11 楽しいお茶会の始まり
「またミレツィア様にお手紙ですか!?」
美桜が笑顔で手紙を差し出したら、リノが信じられないという顔をした。まあ、その気持ちもわからなくはない。
「お返事をいただいていないのに、毎日お送りするのはどうかと思いますけど……」
本当に送るつもりですか? と、リノの顔に書かれている。
「返事はいらないって、手紙に書いてるから。大丈夫、大丈夫」
「……まあ、私はルシェラ様の指示に従うだけです」
なので何か問題が起きても一切責任を取ることはないのだと、リノは暗に告げた。
***
「本日はお茶会にご招待いただき、ありがとうございます」
「…………っ!!」
玄関ホールでにこやかに挨拶するミレツィアを見て、スリズィエ侯爵家の執事は叫びそうになったのをぐっと堪えた。
なぜ、ラーグリスト公爵家のご令嬢が!? そう思いながら、失礼な対応をしてはいけないと、執事はうやうやしく礼をする。――と、後ろから「ミレツィ~!」というのほほんとした声が聞こえてきた。
執事が振り返ると、満面の笑顔でルシェラが出迎えのため階段を下りてきているところだった。
「いらっしゃい、ミレツィ! 今日は来てくれてありがとう」
「わたくしこそ……。お招き、ありがとうございます。悩んだのですが、ルシェラ様のお手紙が嬉しくて」
我慢できずに来てしまいましたと、ミレツィアははにかむ。
「本当? 嬉しい! ミレツィの今日のドレス、とっても可愛い!」
ミレツィアは淡い水色の生地に、レースのリボンをあしらったドレスを身にまとっている。細身のネックレスと髪飾りは花がモチーフになっていて可愛らしい。腕に付けている太目のバングルには、きらりと輝く宝石がはめ込まれていて目を引き付けられた。
「ありがとうございます。ルシェラ様は……なんだか、変わったドレスですね。ですが、センスがあってとっても可愛らしいです」
「んふふ、ありがと~!」
美桜の着ているドレスは後ろ側の裾がながいフィッシュテールタイプ。
決して裾が短いわけではないが、足首は見えてしまっているので長い丈のドレスしか着ない令嬢の目には不思議に映ったのだろう。
ちなみにこれは、元々あったドレスをリメイクした一着だ。
(なんせまだ教師が派遣されないからね、暇なんだよね~!)
とはいえ、美桜とてそんなに早く教師を手配できるとも思ってはいない。なんなら、あえて遅くしようとしている可能性だってある。
(まあ、やりたいことはいっぱいあるからいいけど)
そう考えつつも、それでも手配が遅いようならこちらから仕掛けるだけだ。
「さっ、ミレツィ! 私の部屋に行こう! リノちゃん、お茶をお願いね~! あ、お茶菓子もあるかな?」
「……っ、私が用意いたします」
いつものお茶を飲む感じで美桜がリノに声をかけたけれど、返事をしてきたのは顔色を青くした執事だった。
今まで美桜とほとんど接点がなかったので少し驚いたが、これはいい傾向だとにっこり微笑む。
「私の部屋でお茶をするので、お願いしますね!」
「かしこまりました」
「ミレツィ、私の部屋はこっちだよ~」
美桜はミレツィアを連れて部屋へ戻った。
ルシェラの部屋、互いに向かい合わせにソファへ座って、無事にお茶会にこぎつけられたことに美桜はほっと胸を撫でおろす。
ミレツィアはそわそわしながらも、ゆったり微笑んだ。
「改めまして、本日はお招きいただきありがとうございます。わたくし、毎日お手紙をいただいて……驚いてしまって……」
「手紙、嫌じゃなかったです?」
「とても嬉しかったです。ルシェラ様から、友達なので一緒にお茶会をしたい、話題がなくてものんびり過ごすだけで楽しそう、お洒落の研究をしよう、魔力の使い方を知りたい! と、手紙だけでもこんなに話題がつきないものなのだと驚きました」
