17 側近との話題 - アレクシオ
「本日分の仕事はこれで終了ですね、アレクシオ様」
「エルネストか……」
書類の束の確認を終えて声をかけてきた青年は、アレクシオの側近のエルネストだ。「最近は仕事がスムーズで何よりです」と機嫌がいい。
アレクシオの側近で次期宰相候補、エルネスト・リュゼ。
蜂蜜色の髪は肩下ほどの長さがあり、ヘアアレンジをして黒色のリボンで結ばれている。黄緑色の瞳は屈託がなく、表情を明るく見せる。
年はアレクシオと同じ一八歳で、幼少の頃からの幼馴染みだ。
「これも、ルシェラ様から提案いただいた方法を取り入れたからですね。最初は、役割をこんなに細分化するのかと驚きましたけど……一つ一つの仕事量が減ったため、対応できる人間が増えたのはいいことです」
「そうだな。仕事を振り過ぎなければ、こなせるという者が存外多かった」
アレクシオたちの仕事は、今までは一人一人の抱えている仕事が多すぎて対応できる人間がほとんどいなかった。そのため、有能な人間ばかりに仕事が集中してしまっていたのだ。
しかしアレクシオがもらったルシェラからの手紙には、まずはスケジュール管理をするだけの人を作る……と書かれていた。
それだけのために貴重な人材を? と思ったアレクシオとエルネストだったけれど、いざ取り入れてみれば思いのほか仕事がスムーズに進んだ。いや、進み過ぎたと言ってもいいかもしれない。
「元々が優秀な者だったということもあるが、そこからの流れはかなりスムーズだったな」
アレクシオは、そこから仕事を細分化していき、一人当たりが抱える案件の数を減らした。それによって、今までで複数抱えるとできなかった仕事も、単体になったためできるようになった人間が増えた。
今、アレクシスの執務に対する負担はかなり減っている。
「優秀な人間を増やさなければと思っていましたが、逆に仕事を細分化して簡単なものを増やすとは……なかなか私たちにない発想でしたねぇ」
いつの間にか自分で紅茶を淹れていたエルネストは「仕事はもう終わり!」と態度をゆるくした。
そしてアレクシオの分の紅茶も用意して、口元を緩める。
「ルシェラ嬢、アレクの婚約者にいいんじゃない!?」
名案! とばかりに提案されて、アレクシオは思わず口に含んだ紅茶を噴き出しそうになった。
口調が砕けたエルネストは、側近ではなく幼馴染みとしてのエルネストになっている。
「いきなり何を言ってるんだ、エル」
「あはは、いつもお上品に紅茶を飲むくせに……動揺しちゃった?」
「ふざけるな」
大きく息をついたアレクシオは、エルネストをじろりと睨む。
「婚約者とか、そう軽々しく言わないでくれ。誰かが聞いてたらどうするんだ」
「執務室にいるのは私とアレクの二人だけだし、扉の外には護衛騎士。私たちの話を盗み聞きなんて、無理無理!」
エルネストは「だからそう堅くならなくていいじゃん」と気楽な様子だ。
が、アレクシオはそうは言ってはいられない。婚約者のいない王太子という存在は、大勢の令嬢からその座を狙われているのだ。
油断していればあっという間に外堀を埋められ、婚約の申し込みにNOと言えない状況を作られてしまうだろう。
……まあ、そんなヘマをするつもりは毛頭ないが。
「え~? でも、いいと思うんだけどなぁ。ルシェラ嬢」
「……お前は会ったことすらないだろう」
「そりゃそうだけどさぁ、王侯貴族の結婚なんてそういうのもあるわけだし。だったら、仕事に深入りせず有用な意見をくれる人がいいじゃん?」
仕事が早く終わるようになった点については、アレクシオも同意せざるを得ないが。
「とりあえず、この話は終わりだ」
「でも、嫌だとは言わないんだ? いつもは、どんな令嬢相手でも嫌だと意思表示するのに」
「――!」
見透かすようなエルネストの言葉に、思わずアレクシオの肩が揺れる。
「別に、良いと言ってるわけじゃない……」
「ふぅ~ん? まあ、そういうことにしておいてあげるよ」
からかうようなエルネストをひと睨みし、アレクシオは「そういえば」と思い出したように呟いた。
「ルシェラ嬢に何か礼をしなければとは思っていたんだ」
話題が変わるのかと思ったらルシェラのことだったので、エルネストは思わず笑いたくなるのをぐっと堪える。笑ったら、アレクシオの機嫌が急降下するのは目に見えているからだ。
「うん。私もお礼は必要だと思うけど……」
「何か手配をしておいてくれないか?」
「えええ、私がですか?」
「それがお前の仕事だろう……」
信じられないというような顔をするエルネストに、アレクシオは呆れる。
そもそも、今まで何か礼などが必要な際はすべてエルネストが手配をしてきた。だというのに、今回ばかり文句を言われる筋合いはない。
「仕事のアドバイスのお礼かもしれないですけど、ルシェラ嬢はあくまでアレクの友人として助言しれくれたわけでしょ? だったら、友人としてアレクが直接贈った方がいいんじゃない?」
「む…………」
エルネストのまっとうな意見に、アレクシオは思わず口を噤む。
「しかし、何を贈ればいいかなんてわからないぞ? 今まで女性関係で何か必要なときは、すべてエルが手配してくれていたじゃないか」
「え~? だったら、手紙で聞いてみるとかどうですか? アレクの話を聞く限り、ルシェラ嬢ってかなり直接物申すタイプみたいですし」
「ほしいものを聞くのか!?」
さすがにそれはどうなんだと、アレクシオは困惑する。普通、贈り物といえば相手がほしいものを察して用意するものだ。
なのだが……アレクシオから見たルシェラは奇想天外すぎて、全く思い浮かばなかった。
「ネイルを好むと聞いていたが、詳細はわからないし……」
手紙を書くしかないのかもしれない……と、アレクシオは悩みつつもペンを執った。




