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世界中の能力を喰らい尽くす偽りの遊戯~とある終末の観測者より~  作者: 古谷 怜
第一部_第一章_リーン編

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第31話_目に見えている栄光と目に見えない影

「デシラ王城を包囲する、数千の魔軍。咳払い一つ聞こえないその静寂の中で、ガルドは短槍を握り直した。

『ああ、めんどくせえ……』

(なんでこんなことになっちまったんだっけか……。)

その脳裏に、かつてチットン共和国のコロシアムで浴びた、浅ましい歓声が蘇る――。

――時間は30日前に遡る。リーンがクロウと酒場で会う、さらに前の物語だ。


「第999回 コロシアム優勝者はガルドだーーーー!!」

 コロシアムの司会の男が発すると、コロシアムの観客は大いに沸いた。

「うぉぉぉぉぉ!スゲーぞ。これで10回連続の優勝だーーー!ガルドお前に賭けてよかったぜ!」

 そう言う観客に対し、ニヤリとも笑わずに右手に持った短槍を空に掲げる男がいた。

 髪は銀髪オールバック、顔は端正で、本当はどう考えているか分からないような青い瞳をした男、ガルドだ。


 コロシアムの熱狂が冷めやらぬ中、掲げた手を下げると、控室に戻っていった。


「はあ。うるせえな。自分たちでやってもねえのに、よく熱狂できるよな。そんなに興奮したいなら、お前らも戦ってみろっつうの。まあ、全員ぶっ倒すがな。......ただの暴力だろ」

 そう独り言を言うガルドに対して、コロシアムの運営が近づいてきた。

「ガルド様。今回も勝ちましたね。あなたのおかげでコロシアムに来る人も徐々に増えているんですよ。」

 運営主がそう言い終わる前にガルドは何も言わずに左手を運営に差し出した。

「......賞金。」

 運営主はため息をついて、手に持っていた賞金をガルドに手渡すと、ガルドは何も言うことなく、外に向かって歩いて行った。


「もう少し、愛想というものを持っていればファンが増えるのに......」

 運営主はガルドに聞こえないような声で、つぶやくとガルドが行った方向とは逆に向かって歩き出した。


 ーーー3日後

「ったく。なんだよ。急に呼び出しやがってよ。」

 ガルドは、コロシアムの場に興行主とどこか偉そうな高貴な服装をした男が来ているのを確認するとけだるそうに椅子に座った。


「ガルド。よく来てくれた。隣にいられるのは、チットン共和国の王都から代理で来られた方だ。次は記念すべき1000回目ということで、チットン共和国の国王が来賓として来られることになった。」

 興行主がそう言うと、ガルドはため息をついて話を遮った。

「んで?俺は今まで通りコロシアムの相手を殺せばいいのか?」

「いや。違う。今回のお前の相手は、チットン共和国の親衛隊の一人と戦ってもらう。といっても今まで戦ってきた相手よりおそらく弱いがな。ただし、お前には今回はわざと負けてもらう。」


 興行主が負けろと指示をしたことに対して、驚きと怒りを隠せないガルドを興行主がたしなめた。

「まあ、お前にとっても悪い話ではあるまい。チットン王国の後ろ盾をもらえれば、このコロシアムはもっと盛り上がる。そのための余興の一つと思ってもらえれば構わない。コロシアムが大きくなれば、お前へ渡せるお金も多くなるだろう。」

「ふざけんな。俺はわざと負けるなんて、納得できねえぞ。」

 ガルドはそう言うと、座った椅子から立ち上がり、外に出て行こうとした。

「勝負は明日、来ないならそれも良し、来るなら前回勝った額と同様の賞金をチットン共和国から出すそうだ。よく考えるんだな。」


 興行主がそう言うが、外に出ていく足を止めることなく、部屋から出て行った。

「......ガルドの奴は必ず言い聞かせますので、予定通りお願いします。」

 興行主がチットン共和国の代理の方に対して、深い礼をして丁重にもてなしていた。


 ー翌日

「ガルド、よく来てくれた。今日は頼むな。」

 興行主がガルドの肩をポンポンと叩くと、ガルドはいつもの通り手を出して、賞金を受け取る素振りを見せた。

「......金は?」

 ガルドにそう言われ、興行主は、袋いっぱいの金貨をガルドに手渡した。

「くれぐれも観客にバレないように頼むよ。特に国王様にはね。」

 ガルドは興行主に対して何も言うことはなく、控室に向かっていった。


「今日は記念すべき、1000回目のコロシアムの開催だーーーー。今日は王者ガルドに対して新たな刺客が現れたーーー。な、なんとチットン共和国の王様の親衛隊のグワンだーーー。」

