛錬へ参加したこともあります。ですが、わたくしはあまりにも運動ができなくて……」
早々にあきらめてしまったのだという。
「いきなり体育会系のトップに混ざるのは私だって無理だよ!」
それは考えた人が悪すぎる。
美桜は自分の指先を見て、この世界に来てからずっと考えていたことを口にする。
「私と一緒に、ネイル魔法を開発しない?」




