第5話_潜む影と、呪いを孕む翼の産声
おばあさんは、カウンターの隅で埃を被っていた魔具”共鳴する黒水晶”に指先を這わせた。
じわり、と水晶が深紅に濁り、空間を震わせるような低い振動が始まる。
それは言葉というより、思考が直接音に変換されたような、歪な響きとなって店内に溶け出した。
「......予定通り彼女......リーンといったかな?がこの店に来て”情報”を持って行ったよ。」
魔具越しにそう聞くやいなや、こう答えた。
「そう......でどうだったの彼女は?」
「やはり、化け物だよ。”秘密”までは分からなかったけど、正義の男を一瞬で自分の世界に引き込んで勝負をつけた。
ただ、彼女の中にある弱い部分も同時に見られたけどね。」
おばあさんは、自身が感じたことを魔具越しに説明した。
「??その弱い部分のいうのは何かしら?」
そう魔具越しからそう質問があった。
「これ以上は私の口からは言えないね。あくまであんたたちとの契約は何の”情報”を入手したかだけだったはずだよ。
そんなに気になるならそれは追加料金がかかるってもんさ」
おばあさんがそう言うと魔具越しにこう答えた。
「......食えないやつだわ。嫌になっちゃうホント......」
「んで、どの情報を持って行ったの?」
続けざまに水晶越しにおばあさんに尋ねた。
「情報は全部で4枚。一枚はデシラ王国の王子様ね。一枚はどこかの奴隷、
もう一枚はさまよっている魔族、そして最後の一枚はただのエルフだよ」
おばあさんがそう答えると、水晶越しに少し驚いた表情をして、こう答えた。
「本当に間違いなくその4枚の情報を持って行ったというの?」
「そうだよ。私の情報が信じられないとでもいうの?」
おばあさんはそう答えると、少し頭を悩ませてからこう答えた。
「ふふ。。まあいいわ。分かったわ。じゃあまた別の依頼の時によろしくお願いね。」
そういうと共鳴する黒水晶は砂のように崩れ去っていった。
一方、水晶越しでは薄暗いへやで一人の影が口紅を塗りながら、口角を上げてつぶやいた。
「おおむねあの方のおっしゃったとおりのようね。これでチェックメイトに一歩近づいたわ」
リーンは、前日に引き続き、路地裏を出たとこにあるほしいもをほおばりながら町を歩いていた。
「やっぱりあの路地裏の先は不思議な世界だったわね。」
ミアにそうつぶやくと、ミアがゆっくりと瞬きをした。
(ミアの様子は特におかしいところはないわね......)
そういうと、町の中心にある噴水のそばに座って、ほしいもを食べていた。
「......なんで負けないんだよ、普通におかしいだろあれ......」
誰かがそう言うとリーンは噴水のすぐ横で2階から何かを落としているところに人だかりがあることに気が付いた。
「......あれは何?羽根?」
嫌なノイズは一つだけ、絶対に勝てるという自信だけ、ほかの周りの人からは、尊敬、驚嘆というシンプルなノイズが聞こえてくる。
リーンは、人だかりの近くにいる人に微笑みながらこう聞いた。
「すごい人だかりですね?あれは、何をやっているの?」
近くの男は、にやにやしながらこう答えた。
「2枚の羽から一枚選んで、どっちが先に土の上につくかの賭けをしているんだ。
2階から同時に落下させているんだが、今日20回目の勝負でまだ一回も負けてないんだよ。」
そう男が言うと人だかりの中でまさに勝負中の青年がいた。
落ちる羽はひらひらと青年のひざ元あたりに来てから急に失速した。そして相手の羽が先に地面についた。
「また、僕の勝ちのようだね。さあ約束のお金を置いて行ってもらおうか。」
そういうと、続けさまにこう周りの人に聞いた・
「さあ。ほかに僕と戦う人はいるかい?」
(ちょうどいいわ。あれが使えるか試してみようかしら......)
ざわざわする人だかりの中、リーンは手を上げ、青年にこう言った。
「ねえ、このゲームの勝敗はどうなるの?」
青年はまるでカモが来たと思いながら、勝ちを確信しているように答えた。
「簡単さ。羽が地面に着いたら負け。それだけさ」
続けさまにリーンは質問した。
「ルールの追加は可能?
