第25話_魔王の威厳とリーンの失墜
「......どういうことだ?ムーレが裏切り者だと。なぜそんなことが分かる?」
ゼルは、リーンの顔を覗き込み、リーンの回答を待っていた。
「......まず、今私たち以外の人にはこの声ややり取りは聞こえていないし、さっきの首をつかまれた状態に見えている。事実誤認。私の”秘密”の一つよ。
ムーレは何で魔族の軍隊を連れてくるように命じたのか。そして、今魔族の国がどうなっているのか。不思議なことだらけだもの。」
リーンの説明を聞いて、ゼルもリーンが言いたいことが分かったようで、話を続けて聞いていた。
「......50対150......」
「......私を信じるかどうかは任せるけど、6回戦の点数状況だけ伝えておくわ。もしこの点数通りだったら、私を信じて。点数通りではなかったら、その時は私を殺して構わないわ。でも確実にムーレの後ろには何かがいるし、あなたが魔族の国にいないこの状況をわざと作りたかった。」
ゼルは、怒りを抑え、事実誤認の秘密が消えていくことに気が付くと、ムーレに向かってこう言った。
「おい、ムーレ。これ以上暴れるのは止めろ。」
レオンと交戦していたムーレはゼルの殺気に当てられて戦うことを止め、ゼルの元に戻っていった。
「皆、突然暴れだしてすまなかった。この通りだ。」
そう言うとゼルは自分の小指の爪を1枚自分で剥ぎ取り、テーブルの上に置いた。
「ゼル様......それは......」
ムーレがゼルの目を見て驚いていた。
「大丈夫だ。こんなものに痛みを感じる俺ではない。それよりおい、ムーレ。この国では、何か粗相をしたときに指の爪を剥ぐというのが、”常識”ではなかったか?」
ゼルの突然の行動に対して皆が目を丸くしていた。
「いえ、違うわ。誰から聞いたの。そんな”常識”」
さっきまで殺されかけていたとは思えないほど笑いながらリーンが答えた。
「さあ、続きをやりましょう。」
中庭を包む沈黙は、耳が痛くなるほどに鋭かった。テーブルに滴ったゼルの血の匂いが、春の柔らかな風に混じって鼻腔を突く。カードが机に置かれる微かな音さえ、誰かの命を削る音のように聞こえて、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
4回戦、5回戦を見たカナエは、目の前で起きている事実に目を疑った。
なんと、リーンの連敗。持っていた145点が80点まで落ちて散ることに驚きを隠せなかった。
余裕な表情のゼルに比べて、ことごとくリーンの読みが外れているのを、テーブルに滴る爪を剥いだ後の血が滴るごとにリーンを圧倒させているのが分かった。
(ここまで魔王ゼルを圧倒していたのに、リーンさん......ゼルの殺気に飲み込まれているように感じる......)
「ねえ、リーン。もう......頑張ったよ。もう、止めよう?」
か細く、リーンに声をかけるが、リーンは反応しない。
一度もこちらを向くことはない、状況にカナエは涙を流していた。
そんなカナエを横目に見たレオンは、カナエを自分の方に来るように言い、カナエはレオンの方に向かった。
レオンの横顔は、初めて会ったときから大きく違って見えた。以前の彼なら、リーンの危機に真っ先に剣を抜いていたはずだ。けれど今の彼は、ただ静かに、何かを掴み取ろうとするかのように盤面を見据えている。その静かな熱に、私は少しだけ救われた気がした。
「心配するな。点数はそうだが、リーンの顔を見てみな。」
そうレオンが言うとカナエはリーンのきれいな横顔を見ると、かすかに笑っているのが見えた。
「な、たぶんだけど、俺らには見えない何か一筋の光のようなものが見えている気がするんだよな......そう、目に見えているものだけが真実じゃないってな。」
「みゃう」
ミアが鳴くと、カナエの涙は自然と止まり、勝負の結末を見届けていた。
そして勝負の6回戦、ゼルは点数とカードを置いた。そして置いた後にさきほど、リーンが言ったことを思い出していたハッとした。
(俺の出した点数は35点。もし仮にリーンが30点を出して俺が勝つと150点。50点対150点の構図が完成する。俺はいつの間にかあいつの言った通りの点数に誘導されていたというのか。というかあいつは何者なんだ。どこからどうやってこの点数にたどり着いたんだ......)
目の前の女の笑顔が、もはや人間のものではなく、運命そのものを操る怪物のそれに見え、ゼルの背筋を冷たい汗が伝った。
ゼルがそう思っていると、リーンはゼルの驚いた顔を見るや否やニヤリとしてカードと点数を置いた。
「オープン」
勝負はゼルの勝ちだった。リーンは、”人”のカードで30点、ゼルは”金”のカードで35点だった。
リーン:50点 ゼル:150点
この点数はリーンたちにとっては絶望的な点差となった。デシラ王国側の誰もが敗北を確信しているとき、リーンそして、ゼルは笑っていた。
この時、ムーレは、ゼルが勝利することに確信を得たような口ぶりで勝負を急がせていた。
「ゼル様、このまま押し切ってしまえば我々の勝ちです。次を、次の勝負を早くしてください。」
「そう、急ぐなよ。ムーレ。それとも何か急いでほしい理由でもあるのか?」
そう笑いながら言うゼルに対しムーレは何も言い返すことはなかった。
「少し休憩の時間をもらってもいいかしら?」
リーンがそう言い、ゼルそしてリーンは席を立ちしばしの休憩となった。
「おい、リーン。大丈夫なんだよな。この点差を逆転して勝つのは難しいぞ。」
隣で震えているカナエに対して、レオンは笑いながら、リーンにほしいもと水を渡しながら聞いた。
(レオンは何か気が付いたようね。でも何もわかっていない。この私を信頼してくれているのが分かる。一方でカナエは......そうね。せっかく救われた命だものね。急いできた先に魔王がいて、それで負けそうな状況で不安になるのはしょうがないわね。)
ほしいもを一口ほおばると、リーンは、レオンとカナエ、ミアに対して話し始めた。
「まずは、レオン。どうムーレの強さは?あなた一人で勝てそう?」
レオンはそこかよと驚きながらも、少し前のことを振り返っていた。
「うーん。無理だね。勝てねえわ。力もさることながら、反応速度や戦闘慣れも含めて、3分抑えるのが限界だわ......一人ならな。」
レオンはリーンに協力をしてほしそうな目でこちらを見ているのに気がつくと、リーンはこのゲームについて話し始めた。
「そろそろネタ晴らしでもしましょうかね。この点数こそ世間知らずの魔王様との契約なんだもの。それに私がいつこの勝負に勝つって言った?」
レオンとカナエは不思議な表情をしてカナエが口を開いて追加で聞いた。
「どういうことですか?だって、デシラ王国には勝てって言われてるし、負けたら私たちが死ぬのよ......それに......契約って......」
リーンはニヤリと口角を上げながら、ゼルの方を指差した。
一方、ゼルは残りのカードの一枚にあることが書いてあることに気が付いた。それはムーレには気が付かれないようにカードから証拠を消して、リーンの方を見てニヤリと笑った。
そのカードにはこう書いてあった。
「引き分け狙い」
続く
次回更新:8月6日(木)18:30