 司会からそう紹介されたグワンは、全身に金やダイヤモンドの鎧を身に着け、細身の剣を天に掲げて大歓声を受けていた。


「対するは、10回連続、コロシアムの王者......ガルドだーーー」

 ガルドは紹介されるとコロシアムにいつもの姿で現れると、観客から太い声が方々から聞こえてきていた。


「ガルド!俺は、応援してるぜーーー。負けんなよ!」


「さあ、興奮冷めやらぬまま......試合開始!!!」


 最初に仕掛けたのはグワンだった。細身の剣を巧みに扱いガルドに攻撃のスキを与えないようにしていた。

「ガルドとか言ったか?ちょこまか逃げていて、まるで猿だな。その見た目といい、反撃してこいやぁぁ」

 シュッ!! スパッ!

 ガルドの肩や腕、足から少しだけ出血が見え始めていた。


 ガキン、キィーン

 対するガルドも短槍で突きの反撃をすると、悉く防具に防がれ、また反撃を喰らっていた。

「はあ、はあ、なあ、ガルド。お前のこと少し聞いたんだが、親を殺したんだってな......その結果、お前の槍術はバラバラ。まるで獣のような動き。俺様に勝てるはずがないだろ。」

 剣を振りながら冷笑するグワンに対して、キッとグワンを睨むとガルドは攻撃をいとも簡単にいなしながら、相手の近くで一撃を加えた。

「おい、あまり俺の過去を詮索するな。そして俺の前では話すな。忠告ではない。命令だ。」

「はあ、はあ、黙れ、親殺しという獣のようなことをしたやつに従う理由はない。」


 ゴトン!!

 グワンの足元には来ていたはずの防具が足元に落ちていることを確認するとすぐにガルドから離れるように動いていた。

「な、なぜ。」

 驚くグワンに対して、ガルドは怒りに満ちた表情でこう言った。

「俺はさっき言ったよな。その話をするなと。」

 ガルドがそう言い、荒い呼吸をしているグワンが息を吸った刹那。ガルドの短槍はグワンの心臓を貫いた。


 チャリン、チャリン、チャリン


 会場全体が沈黙に包まれる中、金貨が落ちる音だけが会場を響き渡らせていた。

「いくら、金があろうが、豪華な装備をしていようが、死んでしまえば関係ないのにな......」

 そうガルドは一言つぶやくと会場を出て行こうとしていた。


「第1000回、優勝者はガルドだーーー」

 司会がそうつぶやくと、会場は歓声と悲鳴が入り混じる異常事態となっていた。

 目を丸くするチットン共和国の国王と興行主に対して、会場は異様な盛り上がりを見せた。

 興行主は慌ててガルドを止めようと声をかけたが、異様な盛り上がりでその声が届くことはなかった。


「あ、あの。これは、何かの間違いでございます。必ず、必ずガルドの野郎を殺しますので......」

 慌てる興行主に対してチットン共和国の国王は、親衛隊を呼び寄せると、ガルドを追うように命令をした。

「ははは。構わん。チットン共和国は武力が全ての国。こんな獣にやられるやつなんぞ要らんわ。だが、あいつには落とし前をつけなければな。

 それに......このコロシアムへの援助はこれでなくなったな。すぐにでもつぶしてしまおうか。」

 国王は、穏やかにでも確実にガルドへの表には見えない憎悪を隠せないような様子でコロシアムを去っていった。


「ガルドめ......真っ先に見つけて殺してやる。」

 そういうと、興行主との遺恨だけを残して第1000回のコロシアムは幕を閉じた。

次回更新:8月19日(水)18:30

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