第2話_重なる嘘と消えない背中
体を刺すような殺気とそれに相反する不気味なほどに陽気な感情。
そんなプラスとマイナスの感情が渦巻く騒音に飲み込まれながら、金髪に隠れたきれいな二重の目をこする。
「うるさい……」
そうつぶやくと少しアルコールのにおいが残る口内に冷えた水を流し込んだ……
昨日のことは何だったのだろうか。クロウ、、そして頭の中に響く『看破』の無機質な声
「まあ、とりあえず街に出て、「情報」を集めましょう」
そうリーンはつぶやくと、何もない無機質な部屋から外に出た。
到底女性が一人では歩いているはずもない、物陰から漏れる下衆な笑い声、路地裏で交わされる怪しい取引。
それらが混ざり合うようで混ざり合わない中途半端な不協和音だらけのところをわざと歩く。
コツーン、コツーンとどこかで聞いたことのある靴の音が聞こえた。
「この音……どこかで……」
その音がするほうへ向かっていくと、昨日感じた殺気とは程遠い、だが何かがそこにはいる……リーンはそう確信した。
「早速、情報が歩み寄ってきたかな……」
少しゆっくりになる足音……だがリーンはそれには気が付かない……
「お嬢さん。こんにちは」
リーンは驚き、恐怖した。この声のかけ方……
間違いない。
「クロウ……」
リーンはそうつぶやくと咄嗟に距離を取った。
「おや。名前を覚えていただいたみたいでうれしいよ。でもどうしてそんなに離れるんだい?お嬢さんのほうから近付いてきたんじゃないか。」
そうクロウは尋ねると息をする間もなく、こう付け加えた。
「正確には、どうして殺気がないのかが気になるのかい?」
「大丈夫。今は何もする気がないから……」
リーンはクロウにこう尋ねた?
「私の秘密……どこまで知っているの?そしてクロウ。あなた自身のことも……」
クロウは不敵な目線をシルクハットで隠しながらこう答えた。
「少なくともあなた自身よりはあなたの秘密に近づいている……いずれ分かることさ」
リーンは混ざっている感情の中から唯一これだけを読み取れた……嫉妬。この感情はどこから来ている?そしてこの今までの人とは違う違和感は何?
そう考えこんでいると、クロウは澄んだ青空を仰ぎ見ながら、独り言のようにあるいは、はるか高みにいる者たちへ問いかけるようにつぶやいた。
「何が見えてる?」
はっと気が付いたらリーンはひとりでに言葉を紡ぎだした。
「リーン。私はリーンよ。」
クロウは不敵な笑みを浮かべながらこう答えると今度は靴の音がしないまま去っていった。
「~~は国を亡ぼす。」
何もされなかったことに安堵していると、一匹の猫が足元にすり寄ってきた。
「みゃう」
「ひゃっ……」
リーンが一瞬驚いた表情をした後に、猫に対して警戒を強めた。
「……なに……この猫」
そこにあったのは「無」。すべての生物には何かしらの感情や欲望があるのだが、この猫からは嫌なノイズも心地よいノイズも何も感じない。
「……私と同じなのね。行く場所も決まってないけど、来る?」
猫が青い目を細くして、また目を見開くと、光が一瞬現れたが触れることなくリーンは続けてこう言った。
「よろしくね。んーーっと、ミア」
「みゃう」
路地裏の女性が一人で歩いているはずのないところで、安堵する瞬間、十字路の端に人だかりがあるのを見つけた。
まるでそこにいるギャラリーが全て悪意に満ちているかのような、不協和音が周辺を取り巻いている。
「耳障り……」
そう人だかりに聞こえないような音量でつぶやくと、ギャラリーの真ん中にいた男性がこう声をかけた。
「お姉さん、この俺様と賭けをしないか?」
……来た。リーンはそう直感で確信した。それは、以前にも似た感情を見ていたからだ。
圧倒的な自信、自分を天才と信じてやまないバイアスの偏り。そして、頭にガンガン響いてくる低音の圧倒的なノイズ。
「面白そうじゃなーい。いいわよ。あなた誰?」
そうリーンがいかにも騙されやすそうな感じで返すと、悔しそうな表情をして、こう答えた。
「俺様は、コヤ。この辺をうろついていて、俺様の名前も知らないとは、とんだ世間知らずの女だな」
「ふふ……ごめんなさいね。初めてこの路地に通りかかったんだもの。それでゲームは何をするの?」
リーンは流すようにそう答えると、コヤは気にも留めることなく、ゲームの説明を始めた。
「簡単さ。3枚の紙には本当か嘘のことが書いてある。それを当てるだけさ。」
「ただし嘘は1回のみしかついていない」
コヤがそう答えると、リーンはルールを快諾した。
(……「嘘は1回のみ」ね。あの秘密を使ってみようかしら?)
