第4話_掲げた正義と剥がれた後悔
「......うるさい」
リーンは、いつものようにそうつぶやいたが今回は違う。誰か特定の人物に向けての初めての発言だ。
「あなたは、誰なの?今取引は成立したのよ」
作り物のような愛想笑いをしながらも目は全く笑わずに、ドアから入ってきた男にそう尋ねた。
「俺の名は、カーター。取引はまだ成立してねえだろ。だってカードを受け取ってないんだから」
男は、リーンに向かってそう答えた。
「......カーター、あんたに売るような情報はないって、昨日も伝えただろ?」
おばあさんがリーンが答える前にそう答えた。
「おばあさん、この人は?」
リーンがそう尋ねるとおばあさんは、あきれながらこう答えた。
「ここ1週間毎日こうやってくるんだよ。。情報をぜーんぶくれってね......
でも私は情報を売る人間は自分で決めているから、カーターに売る情報はないと毎日追い返していたのさ。」
そうおばあさんは言うとカーターは首を横に振りながら、
悪いことをしている自覚が一切ないようなまっすぐな表情をして答えた。
「いいや、違うね。ばあさん。あんたは以前は今は情報がないと言っていた。
だが目の前で取引しようとしているそれ、、情報なんだろ?
ってことは今日はあるってことじゃねえか。」
リーンはあきれていた。”あんたに売るような情報はない”の”あんたに売るような”がごっそり消えているからだ。
「おばあさん。この人にこれ以上もう何を言っても無駄そうよ。」
そう答えるとおばあさんはため息をついてこういった。
「じゃあ、リーンは今欲しいといった4枚のカードを手放すのかい?」
「そんなわけないじゃない」
リーンは即答した。さらに続けてカーターに提案した。
「あなたが何をしたいのかはわからないけど、私が選んだ4枚以外の6枚を持っていくってのはどう?
さすがに10枚全部というのは虫が良すぎると思わない?」
「いいや。嫌だね。俺は目的は初対面の奴には言えねえが、この情報があるやつ全員を助けたいんだ。そうしねえと......」
カーターのその発言からは、まったく嫌なノイズはせず驚くほどにまっすぐだが、心地いいとまで感じられないようなノイズがしていた。
(このカーターって男、なんで嫌なノイズが一切しないの?......こんな人がなんでこんなところにまで情報を取りに来ているのかしら......)
リーンは、初めて動物がひとに興味を持ったみたいな、興味そして恐怖、敵意を感じていた。
幾秒ほど静まり返った後、おばあさんは店の中を1周してからあるものを手に取り、こう提案をした。
「では勝負をして決めたらどうだろうかね?
私としては10枚の情報がどっちだろうがこうなった以上はもう関係ないけどね。これ以上居座られると迷惑だしね......お二人ともどうだい?」
「分かったわ。」
「おうよ。」
リーンとカーターがそう言うとおばあさんはショーケースの上で準備をし始めた。
それは、先ほどリーンが店内を見ていた際に目についた魔具だった。
天秤のようなもの。天秤の上には何かを置くための窪みがあるのが分かる。
「では、リーンとカーターよ。このクリスタルに自分の想いを込めるんだ。」
おばあさんはそう言い、店の奥に厳重に保管してあったクリスタルを一個づつ渡した。
「あ、、ちなみにこのクリスタルや天秤は負けたほうに支払ってもらうからね......ざっと情報2枚分ってとこかねえ」
「............は?」
リーンは動揺している傍らで、カーターは笑いながらこう答えた。
「商売上手なこった」
おばあさんは、その反応の違いを見ると続けてこう答えた。
「この店ではよくあることだよ。
お嬢さん覚えておいて、こういうのがまかり通るのが商売ってもんなのさ。
私も食べていくのに必死でねえ......」
「じゃあルールの説明をするね。
この魔具は”裁きの天秤”と言ってね。昔、とある魔力の国ではこの天秤で善悪を判断していたと言われている。
それぞれが一番大事にしているものをクリスタルに込めてから、
この天秤に乗せると、重みが目に見えてわかるのさ。
そしてその一番大事にしているものが剥がれた瞬間にクリスタルが壊れるという代物さ。」
「ということで、ゲームの勝敗は簡単さ。相手のクリスタルが壊れて、天秤の底についたほうの勝ち......それだけだ」
リーンとカーターは頷くとおばあさんはクリスタルを置くように促した。
「さあ、お二方クリスタルを置いてごらん?」
(剥がれる......ねえ。私に剥がれるものなんてあるのかしら?それよりもカーターは何を考えているのかしら......)
リーンはそう思いながら、クリスタルを天秤にはめた。
同時にカーターもクリスタルを天秤にはめる。
(!!私のクリスタルのほうが浮いている?)
