20 アドバイスのお礼
「ルシェラ様、アレクシオ殿下からお手紙が届いてますよ」
「リノちゃん! ありがと~!」
手鏡のルシェラとの邂逅から数日、美桜は今後のことをどうするか考えていた。
リノが退室したのを確認し、美桜はペーパーナイフで手紙を開ける。
アレクシオの整った綺麗な文字で、返事が綴られていて。久しぶりに会いたいなぁ、なんて考えてしまう。
「でもまあ王子様だし、そう簡単には会えないよねぇ」
せっかくの友達第一号だというのに。
ただ美桜がデビューを予定している王城の夜会では会えるはずなので、それを楽しみに待つしかない。
「あ!」
そしてピコンと閃く。
どうするか考えていた、ルシェラと魔女ルイーンのことだ。
「アレクシオ様だったら、ルイーンがどこにいるか知ってたりしないかな?」
――美桜は、秘約の魔女ルイーンを見つけたい。
ルシェラに身体を返したいし、可能ならば友達にもなりたい。
ただミレツィアも言っていたけれど、情報がなさすぎてどうすれば会えるのかがわからないのだ。
(だけど、ルシェラちゃんはルイーンに会えたんだよね)
だとすれば、会える方法がどこかにあるはずだ。
(でも、ルシェラちゃんは屋敷どころか部屋から出ることはほとんどなかったっていうし……どうやってルイーンのことを知ったんだろう?)
そして、どこで会ったのだろうか。
わからないことだらけだ。
「アレクシオ様が知ってたらいいな。それか、王城の書庫? とかだったら、有力な情報があったりしないかな~~……」
とりあえず今日の手紙の返事には、魔女ルイーンのことを書くことにしよう。
「ルイーンに会うことができたら、この身体をルシェラちゃんに返せるかもしれない!」
しかし、ルシェラは自分の人生を良くは思っていない。
いじめられ、一人で過ごしてきたのだ。
「……大丈夫。私がルシェラちゃんを一人にはしないから。ミレツィやユリアナ様、もちろんアレクシオ様にも紹介するし!」
そして一番大事なことは――
「ルシェラちゃんが帰ってくるまでに、私は地位向上を目指す!!」
家族仲を良好――とまではいかないかもしれないが、良くする。
友達は一〇〇人作る。
つまり、強々令嬢ルシェラになっておけばいいのだ。
そう決意しながら、美桜アレクシオの手紙に目を通していく。
アレクシオからの手紙には、いつも美桜が軽くアドバイスをしたことへの結果が書かれている。
今は、街と街を繋ぐ道の工事をしているそうだ。
「道を作るって、絶対に大変だよね……」
この世界には魔法こそあるが、便利な重機や機械がない。そのため、人力
作業することが多いのだ。
「移動だって馬車だもんね。魔法があるなら、箒で空を飛んだりできないのかな?」
なんて、つい考えてしまう。
「っと、それで手紙の続きっと――――――えっ!?」
アレクシオの綺麗な文字で書かれていたそれを、美桜は思わず声をあげて三度見してしまった。
「え、嘘でしょう? 本当に……?」
そこに書かれていたのは、『アドバイスのお礼をしたいので、五日後は家にいてくれると嬉しい。可能だろうか?』という一文だった。
「なんで私に贈り物? いったいどういう心境で……あ、アドバイスのお礼? えっ、お礼をしてもらえるほどの助言はしてないんだけど!?」
思わず口元を押さえて、ふうと息を吐いて呼吸を落ち着かせる。
「いや、嬉しくはあるんだけど……。王子様からのお礼って、いったい何がくるの? まったく予想ができないんだけど……」
もしこれが日本の友人だったら、美味しいお菓子とか、ランチを奢るとか、ある程度の予想はつく。
しかし王族、しかも次期国王といわれているアレクシオだ。
「ん~~、まあ楽しみに待てばいっか!」
あとは届いてから考えよう。
基本的に気楽でポジティブなので、美桜はいったんプレゼントに関する思考は止めてオッケーの返事を書いた。
***
「ルシェラ様、ルシェラ様! 大変です!!」
美桜が部屋で日課となった筋トレをしていたら、慌てふためいたリノが飛び込んできた。その顔色は青くなっている。
「リノちゃん、どうしたの……?」
「どどどど、どうしたのではありません! アレクシオ殿下が! いらっしゃってるんですが!!」