例えば、途中で負けを認めさせたら勝ちというルールも追加していいかしら?」
青年は笑いながらこう言った。
「そんな2階から羽が落ちるまでの何秒かの間に負けを認めることなんでないんじゃないかな?」
「負けを認めることがないのなら、ルールに追加をしてもいいわよね?」
リーンはそういうと青年は頷いた。
「分かったわ。私が勝負するわ」
そういうと人だかりの人はまた負けるのかという感嘆のノイズが聞こえてきた。
(面白いじゃない。驚かせてやりましょう)
そういうと、青年は2枚の羽を見せてきた。
「どちらの羽を使うんだい?」
羽をよく見てみるが、特段変なところはない。ところどころ羽が広がりすぎている部分があるだけだった。
(......やっぱり。あった)
リーンはそういうと羽が広がっているほうを選択した。
青年は、羽の落とし方について説明した。
「私たちが羽を落とすと、羽に何か秘密を使われかねないから、秘密を持っていない彼にお願いすることにするよ」
そういうと、男は2枚の羽をもって2階に上がった。
「じゃあ、勝負開始」
そう青年がつぶやくやいなやリーンはこう青年のみに聞こえる声で、言った。
「一定のところまで行った羽を浮かせているのね?」
ひらひらと左右に大きく揺れながら落下し始めた段階で青年の顔付きが変わった。
「お前......それをどこで、僕は誰にも言っていないぞ」
青年がそう答えると、リーンは羽を指さしながらこう言った。
「羽の広がり方を見ればわかる。あれは自然落下で作羽の形ではないもの。
下から風のようなものが当たらないとあの状態の羽にはならないはずよ。」
「でも魔力の類の力ではない。となると残るは浮かせているそうなるわ」
羽は半分を過ぎたあたりで、リーン側の羽のほうがわずかに地面からの距離があった。
「ふん。何だろうと勝負を受けてしまった以上は、そうだとしても僕の勝ちは変わらないね」
そういうと、リーンは空を見ている青年に向けて、足元を見るようなしぐさをした。
「なんだよ......!!!」
「土が盛り上がっていってる。」
リーンは微笑みながら答えた。
「そうね。あなたは確かに浮かせることができるかもしれない。
けどこのゲームはあなたが言った通り、先に土に着いたほうが負けのルールよね。このまま盛り上がり続けたらどうなるかしら?」
人だかりの誰もが羽を見つめている中、青年とリーンは地面を見ている。いや地面で何かが起こっているのが気づいているのは、2人だけだった。
5センチ、10センチと盛り上がってくるにつれて、青年の感情から自身が消え、負けることへの恐怖へと、まるで自分が土に埋められるかのように感じていた。
「さあ、どうするこのままでもあなたは負けるわよ。でもここで追加ルールを使えば、まだこの秘密は人だかりからは、ばれないかもね......」
くすくす笑いながら、リーンはそう問いかけると青年はこう答えた。
「僕の負けだ......」
まだ首くらいまでしか羽が落ちていない状態での急な敗北宣言をしたため、人だかりはポカンとしている。
「えええっ!何でだよ!!まだ勝負は分からないじゃないか!」
人だかりがそう言うと、青年はこう答えた。
「だって土が盛り上がっ!!!」
そういいながら青年が地面に指を刺すがそこには盛り上がっている土などはなく、同じ地面となっていた。
「え......何で?」
不思議そうな目をリーンに向けるとリーンは羽を手に取りこう答えた。
「そんな秘密を私が持っているわけないじゃない?”幻覚”でも見てたんじゃないの?」
そういうと、青年の羽だけが地面に着地していた。
「私の追加ルールどうだった?まあ、追加ルールがなくてもこうやって自分の手で持てば羽は地面には着地しないけどね。
......私が触っちゃいけないなんて、一言も言ってなかったはずだけど?」
そういい、青年の耳元でこう伝えた。
「あなたが、負けを宣言しなければ浮いた状態の羽を人だかりのみんなに見せることになったんだから感謝しなさいよね。」
そういうと、青年は潔く負けを認めた。
青年がそう感じるやいなや彼の中から光が出てきて、光に手を触れると、自分の頭の中にまた、声が響いた。
青年のノイズから低音の不協和音が消えることを確認した。
「秘密:『浮遊』を手に入れました。」
そういうと光はどこかへ行ってしまった。
こうしてリーンは、勝負に勝った。
「またほしいも買いに行かないとね。」
「みゃう」
そうして自分の家へと足を運ぶのだった。
「リーン......か。彼女ならあるいは......」
フードを被った男性がこの戦いを見てそう確信していた。
続く。
次回更新:2026年7月17日 18:30