こうしてゲームは始まった。
最初に仕掛けたのは、カーターだった。
「リーンとか言ったっけ?あんたは、なんでここに来れたんだ?あの路地裏を通ってくる以外に道はねえだろ」
リーンはどう説明をしようか考えていたが、言葉を濁すようにこう答えた。
「説明の必要があるかしら?いまあんたの目の前に私がここにいるそれ以上でもそれ以下でもないわ」
続けてカーターはこう質問した。
「実はよ......あんたとおばあさんの会話を少し聞いちまったんだが、
オルン王国とあんた、なんか関係があるのか?例えば、オルン王国の誰かを殺した......とか」
リーンは動揺した。動揺を感じるや否やクリスタルに何かが吸収されるのを感じた。
(......やばい吸収されてる。私の動揺がクリスタルとリンクするように、濁った部分だけを持っていかれている。)
そうリーンが思うとカーターはニヤリとしながら、こう聞いてきた。
「さては......逃げてきたな」
その瞬間、またリーンの体の中の動揺がクリスタルに持っていかれているのが分かった。
......ピキッ。クリスタルにひびが入ってカーターの天秤が少し沈んだ。
カーターは勝ちを確信した。
「正解か。オルン王国にいる家族はあんたのことをどう思っているのかね......」
「勝負あったかねえ......」
おばあさんはそうつぶやいた刹那、クリスタルのヒビがリーンの体に動揺が戻っていくかのように消えていった。
それはまるで、クリスタルのほうから、リーンの動揺の吸収を拒絶しているように見えた。
「な......なんで?............」
カーターがそう聞くと、つづけてリーンはこう答えた。
「......そうよ。私も理由は言えないけど、オルン王国から逃げてきたわ......」
「でもね、あなたとは違う。家族なんてもんはとうにいないもの......」
リーンは事実を淡々と述べ始めた。まるで自分を第三者視点で見ているかの如く冷たい感情そして冷酷なほどに冷静に......
「お店に来てからのあなたの言動や行動をずっと見てきた。やっぱりあなたは”濁っている”」
カーターは笑いながら、こう答えた。
「何が濁っているんだよ。俺は情報にいる人を助けるためにここにきている。それだけが事実だ......」
リーンは首を横に振りながら訪ねた。
「じゃあ、なんで”殺した”とか”逃げてきた”とかの発言が真っ先に出てくるのかしら......」
「そして決め手は、”家族”その言葉を発した時にあなたの感情に一瞬濁りが見えた」
「あなたも、何かから逃げてきた。そしてそれを正当化するために偽りの正義を掲げている」
そうリーンが発すると、クリスタルにカーターの何かが吸収されていくのが見えた。
リーンは続けてこうカーターに尋ねた。
「あなたの正義はその何かから逃げてきた......そうね。オルン王国の話から推測するに、この国、デシラ王国と関係があるのかしら?」
「そのこの国ではよく見る高貴な服装、そして、使命感、掲げた正義、あなたは、逃げたことを後悔しているのね?」
「俺は逃げてなんか......」
その瞬間、カーター側のクリスタルにヒビが入り、リーンのクリスタルが、天秤の底に沈んだ。
カーターのノイズからまっすぐな心地よさの感情の一切が消えた。
(やっぱり......濁っている。でもよくこれを”偽りの正義”でここまで隠しきったわね)
リーンがそう思っていると、カーターは静かに言葉を紡ぎだした。
「......あんた、何者だよ。化け物かよ......あって10分の奴のことがここまでわかるなんてよ。」
カーターの問いにリーンはこう答えた。
「私は何者でもない、そして決していい人でもない。ただそれだけよ。
逃げてきたことを認めたも同然ね、、さああなたの剥がれた後悔は家族かしらね......」
そうリーンが言うと、カーターのクリスタルは音もなく、まるで砂のようにサラサラと崩れ去っていき、リーンのクリスタルが底についた。
「......勝負あったわね」
リーンがそうつぶやくと、カーターから光るものが出てきた。その光るものに手をかけようとしたとき、
「みゃう」
ミアが突然泣き、光るものを口に入れてしまった。
「ミア......あなたも”見えているのね”」
「秘密:『正義』を手に入れました。」
また、光はどこかへ行ってしまった。
「負けたよ。4枚のカードは持っていきな......」
うつむくカーターを横目にリーンは店を出ていった。
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「私が嘘の秘密を使わなかった理由、おばあさんは分かるかしら......」
そうつぶやき路地裏に戻っていった。
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「さあ、6枚の情報と使用料を払ってもらおうかしらね」
おばあさんはそうカーターに声をかけると、微笑みながらお金をおばあさんに渡した。
「リーン......か。でもなんかすっきりしたなあ」
そうつぶやき、カーターも外に出ていった。
続く
次回更新:2026年7月16日 18:30