猫のミアが静かに見つめる中、ギャラリーは興奮しながら、ゲームが始まった。
ゲームが始まり紙を置く前にリーンが尋ねた。
「ねえ。聞いていなかったんだけれど、私が賭けに負けたら何を渡せばいいの?」
そう聞かれたコヤはリーンの全身をなめまわすように見た後で興奮しながらこう答えた。
「金目の物すべて……だ」
「分かったわ。コヤだっけ?確認なんだけど嘘は一回しかついていないのよね」
リーンがそう答えると自信満々に首を縦に振った。
「……笑える」
リーンがコヤに聞こえないくらいの声でそうつぶやいた。
「さあ、この3枚の中で嘘はどれだ?」
コヤは興奮収まらない下衆な表情をしながら、リーンに質問した。
(……あれ。看破を使ってもこの3つの紙からは嘘のノイズが走らない?なぜ?)
リーンが焦った表情を見せるとコヤはこう答えた。
「はやく、嘘をついているのは一回だけだよ。はい。あと10秒ー」
そうコヤは急かすと、リーンは一枚の紙を指さした。
「この紙でいいのか?」
リーンは何も答えない。
「3,2,1 ゼ……」
「みゃう」
突然ミアが鳴いた。
「……ミア。ありがとう。さすが私と同じ感情を持っているだけあるわね?」
リーンはハッと気が付き、そうつぶやくとコヤの口を指さして続けて答えた。
「コヤだっけ?これ以上は何も言わないほうがいいわ。だって正解はあなたの口が発したもの」
「どういうことだよ。説明しろよ」
動揺と焦燥を隠しきれていないコヤを冷めた目で見ながらこう答えた。
「あなた、嘘は一回のみしかついてないと答えたわよね。でも3枚の紙の中から嘘を見抜けと、、」
「・・・?」
コヤは何も答えない。いや何を言われているかが分からないから、答えられないのだ。
「……簡単な話よ。その『3枚の紙に文字が書いてある』という前提そのものが、あなたのついた、たった一回の『嘘』でしょ?」
「その紙自体がブラフ……いやおそらくは白紙のままのはずよ。どうせあんたが触れば嘘の内容、私が触れば本当の内容が現れる算段ってとこね」
本質を取られられたコヤは焦りながらも、まだ自信があるようでこう答えた。
「証拠はどこにある?お前か俺様が触らずに表にする方法なんて、、、そうだ周りのみんなが表にしてみろよ」
そう提言して、コヤの隣にいる人が触ろうとする瞬間にリーンは尋ねた。
「あなたたち全員がグルよね?」
「じ、じゃあどうやって確認をすればいいんだよ。」
コヤはかなり焦りと恐怖を感じながら聞いている。
「ミア。お願い」
そうつぶやくと、ミアがテーブルの紙をすべて表にした。
「……やっぱりね。ミアありがとう。」
コヤは観念したようで、負けを認めた。
「ミアがいなかったら私このゲーム負けてたかも……」
そうミアにつぶやくと、ゆっくり瞬きを2回した。
リーンはコヤに向かってこう聞いた。
「あなたの負けでいいわね」
「はいぃぃぃ」
その瞬間、コヤの中から光るものが出てきた。その光に触れると自分の頭の中にまた声が響いた。
「秘密:『嘘』を手に入れました。」
また、光はどこかに行ってしまった。
昼下がりの路地裏には似合わない澄んだ青空が眩しくリーンに光が差す。
「……眩しい。自分は影なのに……」
そうつぶやき路地裏を出て、すぐそこにあるほしいも屋さんでほしいもを買って、帰り道でほおばる。
「お酒がなくてもおいしい」
次回更新:2026年7月14日 18:30




