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世界中の能力を喰らい尽くす偽りの遊戯~とある終末の観測者より~  作者: 古谷 怜
第一部_第一章_リーン編

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第19話_過去との決別と未来への伏線

 静寂......

 誰もがワコルの勝ちを確信した瞬間に血を吐いて倒れたはずのリーンが起き上がった。


「な......なぜ......俺の毒は完ぺきだったはず。なのになぜ立ち上がれるんだ?」

 驚き腰を抜かすワコルを横目に、息も整わぬうちに真っ青な顔をしながら、ごみを見るかのような冷たい目線をワコルに落としながら、リーンは魔具の元に近づいて行った。」


「答え合わせの前にこのゲームを終わらせなくてはね......確かこの”フロア”にいる奴隷の中から3人の魔法の秘密を持つものを探すのよね。

 確かにあなたの認識では2人しか用意していなかったようだけど、実はもう1人あなたの奴隷はいるわよね。」


 そう言うと、リーンと同等に真っ青な顔をしながら、血を吐いているカナエを指さした。

 指を差されたカナエは、リーンの意図を理解し、絶望に顔をゆがめながらも口に着いた血を拭きながら、ふらふらと魔具の元に歩いて行って、手をかざした。


 室内の空気を塗り替えたのは、あまりに無機質な黄金の輝きだった。毒に焼かれる肺の喘ぎさえ、その静寂に呑まれて消える。ワコルの絶望を照らし出し、リーンの傲岸を祝福する光。網膜に焼き付く黄色は、盤面が完全に支配されたことを残酷に告げていた


「な......黄色。正解だと......」

 そう息子が言ったのと同時に、ワコルが袖に持っていた毒が床に落ちて、瓶が割れる音だけが、響き渡る。

「ゲームは私たちの勝ちね。」

 そう言うと、カナエのそばで、毒に蝕まれた体を支えきれなくなって、ガクッと膝をついた。


「......どういうことだ。あいつが魔法の秘密なんて持っていないはずなのに......」


「はあ...はあ...あなた魔法を何だと思っているの?目に見える魔法の秘密が全てではない......そんなの常識じゃない。」

 リーンは意識はそのまま、茫然としているワコルに答えた。

「カナエの秘密を私も詳しくは知っているわけではないわ。でも彼女の表情、しぐさ、奴隷のみんなからの信頼。そこからカナエがこれまでどんなことをしてきたのか、どんなことを自分に課してきたかが、少しばかり分かるわ......

 あなたは人を人として見ていなかったってことよ......」

 そう諭すリーンにワコルは顔を上げることはできなかった。


「俺の負けだ。殺すなり好きにしな......」


 ワコルが負けを宣言しようとしたとき、息子が魔具を投げ捨て、手元に持っていたナイフを魔具の近くにいたカナエの首に当てた。

「俺はおやじの負けを認めない。こんなのズルだ。この女さえ死んでしまえば、このゲームは無効になる。」

 カナエは必死に抵抗をしようとするが、血を吐いて力も入らない状態のまま動くことはできなかった。

「......はあ...はあ、もういや。助けて......」


(まずいわね。私も嘘や増幅、そして看破を使っていて、これ以上体に負荷がかかれば、命がどうなるか分からない。すでにカナエが拘束されている以上、浮遊でも逃がすことができないわ。でもどうにかして助けないと...)


「ははははは、息子よよくやった。そうだ。殺せ。確かにこの女さえ死んでしまえば、ゲームは続行だからな。」

 この状況を見てワコルは笑いながら、息子の方に女を殺すように指示をした。


(本物のクズね。でも確かにギャラリーの皆はワコルの味方だし、もう一滴毒を飲んだら確実に私かカナエは死ぬわね。)

 リーンがそう思いながらも体を動けずにいると、息子がナイフをカナエに向かって突き刺そうとした瞬間、大剣を持ったレオンが一閃、ナイフに向かって真空刃を飛ばした。


「おい。いい加減にしろよ。見苦しいぞ。お前たちはズルをしてゲームに挑み、ルールに則って勝った俺らをズル扱いだと......どこまで腐ってやがるんだ。」


 目の赤身は消えた。でも確実に周囲に向けられた殺気をもって、一歩、また一歩と息子のところに近づいて行った。


「ちょっとまっ...」

 リーンがそう言う間もなく、レオンの大剣が息子の心臓を貫いた。



 手応えは、驚くほど重く、そして生々しかった。

 肋骨の間をこじ開け、鋼がその『核心』に触れた瞬間、掌にドクンと大きな脈動が跳ね返ってきた。それが最後だった。

 次の瞬間、剣を通して伝わっていた確かな熱は霧散し、レオンが支えていたのは、ただの重い肉の塊へと成り果てていたがその感触は怒りでレオンは覚えていなかった。


「リーン、悪い。もう無理だわ......ここにいるやつ全員ぶっ殺さねえと納得できないぜ。」


 リーンとカナエはこれまで見たことがない表情のレオンに後れを取って、何も言えなかった。


「みゃう。」

 その瞬間、ミアがレオンの肩に乗って、目から1滴、2滴と涙を流した。

 それを見たレオンは、我に返り死んだ息子を横目にカナエを抱えて、リーンのもとに駆け寄っていった。


「悪い。また俺......しかも今度は、殺しちまったようだ......約束を違えちまった。」


 純粋に力を求めていたレオンが、リーンの顔を見ることなくそう言うと、カナエが涙ぐみながら、レオンの肩に顔を擦り付けた。

「また助けてもらって、本当にありがとうございます......ごめんなさい私......」

 その表情を見たリーンは何も言えずに、ワコルのほうを見てこう言った。


「ねえ。ワコル。あなたの負けでいいわよね。それとこの町からも......そうしないと......いえ。これ以上は......何でもないわ。」

 ワコルはうなだれながら首を縦に振った。


 ワコルから光が出て無機質な声で、リーンの耳にこう聞こえてきた。

『秘密:事実誤認を手に入れました。』


「ねえ、一つ追加で教えてほしいんだけど、死んだ息子は魔法の秘密は持っていないのよね?魔具を使って風の魔法を使っていたのかしら?」

 リーンは確認すると、ワコルは小さな声でこう言った。

「あれは、あの国の人が渡してくれた魔具だった......これ以上は死んでも言えない。」


 ワコルはそういうと何も話さなくなった。

「そう...一つ教えてあげる。あなたの毒の調合は完ぺきだったわよ。でもね。かなり発酵した感じの臭いがしたわよ。後は味の酸味もね。もしこれが無味無臭になれば......」


「おい、なあ......もう行かねえか。こんなとこにいたくねえ...それに解毒剤とかないか探してえよ......」


 レオンが申し訳なさそうな声でそういい、リーンたちはアジトから出て行った。


 続く

次回更新:7月31日(金)18:30

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