第29話_絶対者の権威と旧エルフの国
魔王ゼルが魔族の国を出たことを確認したクロウ達、セプテム・コルウスは、すでに国境の目の前まで迫っていた。
「さあ、ブクイ、セユキ、ヒジェ。派手に突入するとしますか!」
クロウが不敵に宣言すると同時に、異変を察した10名ほどの魔族の門番たちが、すさまじい殺気を放ちながらクロウ達5名を取り囲んでいた。
「おい、お前ら何者だ?ここより先に行きたければ、魔王様より許可をもらうことだな。」
門番の一人が鋭く威嚇する。
だが、巨漢の男、ブクイは、そんな警告など初めから耳に入っていないようだった。
「おい、どけよ。おら、殺されてえのか?」
尋常ではなく、まるで人ではないとも勘違いする筋肉の塊が、一瞬で門番へ向かっていき、抗う暇すら与えずに巨木のような腕が、門番の首をわしづかみにした。
ベキィッ!!
嫌な破壊音とともに、門番の体が力なく崩れ落ちる。
「お、いい筋肉してるじゃねえか。マズそうだけどよ......」
ブクイはそう言うと、まだぴくぴくと動いている魔族の腕をつかみ、信じられない顎の力で生身の肉ごと引きちぎった。
流れる鮮血を口元につけたまま、骨ごとバリバリ、くちゃくちゃとものすごい音を立てて咀嚼し始めた。
「おい、ブクイ。突入早々つまみ食いかよ。相変わらず汚ねえな。殺すなら跡形もなく殺せよ。肉片が散らばるだろ。」
そう言うとセユキは、向かってきた魔族の一匹の耳に愛おしそうにそっと触れる。
サラサラ......
触られた瞬間、魔族の肉体が不自然なスピードで灰色に変色し、叫び声をあげる暇すらなく、ただの灰となって消え去った。
「ねぇ、ブクイ、セユキ。何も殺すことはないんじゃない?こうやってさ......」
クスリと妖艶に笑いながら進み出たのは、ヒジェだった。
彼女が真正面の魔族達と視線を合わせた瞬間、魔族達の瞳からスーッと光が消え、人形のようにうつろになる。
「ひざまずきなさい」
その声に抗うすべはなく、屈強な魔族達が一斉に地面へ膝をついた。
「ほら。こうしてしまえば、殺すことはないのに。じゃあ、残りの魔族達をやっておしまい。」
そう言うと、ひざまずいていた魔族は、門番の魔族との殺し合いを始めた。
ヒジェが優しくささやくとさっきまで仲間だったはずの魔族達が、狂ったように血走った目で残りの門番に襲い掛かった。
こうして、ものの数分で堅牢を誇るはずの魔族の国境は、彼らたった3人の手によって、跡形もなく蹂躙された。
後ろで腕を組んでいて返り血一つ浴びていないクロウは、地獄絵図と化した国境を平然と通り抜け旧エルフの国がある方角へと足を向けた。
(くくく、エルフの国は昔から神に最も近い場所とされてきた。これまでの私の研究が正しければ、エルフの国には神に通ずる何かがあるはずだ。)
「さあ、行きましょう!旧エルフの国とやらへ。」
クロウの愉悦に満ちた声に応じるように、ヒジェに精神を支配された門番の一人が、虚ろな足取りで彼らの先導を始めた。
国境を越えて足を踏み入れた魔族の町の光景は、クロウ達が予想していたものとは全く異なっていた。
道端ではオークとゴブリンが談笑しながら果物を売り買いし、身なりも小綺麗で、貧困や暴力の気配など微塵も感じられない。誰もが互いの種族を尊重し合い、穏やかな活気に満ちていた。
「......ほう。確か内乱が起きていて、魔王ゼルが暴力に訴えて国を広げたと聞いていましたが......これは予想外ですね」
セユキは信じられないといった様子で、平和な町の人々を見回した。
「まあ、実際に目で見るまでは分からないってことですね。これだけでもこの国に来た価値はありましたね。」
セユキの発言に対し、クロウは町の人に目を向けることなくそう言った。
「ねえ。門番さん?この国は前からこうなの?」
ヒジェがそう言うと門番が口を開いて虚ろながらも答え始めた。
「はい。ゼル様が王になってからは、暴力による支配はなくなっています。どちらかというとルールを作ってそのルール通りに生活していれば、楽しく生きていくことができるんです。でもそのルールを破るものに対しては、ゼル様が自分で裁くんです。恐怖による支配とも違い、信賞必罰のルールになります。」
「そう。もう話さなくていいわ。」
ヒジェがそう言うと、門番は口を閉じた。
(......どうりでほかの国に向かっての侵攻はないはずだ。
ここまで統制し、国力を上げてきた魔王ゼル...さすがとしか言いようがないな。
でも、ゼルがいない今なら......)
クロウはそう思いながらも、町を素通りして、旧エルフの国へと足を進めた。
「着きましたね。」
そういうクロウの目の前には、高い城壁のようにそびえたつ塔のようなものがあった。
「なるほど。この塔全体が、旧エルフの国ってわけですね。完全に密室のようにもなっているし、これは好都合ですね。早速、塔の中にいるものを一人残らず殺しましょうか?」
クロウはそう言うと、ヒジェが操っていた門番の姿をコピーし、手には持っていなかった小さいナイフをいつの間にか身に着けて、塔の入り口に向かっていった。
(......相変わらずクロウ様の秘密はえげつねえな。”とらえ方”一つで何でも創造できちまうんだから、絶対に敵には回したくねえぜ......)
ブクイはそう思いながらクロウの後ろを進み始めた。
待ち構えていたのは、様々な種族が武器や防具を身に着け、いつでも戦闘できる臨戦態勢をとる姿だった。
塔全体からセプテム・コルウス達に向かって、声が聞こえてきた。
「ここに入れるのは、選ばれた人間だけだ。この塔に何の用か。お前らが、国境の警備隊を皆殺しにしたのは分かっている。まずは用件を言え。」
その声に対してクロウは擬態していた姿を解き、本来の姿になり答えた。
「くくく、ばれてましたか?ならこの姿である必要はないですね。それに用件ですか?この塔全体を奪いに来たといえばいいか......それとも”神になりに来た”とでもいえばいいですかね?」
クロウがそう言い切る前に、ブクイ、セユキ、ヒジェが目の前にいた6体の首を一瞬で刈り取って、あたりは鉄の臭いが漂った。
塔全体に警報のような音が響きわたっている中でまた声が聞こえた。
「こいつら......反逆者とみなす。全員殺せ!」
続く
次回更新:8月10日(月)18:30




