第28話_致命の一撃と怠惰の代償
「キィーン」
高い金属音が響き渡る。ムーレが短いナイフでリーンへ切りかかった瞬間、その軌道をレオンの無骨な大剣が強引に弾き飛ばしたのだ。
「おいおい、いきなり王の首を取れると思うなよ。その短いナイフで俺の大剣を防げるかな?」
不敵に笑うレオン。それに対し表情を一つも変えない。片手で持っていたはずのナイフを両手に持ち、一瞬で姿を消した。
(!!速い。そして人間の弱点をよく分かってそこを狙ってきている。このままでは......)
ヒュン、ヒュン!
ひと時も緩むことのない超高速の突きに、反撃をすることができず大剣を盾にするのが精いっぱいだった。
「人間にしてはよくやりますね。でもこの私のスピードには着いてこれまい。さらにスピードを上げましょう!」
ムーレは、遊んでいるかの如くナイフをくるくる回しながら、さらにギアを上げる。レオンにより速いスピードでナイフを持って近づいてくる。
(余裕......って感じね。あのレオンが遊ばれているわ。今私にできることは......)
「レオン。あと3分耐えられる?......ここまで言えば何をするかはわかっているわよね?」
激しいナイフの嵐を大剣で受け止めながら、レオンは決死の形相で首を縦に振った。リーンはその背中越しに、背後に控える少女へ鋭い視線を送る。
「カナエ。。もしもの時は、お願いね。あなたの力を貸してもらうわ。」
リーンの後ろにいたカナエに向かって小言でそう言うと、カナエは力強くうなずいた。
(この余裕を持っているノイズ、そしてムーレの怠惰という感情から考えて、今以上の攻撃速度を鑑みないといけない。でも私が今使える秘密は、”浮遊”だけ、それを踏まえると一瞬のスキを作らないと勝ち目はないわね。速度が上がることを前提としてムーレの動きを観察する必要がありそうね。)
リーンは冷徹なまなざしで、ムーレの動き、そして感情を見ながら、防戦一方のレオンを見つめ続けた。
(はあ、はあ、、ヤベェ。さらに速度が......)
ズバァッ!ザシュ!
鋭い閃光が走るたび、レオンの腕や足の防具が引き裂かれ、じわりと赤い血が噴き出すのがリーンからも見え始めた。
!!!
リーンはムーレの攻撃には特徴があることを認識した。
(ムーレの攻撃は目の前の敵を殺すために、すべてが理に適いすぎている。ということは、防御も兼ねた攻撃になっていることを考えると......弱点が分かるわね。)
ズルッ!!
その刹那、嫌な音が響いた。激しい猛攻に耐えかねたレオンの足が、床の血に滑ったのだ。体勢が大きく崩れる。まさに目の前のナイフが、その首筋へと突き刺さる軌道を描いた。
「これで終わりだ。お前も!!そしてこの国も!!!」
ムーレがナイフを下ろそうとしたとき、レオンの後ろから盾が飛んできた。
「レオン様。大丈夫ですか?」
カーターがレオンに声をかけ、ムーレが一瞬ひるんだ瞬間にレオンは立ち上がった。
「......レオン。ありがとう。あなたのおかげてムーレの動きが見えたわ。」
リーンがそう言うと、レオンはニヤリと笑うのと対照的に、一瞬ひるんだムーレ。
だが床を蹴って立ち上がったレオンの耳に後方からリーンの鋭い声が飛んだ。
「レオン、次よ!奴が体勢を立て直した直後、右足の踏み込みと同時に顔面へ最短ルートの突きが来る。......その場でしゃがんで、大剣を垂直に振り上げて!」
リーンの言葉を信じ、レオンは思考を放棄してその場に激しくしゃがみ込んだ。
直後、レオンの頭上が爆音とともに裂ける。言葉通り、ムーレのナイフが空を貫いていた。
ガキィィン!