「あ! アレクシオ様、自分で来てくれたんだ」
忙しいのに、なんて律儀なんだ。
「応接室に通してくれたりしてるの?」
美桜が汗をぬぐいながら訪ねると、「どうしてそんな平然としているんですか!」と声を荒らげた。
「殿下ですよ!? なんで突然……ルシェラ様は驚かれないんですか!?」
「だって来るのは聞いてたから」
「え!?」
「手紙でね。でも、忙しそうだったからアレクシオ様が直接きてくれるとは思わなかったよ~」
嬉しい誤算だねと、美桜は笑う。
「いやいやいやいや、来客がある場合は伝えていただかないと! お茶屋お菓子のご用意だって、必要ですし!」
「リノちゃんのお茶は美味しいから大丈夫だよ」
「全然大丈夫じゃないんですよぉ……」
リノは涙目だ。
美桜は筋トレをしていた軽装からドレスに着替え直し、リノに案内してもらいながら応接室へ向かう。
(アレクシオ様が来るかもって、本当は伝えておいた方がよくはあったんだけど……仕方がなかったんだよねぇ)
なぜなら、今日は朝からレイドリックとコーデリアが二人で観劇へ行っているからだ。
しかしアレクシオが来るかもしれないと屋敷の誰かに伝えれば、二人は出かけるのを止めてしまうだろう。
(多忙で疲れてるアレクシオ様に、挨拶程度とはいえ兄と妹の相手で時間を取らせるのは申し訳ないもんね……)
続けている文通では、仕事で睡眠時間があまりとれないことも書かれていた。きっと、睡眠の質もよくないだろう。
(ストレスは睡眠の敵!)
リノをはじめ使用人には申し訳ないけれど、今回はアレクシオを優先させていただいた。
もちろん勉強したため貴族のマナーはわかっている。が、これはこれ、それはそれだ。
「お待たせしました、アレクシオ様」
「いや、問題ない」
美桜が応接室に顔を出すと、お茶を飲んでいたアレクシオが立ち上がってこちらを見た。
もう一度席を勧めつつ、美桜は「お忙しいのに、大丈夫でした?」と問いかける。
「ルシェラ嬢のおかげで、だいぶスケジュールに余裕ができたんだ」
「それならよかった。少しでも役に立ててるなら、嬉しいですからね」
リノが美桜の分の紅茶を用意し、控えるように後ろへ立った。
(婚約者でもない未婚の男女が密室にいるのはよくない、だっけ)
貴族のこういったマナーは多い。
手間ではあるけれど、きちんと守ってくれる相手は誠実だということがわかるのは良いなと美桜は思う。
「でも、アドバイスのお礼なんて大丈夫だったのに……」
「私の気持ちだから、気にせず受け取ってくれると嬉しい。とりあえず、これを」
そう言ってアレクシオが渡してきたのは、綺麗にラッピングされた箱だ。
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
「ああ」
しゅるりとリボンを解いて包装を開くと、美味しそうなチョコレートが一〇粒も入っていた。
濃厚な香りが美桜の鼻をくすぐる。
「ん~! いい匂い、めっちゃ美味しそう! 私、チョコ好きなんですよ」
こんな素敵なお礼をもらえるなんて! と美桜はテンションが上がる。
(ルシェラちゃんの身体に入ってから、一番の贅沢かも!)
美桜が目を輝かせながら見ていると、アレクシオが「それで本題だが」と話を切り出した。
「はい?」
今日はアドバイスのお礼を貰うだけだと思っていたけれど、何か本題が別にあったらしい。
確かに、アレクシオが直接来たのだからお礼だけ……と考えるよりは納得できる。
(もしかしたら、家族に手紙を読まれてたらあれだから書かなかったのかも)
貴族って大変だなと、美桜は改めて思う。
「それで、相談ですか?」
「うん? 手紙に書いただろう」
「ん?」
アレクシオの言葉に、美桜ははて? と首を傾げる。
特に何か相談事や話があるとは、手紙に書いていなかったはずだ。
美桜が不思議そうにしていると、アレクシオは「さっきも言っただろう」とあきれた様子で口を開いた。
「アドバイスの礼の話だ。ルシェラ嬢が何を好むかわからないから、直接聞きにきた」
「え? チョコ貰いましたよ」
「それは手土産だ」
「えー……」
まったく想定していなかったアレクシオの言葉に、美桜は頭を抱えるべきか悩んだ。