クスクス笑うミレツィアに、美桜は「当然!」とドヤ顔を見せる。
「ですが、魔力の使い方とは……? スリズィエ侯爵家は、代々癒しの魔法をお使いになりますよね?」
自分が教えることなど何もないのではと、ミレツィアが不思議そうな顔をした。
「ん~、実は魔法が使えなくて。魔力? みたいなのがあるのはわかったんですけど、使おうとしたら気持ち悪くなっちゃったんだよねぇ」
しょぼ……と眉を下げて伝えれば、ミレツィアは真剣な表情で「原因があるのでしょうか?」と考えてくれている。
そもそも美桜がルシェラとしての記憶を持っていないので、単純に魔法の使い方を理解していない可能性や、そもそもルシェラではないから使えない可能性もある。
「まあ、急いで使いたいわけではないから……ちょっとずつ練習してみようかなとは思ってるよ」
「そうですね。練習して、魔力の扱い方に慣れていくのがいいと思います。わたくしが力になれることがあれば、なんでもおっしゃってくださいね」
「ありがとう~~!」
めちゃ嬉しい! と、美桜は感謝を露にする。
「そうそう、そうだった! それで、ネイル大作戦のときにミレツィの魔法を見せてもらって、何かコツを掴めたらとも思ってたんだよね」
「わたくしの魔法で、ですか? ですが、わたくしは魔力が多すぎるので……参考にはならないかもしれません」
「こういうのは、まずは雰囲気から! もっと軽く考えてくれたら嬉しいな」
「……はい」
美桜の言葉に安心したのか、ミレツィアは肩の力を抜けたようだ。
そしてここからが、今日の本番。
ルシェラは棚にしまっていた箱をテーブルの上に置いて、その中身を取り出した。
「これは……なんですか?」
「ネイルの材料になりそうなものを、集めてみたんだよね!」
ルシェラの部屋にあったドレスをリメイクした際に出た布やレースの切れ端に、リノに頼んで買ってきてもらった安価な装飾品やそれらを作る素材。
ネイルのベースにするものは、植物の樹脂だ。
これはリノにいろいろ話を聞いた結果、魔道具を作るための素材で代用できそうだったので買ってもらってきた。
「まず前提として、これは私の理想ね。ミレツィが実現可能かどうか判断してほしいの」
「わたくしがですか? ……わかりました」
興味深そうに見ているミレツィアに、ルシェラはネイルの流れを説明していく。
「したいことは、ネイル。自分の爪に色を塗ったり、こうやって装飾したりすること。色は、この樹脂みたいなやつに染め料を混ぜて色をつけるの」
「魔道具作製で使う、魔力樹脂ですね。確かに、作業工程に魔力が必要になりますが、これを使えば爪に色を塗れると思います」
「本当!? よーっし、第一関門はクリアだ!」
ミレツィの言葉に、ついガッツポーズをしてしまう。
しかし、ネイルの本番はここからだ。
(色を付けるだけの、ワンカラ―ネイルももちろん可愛い! でもせっかくなんだから、もっと可愛かったり格好良いネイルだってしてみたい!!)
ギャルの欲望は無限大だし、全人類可愛くなったらいい。
「爪に色を……なんて想像したことはありませんでしたが、手元を見るのが楽しくなりそうですね」
「うんうん! わかる、それ! 一色でもいいんだけど、全部の爪を違う色にしても可愛いと思わない!?」
「……! それは、すごく可愛いと思います」
美桜の言葉に、ミレツィアは口元を手で覆って頬を染めた。テンションが上がって、恥ずかしくなってしまったようだ。
ミレツィアは、「それなら」と何かを閃いたらしく口を開いた。
「砕いた魔石を混ぜてみるのはどうでしょうか? 魔力を込めたら、キラキラすると思います」
「マグネットネイルまでできちゃうの!?」
美桜のテンションが一気に上がった。




