第26話_盤上の均衡と見えざる糸
「そう。このゲームの唯一の必勝法...それは引き分け狙いよ。」
リーンが小声でレオンとカナエに伝えると、二人とも驚いた表情をして、顔を見合わせていた。
「......珍しいな、お前が先に種明かしをするなんて。でもどういうことだよ。なんでそんな回りくどいことをしてるんだよ。親父からの命令はこの国から追い返すことだろ?」
レオンがそう言うと、カナエも首を縦に振りながらリーンの方を向いた。
「あなた達なら信じてもいいかなって......まあでもそうね。でもこの国から追い返す手段は問わない。とも言われたわ。
おそらくここで私が勝負に勝っても、さっきみたいに力勝負で来られたら終わりだわ。それに私が負けたら全員の命の保証はできない。
まずは、ゼル側の要望である王様との謁見をさせて、この国に来た真意を確認する。
なんか、ただ侵攻してきただけには思えないもの。おそらくゼルがこの国のルールを知らないことを逆手にとって操っているやつがいるわ。
王様に会う前にゼル側の裏切り者をつまみ出す必要もあったから。」
リーンの説明を聞いて理解した二人だったが、カナエがリーンに質問をした。
「でも......この点差はさすがにリーンだけではどうしようもないんじゃないかな。向こうの協力もないと...!!」
カナエはそう言いながらハッと気が付き、ゼルの方を向いた。
「そうね。でも首をつかまれたときにゼルとは契約済みなのよ。後は、ゼルが私の意図に気が付いて協力してくれるだけね。
そして、おそらくゼルは私が仕掛けた意図に気が付いているはず。うまくいくと思うから、見ててちょうだい。
後、レオン。あなたは戦う準備をしておいてね。」
リーンの発言にレオンは頷き、カナエはミアを抱えているのを確認したところで、テーブルに戻っていった。
「なあ、カナエ。あいつどこまで計算してやってるんだろうな。やっぱすげえや。」
リーンが去った後にカナエに同意を求めていた。
「実は、この国に戻る前に魔族の軍団に遭遇したらしいのよ。おそらくはその時にはすでに考えていた......と思う。そしてデシラ王への発言も全て計算だったのかも。ホントに頼もしいよね。」
カナエとレオンは、テーブルに戻るリーンの背中が大きく見えていた。
リーンがテーブルに戻っていくと、ゼルも続いて椅子に座り、ゲームが再開した。
7回戦の開始時、リーンはゼルに向かってこう言った。
「私は、”人”のカード。そして25点を出すわ。」
ゼルはニヤリとした表情を見せて、カードを出した。
その会話を聞いたムーレは、自信に満ちた表情をしてこう思っていた。
(くく...圧倒的な点差に頭がおかしくなったのか。もう勝ち目がないと分かって自滅をしてるじゃねえか。これでゼル様の勝ちは確定......)
「オープン」
2人がそう言った後に出てきたカードを見て、ムーレは驚きを隠せないようだった。
「な...ゼル様。なぜ?」
「負けたか。リーンの言ったことが嘘だと思ったんだよな。よし。次こそは勝つぞ。」
ゼルはムーレに向かってそう言うと、第8回戦が始めるとすぐに次はゼルからリーンに向かって点数とカードを言い始めた。
ゼルの対応を見てムーレは何が起こっているのか分からずに困惑し、自信に満ちた顔が徐々に焦りへと繋がっていた。ムーレは額から流れる脂汗を拭うのも忘れ、ガタガタと震える手で自分の点数表を何度も見返していた。
(......何が起こっているんだ。こんなの”あの方”は想定していなかったぞ。それも私への相談もなしに......このままでは計画が......)
そして10回戦
点差は、100点対100点の同点に戻っていた。
この結果を見て初めてムーレはリーンとゼルが仕掛けたこのゲームの攻略法に気が付いたがもうすでに遅すぎた。
(この女。引き分け狙いか。確かにゲームの開始前に勝てなかったら謁見をさせるといっていた。確かに10回戦が終わった段階で同点なら引き分けとなる...どこからこうなることを想定していたんだ?まずい。
あの方......クロウ様の想定外のことが起きてしまっている。)
「オープン」
リーン、”金”のカードで5点、ゼル、”人”のカードで10点 勝負は引き分けとなった。
勝負が終わった後、リーンの方から口を開いた。
「ゲームは終了ね。結果は引き分け。約束通り、私は勝てなかったから、デシラ王のところへ案内してあげる。」
リーンがそう言うと、ゼルは、座っていた椅子から席を立つと、後ろに立っていたムーレに向け、まがまがしい殺気を放つかの如く、ムーレの方に歩き始めた。
「ねえ。ムーレだったわよね。あなた、何でそんなに10回戦の開始前から震えているのかしら?ゼルを国外に出すことには成功したけど、想定外のことが起きているかのようね。」
リーンがムーレに向かってそう言うと、ムーレは顔についた脂汗を拭い、ゼルの方を向いてこういった。
「あ...いえ...ゼル様が勝てなかったのが想定外と言いますか......まさか勝てないとは思わず......」
ムーレの発言にリーンには複数の感情が伝わってきていた。
(......嘘ね。彼は何かを隠しているわ。動揺、恐怖、驚き、後悔、そんなマイナスの感情が入り混じっているわね。)
そういうムーレの発言に対し、ゼルはムーレの前に着いた。
「おい。ムーレ。想定外ってのは絶対に勝てると思ったときに言う言葉なのが常識ではないのか。
3回戦が終わった後、俺は土俵際まで押し込まれていた。
でもその時にはお前から動揺が見えなかったぞ。
だが勝負が引き分けに終わった今想定外と言うことは、まるで俺が勝つか、負けるかして初めて想定通りだったということだ。おい、何を隠している?
俺に言えないことなのか?真実を言え。」
ゼルの殺気に当てられながらも、言い訳をしていたムーレは、観念したかのようにうつむきながらも、にやけながら、ゼルに説明を始めた。
「クロウ様の指示のまま動いただけなんです。この国にゼル様を連れてきた目的......
それは、魔族の国の旧エルフ街をクロウ様達が占拠するためだったんです。
それでこの国で勝負をして、ゼル様が勝てばこの国も侵攻できましたし、
ゼル様が負ければ、魔族の国に戻った時に失脚させることができる。
それが我々、”セプテム・コルウス(七罪鴉教団)”の目的でした。
でももう遅い。セプテム・コルウス(七罪鴉教団)の旧エルフ街の占拠は終わっている。そしてこの国も!」
ムーレがそう言うのと同時に、南側で整列していた魔族の大群が空を震わせるほどの地響きと共に、雄たけびを上げ始めた。
デシラ王国の平和な空気が、一瞬で戦場に塗り替えられていくそんな感覚がこの国を襲った。
「ははははは。ゼル。お前の大軍はみんな俺の駒だ。この国をそしてゼルお前を滅ぼしてクロウ様の土産としてやろう。」
この状況を見ていたリーンは”クロウ”という言葉に反応しつつも、リーンにとっても想定外のこの状況をどう打開しようかと思考を巡らせていた。
(......これは、想像以上にマズいわね。)
続く
次回更新:8月7日(金)18:30




