第1話_「目に見えるものと見えないもの」
この世界には目に見えるものと見えないものが存在する。
金、外見、権力、感情、、、そんなものばかりだ。
この国の人間は、誰もが自慢げに「秘密(能力)」をひけらかす。
視界の端で、自慢げにお酒のチェイサーとして、水をグラスに入れたり、ここぞとばかりに腕相撲対決をする。
8割の人間が何かしらの特別な力を持っているこの国では、酒場でさえも自慢の場所となってしまっている。
他の人が黒い感情をもって秘密を使っているときそれはノイズとして彼女の頭の中に入ってくる。
「……うるさい」
廃れた酒場の隅でボソッと一人の女性が消えるような声でそうつぶやいた。
「目に見えているものだけが全てではない……」
そうつぶやくと酒とほしいもをもって、周りの自慢している人たちとたわいもない会話を始めた。
「えーー。すごーい。そうなんだーーー」
他の人の話を聞いているかのようで聞いていない適当な相槌を打っている。
「私はリーンって言います。お兄さんがたはすごい秘密を持っているんですねーー。羨ましいな」
この人たちからは嫌なノイズがしない。彼女はそう感じるや否や酒場の常連さんと雑談を始めた。
10代後半の女性は、顔の乗った顔立ちをしていて、凛としているが適度な距離感を保ち、誰とでも話ができるタイプだ。
「……一人入れるか?」
息をのむような一瞬の静寂……風が吹き荒れているであろうドアが開いて、周りを見渡してから、コートを着た男性がお店のマスターに尋ねた。
「何を飲む?」
酒場のマスターがそういうと、少し考えた表情をし、何かを言いかけてやめ、メニューを見ることなくこう答えた。
「酒とほしいもを……」
「!!!」(なぜおなじものを!!)
その瞬間、リーンは何かを感じた。この店でこの組み合わせを頼むのは自分だけだ。まるで自分の過去の選択を見られているような……と。
そう思い、入ってきた男性のほうを見ると不思議な感覚に襲われた。
(感情が……見えない?いろいろ入り混じってる?)
嫌なノイズはしない。ただ不気味にその感覚だけがリーンの中に入ってきた。
「お嬢さん、こんばんは」
その男性は、不気味な笑みを浮かべながら、リーンのテーブルの上にあるほしいもに目をやって、そう言った。
「こ、こんばんは、仕事終わりですか?」
そう言葉を紡ぐリーン目がけて、男性は隣に座り始めた。
「んーー。仕事終わりっていうか……なんだろうね。」
「ほしいもってさ。素材の味をうまく生かせているから、そのお店のことが一番”分かる”って思わない?」
男性は回答をするわけでもなく、リーンを推し量るがごとく聞いた。
「そ、そうですね。素材の味に加えてお店独自のエッセンスがあって、どこに行っても楽しめますよね」
不気味な笑みを浮かべる男性に向かって、愛嬌はあるが、防衛線を張っているかの如くそう答えた。
「エッセンス、、ね。なんか「秘密」みたいだよね。」
そう男性が言うと、空気が一変したのがリーンだけでなく、周りの人も感じ、一瞬の沈黙がお店中を駆け巡った。
やばい、、回答を間違えた……リーンがそう感じたのだ。
続けて男性がこうリーンに発した。
「ちょっと賭けをしてみない?ここに3枚のカードがあるでしょ?」
黒いコートの中から、3枚のカードを取り出した。3枚とも白紙だった。
「この中の一枚に細工をしてあってね、君が正解のカードを引けば、文字が浮かんでくるんだ。どう?やってみない?」
そう男性がリーンに対して、質問を投げかけた。
「え、、急にどうしたんですか?この賭けをして、私にとって何になるんですか?」
リーンは、愛想を振りまきながらそう答えた。
「ん?何にもなるかもしれないし何にもならないかもしれないね」
そう男性がつぶやいた直後にリーンの耳元で声色を急に変えてこう答えた。
「”秘密を奪う”」
リーンは血相を変えてこう答えた。
「ど、どこでそれを……」
「やるってことでいいよね?」
男性が続けさまにこう答えた。
「……分かりました。ルールは何ですか?」
リーンはその言葉に感情を振り回されるかのようにそう答えた。
「簡単だよ。この3枚のカードから1枚を選ぶだけだ。それ以外は何もないよ」
男性はそう答えると、リーンは回答を待たずにこう返した。
「カードの選び方は自由ってことね。じゃああなたが持っているカードから一枚選んで机の上に置くわ。」
リーンがそう答えると、男性は首を縦に振った。
………静寂………
お店の中で騒いでいる人の声がなくなり、聞こえるのはカードを混ぜる音と外の風の音だけ。
「はい。じゃあ選んでね」
そう男性は伝えた。
リーンは先ほど耳元で言われた内容に驚きと恐怖を感じずにはいられないまま、ゲームは始まった。
初めのアクションはリーンからだった。
「カードに触れるのは問題ないわよね」
そういいながら、一番左のカードに手をかけながら、そう男性に問いかけると彼は少し驚いた表情を見せた。
このカードは男性が持ってきたもの……ということは少なくとも男性の思念が含まれているはずだ。
この男性の感情はいろいろ混じっているが、あのカードだけは感情が一つしかない。
………焦燥だけ。でもブラフかもしれない。そう思いリーンはカードをとるふりをして、その男性のほしいもに手をかけた。
一瞬、手をかけようとしたそのカードからほしいもに離れたときに男性から驚きと安堵の感情が見えた。………これだ。
「あなた、その油断命取りよ。ほしいももそうだけど”目に見えているものだけが正解”ではないわよ。」
リーンはそう言い、一番右のカードを選択した。
一瞬の緊張……カードには正解の文字が見える。
「………面白い。さっきの発言はよくわからないけど、正解だ」
男性からは、何の感情も感じないことにリーンは恐怖した。
その瞬間、その男性の中から、何か光って出てきた。周りには見えていないようだが、その光に触れると、自分の頭の中に声が響いた。
「秘密:『看破』を手に入れました。」
そう頭の中に響くと光はどこかに消え去っていった。
………この光はどこへ行くのかとリーンがそう感じると男性は机から立ち上がった。
「今回は私の負けだ。楽しいゲームに参加してくれてありがとう。」
そういうと酒とほしいもを一気にほおばり、お店を後にするのだった。
「私はクロウ。~~」
リーンは確かに名前だけは聞こえていた。
「クロウ………」
その言葉を発した時の感情は、殺気そのものだった。
「風のように去っていったな………さあ続きを楽しもうか」
そうマスターが言ってくれたおかげで、それ以降は楽しくお酒を飲みかわす、いつもの日常に戻っていった。
続く
次回更新:2026年7月13日 18:30