「なっ......!?」
しゃがみ込みながらレオンが放った決死の斬り上げが、ムーレの顔面を捉えた。刃が頬を浅く割き、鮮血がジワリと滲む。
「な...私が傷を受けただと、人間から傷を受けたのは初めてだ。ふふふ、面白い」
ムーレは笑いながら、頬に着いた血を拭きとると、レオンの方を向いて、今まで以上の速度でレオンに近づいてきた。
「次、ナイフが左から三回攻撃が来るから、半歩前に出て大剣を振り下ろして、」
ズバァッ!
激しい肉声とともにレオンの目の前に、赤い血が噴き出す。だがそれはレオンの血ではなかった。
「指がぁぁぁぁぁぁ」
激痛に顔をゆがめ、ムーレが一瞬後ろに後退する。噴き出した血を止めようとするムーレを見ると右手の小指が無くなっていた。
(......よし。これで小指が無くなったってことは、ナイフを握る力は激減する。それを踏まえてナイフを弾くことさえできれば......)
ムーレの瞳から、それまでの『怠惰(余裕)』が完全に消え失せた。
背筋がゾワリと凍りつくような、圧倒的な殺気が周囲を満たし、木々までもがガタガタと震え始める。
(ムーレの感情から怠惰が無くなった。ここからが本気??)
その思考すら、遅すぎた。
勝負は一瞬で終わりを告げた。
グサッ!ズブッ!
「レオン様ぁぁぁーーーっ!!」
カーターの絶望に満ちた声が響き渡るとカナエは苦痛に耐えるような表情をするとそのままへたりこんだ。
「カハッ......」
嫌な音が耳を打ち、直後に焼け付くような激痛がレオンの心臓を貫いた。
「ハハハハ、私にダメージを与えたことは褒めてやろう。だがなあくまで俺の遊びの範疇ではな。一瞬で勝負がつくと面白くない。だから遊んでやったんだ。俺が本気を出したら、お前なんて一瞬でころしち......」
勝ちを確信するムーレだったが、ニヤリと笑うリーンの一言で状況が一変した。
「レオン。起きて。ムーレの心臓の位置は、右の脇腹よ。」
「へへ。一瞬俺の体が浮いたおかげで、完全に急所から外れたぜ」
レオンがそう言うとリーンはムーレに対して説明を始めた。
「不思議よね。だってあなたの攻撃は確実に急所を仕留めるはずだったんだもの。そしてその絶対にずれない攻撃こそがあなたの唯一の弱点。カーターからの盾の攻撃を防げなかったときに気が付いたの。外からの干渉は考えていないってね。そして予想通り、私はレオンの体を浮かせ、急所を外させた。あなたが貫いたのは心臓ではないわ。」
ムーレはその説明を聞きながらも後退しようとしていたが、一足遅い。レオンの大剣がムーレの脇腹へと突き刺さった。
ドスゥッ!!
「ガハッ。なぜ...それを......知っているんだ......」
「あなたの動きからね。無駄のない動きのあなたの型をよく観察すると、右の脇腹には致命傷が当たらないような攻撃をしていたわ。誰でもわかることじゃない。」
驚愕と絶望に目を血走らせながら、ムーレは真っ赤な噴水のような血を吐き出し、今度こそ物言わぬ肉塊となって床に崩れ落ちた。
「秘密:怠惰を手に入れました。」
無機質な声が聞こえると、その光は町の南の方に飛んでいった。
(!!!近くに何かあるのね。ゼルの方は大丈夫かしら)
リーンはそう思いつつ、レオンの治療のために血を吐いているカナエのそばに近寄った。
「カナエ。ありがとう。レオンが刺されたときダメージを肩代わりしたわね。確かにレオンは血が出すぎていたから死んでいたかも知れなかったから。」
リーンはカナエを抱きしめると、近くにいたカーターにカナエを預けた。
「後は、ゼルが戻ってくるのを待ちましょう。」
リーンはそう言うと、街の南側に目を向け待つことにした。
【リーン側の動き 了】
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一方、ゼルが魔族の国を出てから、セプテム・コルウスが不穏な動きを続けていた。
「クロウ様、魔王ゼルが予定通り軍隊を率いて、デシラ王国に向かったぜ。まだ一人来てねえけど、そろそろ行かねえか?」
「そうだね。行くとしましょうか。旧エルフの国の占拠へと......」
続く
次回更新:8月9日(日)18:30




