12 ネイルの魅力に囚われて
「マグネットネイル、とはなんでしょう?」
耳慣れない言葉に、ミレツィアは首を傾げた。
「マグネットネイルは、キラキラしたネイルのこと。本来は、金属をジェルの中に入れて、それを磁石で動かして光らせる仕組みなんだけど……まあ、それは今は関係ないからいいや」
「なんだか難しそうですね……」
「本当そう! 考えた人は天才! って思う!」
美桜は笑いながら、魔石を使ってマグネットネイルができることを頭の片隅に置いておき……やはりまずは普通のネイルを試してみようとミレツィアと実験を開始する。
「この魔力樹脂に色を混ぜて爪に塗りたいんだけど、どうかな? 一応、身体に害はなさそうだったんだけど……」
リノに聞いたり、本で読んだりして、人体への影響は調べておいた。ただ、情報元が多くはないので、多少の不安は残る。
ミレツィアは「そうですね……」と思案しながら、爪と魔力樹脂を交互に見た。
「人体への影響はないと思います。ですが、塗って固めてしまうと、もう爪から取ることはできません。それに……あの……爪は伸びるので、不格好になってはしまいませんか?」
意見を伝えるのが申し訳ないという表情で、しかしミレツィアはしっかりと意思を伝えてくれた。そのことが、もっと仲良くなれたようで美桜は嬉しい。
「二〇日から三〇日くらい経ったら、爪から取って新しいネイルに変えるのが理想なんだけど……魔力樹脂を剥がせないとは大問題かも」
どうにかして剥がせないだろうかと、美桜は頭を悩ませる。
「でしたら、魔力樹脂を塗る前にコーティングしてみるのはどうでしょう? コーティングなら、魔力樹脂も剥がせますよ」
「何それ詳しく!!」
ミレツィア曰く、魔力で薄い膜を張ってその上に魔力樹脂を乗せる方法だった。
魔力コーティングはスライムゼリーに魔力を通すことでできるようになる。一度魔力を通すとコーティングとして使えて、もう一度魔力を流すとするりと剥がれるという。
「えええ、めっちゃ便利! 爪も傷まないっていうことだもんね」
「そうですね。……やってみますか?」
「ぜひ!!」
恐る恐るといった感じで提案してくれたミレツィアに、美桜は食い気味で頷いた。
ルシェラが揃えた材料と、ミレツィアが日ごろから魔力暴走を防ぐために持っていた素材や道具も一緒に使おうと提案してくれる。
「優しすぎる、ありがとう~!」
「ルシェラ様の方がお優しいですよ」
そう言って、ミレツィアは美桜の爪をスライムゼリーでコーティングしていく。
その上に薄赤色の染め料を混ぜた魔力樹脂を筆で塗り、魔力を流す。すると、あっという間に、しかも簡単にネイルができてしまった。
「わあああぁぁ、まさにこれ! シンプルネイルだけど、色味が明るいってこともあってめちゃめちゃテンション上がる!!」
「…………」
美桜がはしゃぎながらネイルを見ているのとは反対で、ミレツィアは静かだ。しかしその視線は、静かに美桜の指先に向いていて。
「ミレツィ? どした? 大丈夫?」
「あ……いえ。その、とても可愛くて……驚いてしまいました」
ミレツィアの表情は、まるで指先に見惚れているようだ。嬉しそうに微笑んで、「嬉しくて」と言葉を続ける。
「わたくし、こんな風に誰かのためになることができるとは思っていなくて……。できることといえば、今すぐにはないのですが、この魔力を必要な方が現れたときの政略結婚くらいですから」
「ミレツィ……。そっか、今まで辛いことがたくさんあったんだね。でも大丈夫! これからは、その分たっくさん楽しいこともしよ!」
「……ルシェラ様と一緒だと、とても元気を貰えますね。わたくし、こんなに楽しかったことは……初めてです」
うわべだけではない心から微笑むミレツィアに、美桜は「当然!」と笑顔を返す。
「じゃあじゃあ、楽しくなってきたところでもっと楽しくネイルをしよ!」
「はいっ! わたくし、魔石を砕いて光らせてみると可愛いかと思うのですが」
「言ってたやつだよね。どんどんやっていこうよ! それに、爪を全部同じにする必要だってないんだよ」
一本一本違う色に塗ったり、装飾を変えたり、やれることは無限にあるのだ。
美桜がネイルのよさを熱く語ると、ミレツィアがとても食いついてくれる。
「指先は刺繍をするときに目に入るので、可愛くしておけるのはとても嬉しいです」
「そうか、刺繍! 確かに貴族の令嬢って、刺繍のイメージ。これは夜会でのお洒落はもちろんだけど、日常的な需要もかなり見込めそうかも」
すぐにネイルを広めるかと言われたらむずかしいけれど、少しずつ少しずつ、水面下でじわじわ広げていくことができれば……社交界で、美桜の立ち位置は劇的に変わるだろう。
「ちなみにミレツィ、商売の仕方とかは知ってたり……?」
「あ……さすがにそこまでは……」
美桜の問いかけに、ミレツィアは眉を下げる。さすがに、まだ一〇代ということもあり、ミレツィアもそういったことには疎い。
「ルシェラ様は、これを商品にするおつもりですか?」
「……そうだね、ゆくゆくは。だけど今は、お洒落が好きな子にちょっとずつ広めていけたらいいなと思うよ。私とミレツィがいたら、なんでもできそうだし!」
そう言いながら、美桜は「こういうこととかできる?」と、さらにネイルの話で盛り上がった。




