10 お茶会の招待状 - ミレツィア
窓にはまった鉄格子は、部屋に入ってくる太陽の光を遮る。ただ、元々北側に位置する離れでは、あまり陽当たりはよくない。
部屋の壁には特別な鉱石が使われていて、堅牢だ。
そんな無機質な部屋だが、室内は調えられている。
パステルカラーの可愛らしい内装に、贅沢な灯りの魔道具。柔らかな寝具に、くつろぐことのできるソファ。テーブルには、常にティーセットが用意されている。
そんな室内に、軽くノックの音が響いた。入室を許可すると、わずかに困惑した侍女が手紙を持ってやってきた。
「ミレツィア様、ルシェラ様からお手紙が……」
「……ありがとう」
そう、この可愛らしい牢獄のような場所はミレツィアの部屋だ。
侍女を下がらせたミレツィアは、今しがた届いた手紙をじっと見つめる。
(……お茶会の断りの連絡が侯爵からきたから、それについての謝罪でしょうか)
まだ封を開けていない手紙を見て、ミレツィアは眉を下げた。
一緒にお茶会ができないことは寂しいけれど、断られることには慣れている。
魔力暴走を起こしかねない人間と同じ空間にいたいと思う人間など、そういるわけがない。
(細心の注意を払って参加してはいるけれど、最低限の挨拶以外はあまり話が続かないもの)
ミレツィアは公爵家の人間なので、挨拶を交わす人は多い。しかしそのほとんどが、どこか怯えを含ませている。
「ルシェラ様……。友人になれたら……いえ、わたくしには過ぎた望みですね」
自嘲めいた笑みを浮かべ、ミレツィアはペーパーナイフで封を切って手紙を取り出した。
拝啓
ミレツィア・ラーグリスト様
花の木が鮮やかに色付く今、友人となれたことを嬉しく思っております。
そんななか、お茶会への招待に断りの連絡が行ったかと思います。せっかくお誘いいただいたのに、このようなことになり申し訳ありません。
父と話しまして、私のマナーが稚拙であるため、教師から合格を得るまで外出禁止となりました。
なので、私のお茶会にミレツィを招待しようと思い手紙を書きました!
外出許可は出ていないけど、招待禁止令は出ていないので!
ぜひ、お茶会を予定していた日にお会いできますと嬉しいです。
ルシェラ・スリズィエ
敬具
「……………………えっ!?」
まったく予想していなかった手紙の内容で、ミレツィアは理解するのに時間を要した。だってまさか、招待状だとは思いもしなかったからだ。
「というか、いいのでしょうかこれは……?」
外出禁止だからといって、招待するのはどうなのか。
「確かに、わたくしを招くことは禁止されていないのでしょうが……だからといって、わたくしを招いていいとは思えないのですが……」
ミレツィアはつい立ち上がって、手紙を持ったまま部屋の中をうろついてしまう。動揺していて、動いていなければ落ち着かなかった。
「これって、わたくしお返事をした方がいいんでしょうか?」
恐らく返事をすれば、スリズィエ侯爵にルシェラの企みはばれてしまうだろう。そうしたらきっとまた、お茶会の断りの連絡がくるはずだ。
しかし手紙を見ると、日程はすでに最初にミレツィアがお茶会を提案した日と書かれているし、返事をせず来て良いとも書かれている。
こんなやりとり、よほど親しい間柄でなければ行うことはない。
「わたくしとルシェラ様は、つい先日の夜会で知り合ったばかりだというのに」
けれど、ルシェラは初めてミレツィアに友人といってくれたのだ。あのときの嬉しさは、上手く言葉にできないほどだった。
「会いたい。ルシェラ様とお茶会をしたい……でも、ご迷惑をかけてしまうことはわかっていますし……」
魔力暴走が起きないように、万全の態勢でお茶会などには出かける。ただ、それでもスリズィエ侯爵は良い顔をしないだろう。
大規模な夜会とは違うのだから。
ミレツィアはぎゅっと手紙を抱きしめる。
「ルシェラ様と仲良くなりたいです。でも、わたくしはそれ以上に、ルシェラ様にご迷惑はかけたくないのです……」
だから、お茶会へ行くのはやめよう。
ミレツィアは心苦しくなりながらも、そう決めた。
そして申し訳ないけれど、手紙の返事も行わない。もしスリズィエ侯爵に見られてしまっては、ルシェラが叱られてしまうと思ったからだ。
「……いつか、夜会でお会いできたらそれで十分」
そう思っていたのだけれど――翌日も、ルシェラから手紙が届いた。
「……えっ!?」




